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滞仏日記「お父さんが怖いのよ、とママ友に言われた。やれやれ」 Posted on 2022/01/03 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、今日は息子とマイカーでパリ中心部のカフェへと向かった。
知り合いのカメラマンさんの指導を息子が仰ぐことになり、その引率である。
ぼくが二人をつないだので、成り行き上、同伴はしょうがない。
実は、息子に言いたいことが山ほどあったので、車中で、話そうと思っていたのだけど、車が動きだした途端、イヤホンを付けて、大音量で音楽を聴きだし、想定内のことだけど、なんとなく遮られちゃったァ~。笑。
オペラのカフェのテラス席で、小一時間カメラの使い方などを息子が習っているのを横でじっと見守る父ちゃん。
受験が迫るこのタイミングでカメラの使い方を学ぶこと自体、どうなの、と思うけど、息子が何かに集中するのはいいことだから、紹介者として、見守った。
パパに対しては無口な息子ではあったが、大先輩を前に、借りてきた猫のようなまじめさで、普段見ることもないしおらしさ、おかしくもあった。
真剣な目で大先輩の説明に耳を傾ける息子を見ながら、「好きなことには人一番集中する」その姿を見て、お金持ちにはなれなくても、自分の好きな世界で生きればいいのかもしれないな、と改めて思った次第である。
法律や政治の世界には、絶対、向かない気はしていたし・・・。
来週、担任の先生との親子面談がある。
ぼくは先生に「この子の可能性として、どこの学校に行けるのか、どういう未来を描くのがこの子らしいのか。この国でどういう仕事をして生きていくのに適していると思うのか」を聞きたいと思っている。
志望校は全部無理と言われるかもしれないし、適合能力がない、と言われるかもしれない。何を言われるのかわからないけど、勉強嫌いだった自分を棚に上げてこの子にだけ期待するのも筋違いというものであろう。

滞仏日記「お父さんが怖いのよ、とママ友に言われた。やれやれ」



不仲になったママ友たちのぼくへの評価は「教育姿勢が甘すぎる」「子供を甘やかしすぎる」
というのが大半で、ぼくはそれを昨年末に遮って、その方々とは、半ば縁を切った。
正月早々、縁を切るとは、怖い話しだけれど、人のことはいくらでも言える。そのくせ、自分は何もできてない。そういうママ友の世界にうんざりしたのである。
ぼくよりうんと若いママ友たちに偉そうに意見を言われ、実は、ぼくの心がショートしてしまった。
あんなに仲良しだったママ友たちだけれど、もちろん、離婚後の苦しい時期を支えてくれたお節介なママさんたちだけど、立ち入ってほしくない部分もあるので、しばらくの間、距離を置くことにした。なるようにしかならない・・・。
ぼくは気難しいし、正直なのだ。
嘘の笑顔は向けられない。
今日もとあるママ友に、「あの子はお父さんが怖いのよ。だから、時々、あなたとどうやって向き合えばいいかわからないみたいよ」というようなありがたい意見を頂戴した。
しかし、そういうことを他人から、訊きたくない。自分はできているのか、と言い返してやりたかった。
でも、親なので、息子との縁を切ることはできない。
親バカと言われても、ぼくは耳をふさいで、今は前に進むだけである。
片親なので、なおさら、ここは信念でやり通すしかない。
親というのはなんと面倒くさい生き物であろう。
「息子が自分で決めることだから、なるようにしかならないし、はっぱかけてもやらない人間は動かないのだ。でも、好きなことなら、死に物狂いでやる」
最近は、その方々に、こう伝えている。
カメラとか音楽機材への執着は尋常ではない。
ならば、大金持ちになれなくても、そういう道に進めばいいのじゃないか。
そこは自分がよく知る大変な世界だから、今までは言い出せなかったけれど、ぼくの仲間たちはほとんどが、その道のプロで、よく生きているし、素晴らしい連中で、その厳しさにお前がついていけるなら、やればいいんじゃないか、やらなきゃわからないだろ、と言うだけである。
お金やキャリアを選ぶのか、自分の好きな世界で生きるのか、・・・。
ぼくにはママ友たちのような教育観がないので、正直、わからない。彼女らが言う、成功、が何を意味するのか、もう、ぼくにはわからない。

本当の教育というのは、学歴や成績を上げるだけのことじゃなく、生きがいのある人生へと導くことかもしれないね・・・。

滞仏日記「お父さんが怖いのよ、とママ友に言われた。やれやれ」



というようなことが昨年末から、いや、一昨年くらいからふりかかり、その上のオミクロンなので、ここのところ、いまいち、気分が上がらず困っている。
これから自分はどこへ向かうのだろう、という漠然とした悩みが不意に浮上し、明るくふるまってはいるのだけど、笑顔の後ろ側に、釈然としない未来が横たわっているのも事実で、笑う度、心根が引き攣ってしょうがない・・・。
その釈然としない未来はぼくをどうしようというのだろう。
ぼくは残された時間でやらなければならないことがまだまだ、たくさんある。
でも、作品作りに没頭したくても、生きることそのものや、子育てのせいにはしたくないが、仕事に集中できる環境がないのが現状である。
そのことを誰かに相談したいけど、実際、相談できる相手もいない。
なので苦しい時は、ギターをひいて、没頭し、自分を忘れることに努めている。

滞仏日記「お父さんが怖いのよ、とママ友に言われた。やれやれ」



どちらにしても、4月か5月くらいには、息子の進路もだいたい見えてくる。あと、10日で、息子は18歳、成人となる。
ここに引っ越して3年、そのほとんどが水漏れや漏電と戦った日々であった。
残念なことに、このアパルトマンは外れだった。←今頃、気づいたか・・・。
カルチエ(地元)の人々は素晴らしく、居心地がいい家だけれど、息子の巣立ちと共に、ここは解約し、新しい生活へさらに大きくシフトするつもりの父ちゃんでもある。
息子は寮に入れる。
そこで、アルバイトをしながら、生きてもらう。
ぼくの厳しさは、そういうことだ。高校を出たら、自力で生きてもらう。

つづく。

滞仏日記「お父さんが怖いのよ、とママ友に言われた。やれやれ」



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