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滞仏日記「もう、春を待ち望んでいる気の早い、孤独な父ちゃんのグルメ」 Posted on 2022/01/04 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ママ友もうるさいし、教育の価値観が違いすぎるので、ぼくはパリの教育的喧噪を離れて、オミクロンが落ち着くまで田舎に籠ることにした。
医師でもあるオリビエ・ベラン保健相もWHOのテドロス事務局長も、「新型コロナは年内に収束」の可能性を(なんとなく)口にしだした。
ワクチンの接種如何によるが、という前提なのだけど・・・。
でも、パリも7割以上がオミクロンで、今亡くなられている人はほとんどがデルタ株が原因だったりもするので、もしかすると、やはり噂通りオミクロンは弱毒化しているのかもしれず、ベランさんもテドロスさんも、何かわかってることがあるのかもしれないな、と勘ぐりつつも、まだまだ安心はできないので、というのも、ぼくの周囲はみんな陽性者か濃厚接触者ばかりで、あまりにもの凄い勢いの感染力だから、感染したくないなら鍵をかけて家に閉じこもるしかなく、学校も再開されたので、息子が無症状で持って帰って来る可能性もあり、どこで地雷を踏むかわからないような戦場にいるのは間違いなく、とりあえず、受験&コロナから逃げて、田舎に避難隔離をすることになった。

滞仏日記「もう、春を待ち望んでいる気の早い、孤独な父ちゃんのグルメ」

※ 若いカップルには愛しか見えない。ぜんぜん若くない父ちゃんには愛がゼロ。あはは・・・。



昨日のパリ最新情報でもお知らせしたとおり、フランス政府はワクチン接種済みの濃厚接触者で陰性の人は隔離しないから、仕事していいよ、という新方針は、まさに、コロナ流行まる二年が過ぎた今を物語る仰天エピソードなのだけど、日本ではどうニュースになっているのであろう。
ぼくの知り合いで家族全員陽性になったにもかかわらず、働いている友人がいる。もちろん、彼は(何度正式なテストをしても)陰性なのだけど、他の国では隔離なのである。なのに、この国では、陰性証明があれば会社に出ていいのだ。で、なんで政府はそんなこと許可したのか、大手自動車会社に勤務する友人のジャン・リュックが教えてくれた。
「いや、もう、そうしないと社会が回んないんだよ。感染者が多すぎて、区別もできないし、そもそも、飛行機なんか飛ばなくなるし、バスだって、電車だって、一人感染者が出たらみんな濃厚接触者になるわけでしょ。残された人間への負担が大きくてね、つまり、それだけ陽性率が上がってるということで、オミクロンごときでみんな休まれたら、うちの部署、業務出来なくなっちゃう。フランス経済が終わってしまう。実際、生産ラインが止まりかけてるんだよ。政府も国が止まったら、アウトだからね、仕方がない方針だと思うよ」
「ありゃ、それ、困ったね」
「イタリアは屋内、交通機関内はFFP2(日本だとN95みたいなマスク)以外、ダメになったみたいだし、フランスもそうなる可能性があるって、もう、普通の安いマスクだと外出できなくなる世界が迫ってるかも」
「え? あ、だから薬局に積み上げられてたんだね」
「そう、買っといたほうがいいかもよ」
ということで、田舎に行く前に薬局に顔出したら、抗原検査を待つ人が薬局の外まで長蛇の列を作っていて、怖すぎて、あの中に入る勇気はなかった。
田舎に着いても、コロナ検査テントには行列が出来ていた。今のところ検査は無料なので(ワクチン接種者のみ)、みんな必死で受けているという状況なのである。



ぼくは作家だから、パソコンと携帯があればどこでも仕事が出来るけど、ジャン・リュックみたいに工場の責任者とかは休むことが出来ない。
会社も、会社員も、政府も今、これまでにないほど、大変な状況なのである。
一日も早い朗報を待っているのだけど、うううむ、何をてこづっているのであろう。
なので、ぼくは家事からも離れたいし、少し田舎で仕事に集中し、この状況から精神的逆隔離をしておくことに決めたのだ。
「うん、ぼくは大丈夫」
と息子は言った。
「じゃあ、何かあればすぐ帰るからね」
冷凍庫にびっしり、炊いたご飯とか、ポテトとか、魚のフライなどを入れ、冷蔵庫には市販の弁当ボックス系を詰め込んで、他にもいつものように、野菜とか果物とか・・・。
ぼくは出発した。



そして、正月だし、田舎の建物には誰もいなかった。裏庭の掘っ立て小屋に一階のフランケンさんの息子(プルースト君と呼んでいる)、といってもたぶん、50歳くらいじゃないかと思うのだけど、青髭君がいるはずだけど、上から見た感じではいるのかどうか、分からない。静まり帰った一月三日のフランスの田舎であった。
ぼくは歩いて、近くのスーパーに行き、食料と飲料を買い込んだ。
おせちづくりに全精力を傾けたので、暫くはぼくもお惣菜系で済ませることにした。といっても、スーパーなどに並ぶフランスのお惣菜は日本人、とくにぼくのような食の細い人間には暴力的なほどバター感が強く、頂けないのでハムとかジャガイモとかチーズとかバゲットなどを買った。おせちで使った残りもののトリュフ(すでに香りが飛んで、ただの黒い塊なのだ。獲れたてじゃないといけない)をチーズにかけて、なんとなく美味しそうになったけど、実は、それほどでもない、笑、・・・ワインで胃に流し込んだのであーる。
孤独ではあるけど、今は仕方がない。
ここは集中して、創作に没頭するしかないだろう。
「缶詰め」ということで、来春から連載がスタートするかもしれない「三田文学」さん用の長編小説に没頭したい。

つづく。

滞仏日記「もう、春を待ち望んでいる気の早い、孤独な父ちゃんのグルメ」



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