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滞仏日記「いいことがいっぱいあった日、ありがとう、三四郎。父ちゃんは前進する」 Posted on 2022/02/08 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、今日は朝から、いいことがいっぱいあった。なぜだろう。
いいことが起これ、と願ったこともない。でも、ぼくは昔から、諦めるのが得意じゃなかった。だから、諦めないでいたら、いい日も来る、ということだろう。
その中身に関してはまだ言えないことばかりだけれど、でも、コロナ禍で中断していた様々な創作活動にいきなり、いくつかの微かな光りがさしてきたのだ。
諦めないで続けてきたことが、実現出来るかもしれない、というのは嬉しい。
とくに、今年の秋にパリ最大の音楽堂でのライブを計画してきたのだけど、そこに大きな協力者が出現した。(もうダメかな、と思っていたけど、ぼくの友人のしまちゃんに、しまちゃんが誰かはおいおい話しますが、ぼくはコロナ禍のこの世界だからこそ、日本人としてパリの歴史的劇場に立ち、荒城の月を熱唱したいんじゃー、応援せんかぁ、と迫ったら、最初は、なんでパリのライブをぼくがお応援しなきゃならないの、と言われて、焦りつつも、いや、日本がいま元気ないから、パリで「荒城の月」を歌ってだな、地球の裏側から日本を応援したいんじゃー、と坂本龍馬ばりに、言ってやったら、その意気込み、いいね、応援する、となった。笑。大丈夫でしょうか・・・でも、いい兆し)
コロナ禍で何度も諦めかけていたことだけど、諦めなかったから、こうやって救世主が出現したのかもしれない。諦めていたら、当然、出会えなかった。
早く、皆さんにご報告出来るように頑張っているけど、「荒城の月」をフランス人の前で歌って、日仏を繋ぎたいよね。
もちろん、おなじみディープ・フォレストにも参加して貰いたい。←ただの希望。笑。

滞仏日記「いいことがいっぱいあった日、ありがとう、三四郎。父ちゃんは前進する」



ぼくは62歳だ。しかし、大家じゃないので、いろんなところで小バカにされる。
ちゃらちゃらしているわけじゃないのだけど、いつも笑顔の父ちゃんだから、へらへらしているように見えるんかな。
でも、ぼくはそういう時、なにくそ、と自分に言い聞かせ、一切反論もしないし、週刊誌のようなメディアに好き勝手書かれてもその怒りをエネルギーに利用してきた。
ぼくは「絶対負けない」と自分に言い聞かせてきた。
シングルファザーになった8年前も、メディアに叩かれて、毎日、お弁当しか作ることがなかった時にも、朝早く起きてお米を研ぎながら、頭の中には、長大な小説の構想や、webサイトを作ってメディアに頭下げないで済む自分のメディアを作ろうという構想とか、いつかフランスや欧州に自分の歌や映像を届けたいとか、日本で批判されるなら、世界に出ればいいじゃん、などと思って頑張ってきた。それが本来のぼくなのだ。
でも、そういうぼくを支えてくれているのが、毎日、コメントをくれるお会いしたこともない、あなただったりする。ありがとう。

滞仏日記「いいことがいっぱいあった日、ありがとう、三四郎。父ちゃんは前進する」



昔、離婚後、ぼくは自腹ツアーというのをやった。
その時のレコード会社がいきなり弱腰になり、マネージメントをキャンセルしたので、自分一人で全国のライブハウスを回らなければならなくなった。
レコード会社を責めることもできないが、チケットを買ってくれたファンをがっかりさせるわけにもいかない。
その時、名古屋の会場の外で、見知らぬ高齢のマダムがぼくに近づいてきて、封筒をポケットに押し込んで消えた。
新幹線の中であけたら、息子さんとお二人を応援していますよ、という手紙と現金だった。
ぼくは寄付はしたことあっても、ひと様からそういうものを貰ったこともないし、困惑したのだけど、返せないし、それは今も、引き出しに保管してある。
でも、絶対負けない、とぼくはその時、もう一度思ったのだ。北海道から九州までたった一人で、回り切った。音楽は悲しい顔でしちゃだめだ、と自分に言い聞かせながら、ステージに立っていた。



ぼくは毎日、おもしろおかしい日記を書いているけれど、この滞仏日記や自分流塾の中で、ユーモアの中に隠した、父ちゃんの生きる信条を読み取って貰えたらなぁ、と思う。
62歳で、自撮りして、ロン毛で、シングルで、でも、それは重要なことじゃない。
ぼくにとって重要なことは、「絶対に負けない」という自分のポリシーだ。
誰に負けないか? それは当然、自分自身に対してである。

滞仏日記「いいことがいっぱいあった日、ありがとう、三四郎。父ちゃんは前進する」



今日、文芸春秋社の石塚さんから、3月18日発売の新書『ちょっと方向を変えてみる』の最終チェックが届いた。
今日の日記で書いたようなことやツイートをまとめたものだけど、この『ちょっと方向を変えてみる』というのがここ最近のぼくの人生観なのである。
大きく軌道修正をするのじゃなく、ちょっとだけ、向かう方向をかえたり、突入する角度をかえたりすることで、今の閉塞感を突破することが出来る、という読み物なのである。
ぼくはそうやって、どこかにたどり着こうとしている。

≪今日の三四郎≫
三四郎は日ごとに成長している。その速度は速い。夜は吠えなくなったし、ピッピは100%シートに命中、ポッポ(カカ改め、うんちのこと)は胴長短足なので、シートから半分はみ出してはいるけど、でも、そこでしなきゃならないことは理解出来たみたいだ。何より、よく食べ、よく眠り、ぼくをよく癒してくれる。三四郎、君は毎日100%で生きているね。父ちゃんは君を見習いたい。

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