JINSEI STORIES

滞仏日記「一足早く、三四郎の家が届いた。なんかワンルームマンションみたいな」 Posted on 2022/01/12 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、バンバン、感染者が増えていて、ぼくが暮らす地区の知り合いで罹ってないのは、ぼくと息子だけじゃないか、という感じになった。
陽性者じゃなくても、濃厚接触者だらけで、オミクロンの感染力、侮れない。
ぼくの知り合いで、ぼくに負けないくらい神経質な高齢の編集者ステファン(ファイザーを三回接種済み)が感染したと連絡があった。
ニコラとマノンのお父さんもどうやら感染したみたいだし、ピエールとアドリアンもたぶん、罹ったとは言わないけど、「重症じゃない」という変な返事が戻って来るし、絶対、罹ってる感じなのであーる。
ピエールに至っては、
「ちょっと風邪っぽいから近づくな」
と通りの反対で叫んで、ごほごほ、している。
近づけと言われても、やだよ。
・・・いやはや、凄すぎる。
2020年3月の状況とは、いろいろな意味で、ぜんぜん、違ってる。
ウイズ・コロナって、嫌な響きだけど、2022年はそれを真剣に模索する年になるかもしれない。うまく言えないけど、上手に恐れる、という感じかな・・・。
このままではフランス人のほとんどが、いや、欧州人のほとんどが、感染をしてしまう、勢いを前に、ただただ、茫然としている状態なのである。

滞仏日記「一足早く、三四郎の家が届いた。なんかワンルームマンションみたいな」



世界がそんなに大変だというのに、予定よりも早く、三四郎の家が届いてしまった。
息子は学校だったので、一人で組み立てた。
そもそも、IKEAの棚とか作るの苦手なタイプで、図工もあんまり好きじゃなかったから、重たい箱を見て、ぎょえっとなった父ちゃん。
しかし、それでも三四郎のためだと思うと、どこからともなくエネルギーが湧き上がってくる。で、あっという間に完成してしまったのであーる。

滞仏日記「一足早く、三四郎の家が届いた。なんかワンルームマンションみたいな」



牢屋みたいだ、とか、留置所みたいで可哀そうだ、とか、いろいろご意見はあるでしょうが、ぼくも牢屋みたいだな、と思ったけど、フランスのネットではこういうものしか見つからなかった。これが一般的なのであろうか・・・。
しかし、ぼくの家の古風なインテリアと合うようなケージがなかなか見つからなくて、インテリアにもなる木目調のとか、あるにはあったのだけど、でも、それが50キロ超あって、重すぎて断念した。
日本のアイリスオーヤマさんの可愛い色合いのもあったので、めっちゃ迷ったのだけど、何せうちの家、築120年超だから、モダンなものが似合わない・・・残念。
なくなく、巨大な鳥かごのようなものになってしまった。
三四郎には落ち着いて暮らしてもらいたいので、雰囲気のある布をかぶせるつもりである。夜は布で暗くするのだ。
最初は玄関の「文学」と描かれた書の前に置いてみたのだけど、人が通るところは犬は落ち着かないというアドバイスを頂き、ぼくの書斎の机の向こう側に移動させた。
ケージの前が窓になっているので、外も見えるし、ボレー(雨戸)を閉めれば暗くもなるし、机の下をぼくが覗くと、三四郎の家の中が見える仕組みで、うふふ、仲良く合図を送りあえるじゃんね・・・、お互い寂しくないのであーる。

滞仏日記「一足早く、三四郎の家が届いた。なんかワンルームマンションみたいな」



息子が帰ってきたので、
「ちょっと見るか」
と仕事場に連れて行ったら、おおおお、と感動していた。
「結構、大きな家だね」
「んだね」
「いいんじゃないの?」
息子君も家族が増えるのが待ちきれないみたいなのであーる。
「学校、どう? 感染は?」
「うちのクラスは大丈夫」
「オッケー」
ともかく、息子も喜んでくれたし、うっしっし・・・。
そうこうしていると、再び、ドアベルが鳴った。
「どなた?」
「あまぞーん」
あれ? 荷物を取りに下りて行くと、おおお、犬用の歯ブラシであった。
あはは・・・いろいろ、買ってるじゃんって、当然なのである。
赤ん坊が生まれるのと一緒だから、いろいろと買わないと育てられない。
犬も歯を磨くというのを知って、衝撃が走ったのはつい昨日、Amazon・プライムで買うと、翌日、着いちゃう。便利な時代であーる。
で、ぼくが買った歯ブラシは、指サックのやつ。
ネットで調べたら、自分でやるのとか、いろんなのがあったけど、やっぱり飼い主がやるのが一番よ、と書かれてあり、従ったのだ。
なんでも、従う父ちゃんなのであーる。

滞仏日記「一足早く、三四郎の家が届いた。なんかワンルームマンションみたいな」



ところで、三四郎のことばかりやっているのだけれど、実は息子が明後日、1月14日、ついに18歳、フランスにおける成人を迎える。
で、知り合いのフランス人シェフの星付きレストランを予約しておいたら、
「やだよ。やめてよ、そんなの、行きたくないよ」
とめっちゃ渋い顔をされた。
「えええええ、せっかく、星付きだぜー―――」
「星なんか興味ないもの。ぼくはたこ焼きがいい」
「た、た、た、たこ焼きだとォォ」
「そういうものが誕生日に食べたいんだよ。日本に帰れないし」
ぎゃふんとなった父ちゃんであったが、息子らしいので、たこ焼きにしようと思った。
誰か呼んでパーティにしてあげたいけれど、今はコロナで無理だ。辛い青春期である。
なので、何か、一生ものを買ってあげたいとは思っている。
でも、それが何かわからない。彼曰く、ほしいものはない、のだそうだ。
カメラは永久貸ししたし、ジンバル(移動しながら安定的な映像を撮影できる道具)もセットで買ってあげたし、服は必要ない、今ので十分だよと、断られるし・・・いらないのだから、これも、しょうがない。
とはいえ、何もないじゃ、可愛そうだ。
何か記念に残るものを一つ、明日は探しに出てみるか・・・
あと、2日で成人になる我が子よ、楽しみだね。
ともかく、14日は、父ちゃんにとっても「息子を成人させることが出来た」一大記念日になるのである。

つづく。

滞仏日記「一足早く、三四郎の家が届いた。なんかワンルームマンションみたいな」

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