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滞仏日記「ぼくの家の玄関に謎の老人が大挙押し寄せ、家に入れなくなった」 Posted on 2022/05/11 辻 仁成 作家 パリ

滞仏日記「ぼくの家の玄関に謎の老人が大挙押し寄せ、家に入れなくなった」

※ 海で三四郎とマットひいて、太陽を浴びた父ちゃん。日焼け止めクリーム&マスクでシミを予防しながら・・・。笑。

滞仏日記「ぼくの家の玄関に謎の老人が大挙押し寄せ、家に入れなくなった」

某月某日、夕方、三四郎と海まで散歩をした後、戻ってきたら、ぼくが暮らす館(ぼろぼろの古い建物のこと)の玄関ポーチに見かけぬ老人たちが屯していた。
かなりの人数で、そのせいで、大きな扉がふさがれており、入れない。わ、なんだ?
お爺さんたちはタキシードみたいなちゃんとした服装をしている。お婆さんも、綺麗な身なりをしており、その中の、エリザベス女王のような貫禄のお婆さんと目が合った。
ぼくがあまりに汚いTシャツを着ていたので、ちょっとなんか、気まずい。でもね、ここはぼくんちだ!!!
お婆さん、目を細め、ぼくを睨んでる?
「あ、いや、決して怪しいものではないんです」
思わず、日本語が飛び出し、ますます、怪しい感じになった。
お婆さん、疑うような目で敷地に入ったぼくを睨みながら、隣にいる背の高い将軍のようなお爺さんのタキシードのすそを引っ張った。
お爺さんがぼくを振り返る。笑顔だったが、ぼくを認めた瞬間、不意に目を細めた。
怪しいのかもしれない。
ロン毛だし、そういえば、髪洗ってないし、三四郎は海で濡れて泥だらけだし・・・。怪しまれて当然かもしれない、笑。
それにしても、玄関ポーチにぼんやり佇む大勢の老人たち、・・・なんで、ここに?
三四郎が怪しい老人たちに向かって、うううう、と狩猟犬らしく唸り声をあげはじめたので、気持ちは分かるけど、大丈夫だから、とまずは三四郎を宥めた。
すると、ご老人が、
「何かね」
と言った。何かね、ってこっちが聞きたいわ。
「あ、いや、ええと、ここに住んでるんですけど・・・」

滞仏日記「ぼくの家の玄関に謎の老人が大挙押し寄せ、家に入れなくなった」



すると、数人の年配の方々がこちらを振り返った。みんな新月のような目をしている。怖い。
「ここに住んでる? ここにかね?」
「そうです。最上階なんですけど、このわんちゃんと」
老人たちが、ざわざわしはじめた。
「どうされましたか?」と恐る恐る聞いてみたら、先ほどのエリザベス女王のような人が、
「ムッシュ・・・・に招かれたのだけど、ドアが閉まっているし、ここじゃないのかしらね?」
「ああ、ここです。二階のムッシュ。どうぞ」
ご老人たちは玄関を振り返って動かなくなった。ん? あ、ドアが閉まってる? おかしいな、カギはかかってないのだけど・・・
「ちょっとすいません。開きませんか?」
と言いながら、ぼくが進み出て、ドアを押し開けると、普通に開いた。
確かに、ちょっと古い扉なので開きにくいのは事実だけど、まるで執事さんが開けに来るのを待っているような、そういう自分には関係ない感・・・。怖いものなどはない、誰かがドアくらい開けに来るだろう的な、この長老たちの集団である。あはは。
「二階ですよ。どうぞ、その奥の階段を上がってください」
ぞろぞろと入り込む老人たち。ぼくが最後になったが、これは失敗であった。
ちょっとご高齢な方が多いからか、階段を上るのにやたら時間がかかった。
ぼくと三四郎はその列の一番最後を登ったので、とにかく、進まない。
大丈夫かな、と思うくらい足取りがおぼつかないご老人の集団を見上げる子犬・・・。何か、二階のムッシュのところでパーティがあるのかもしれない。
二階の矍鑠とした紳士の家の扉は開いていて、その人たちがぞろぞろと中へ入っていった。やれやれ。

滞仏日記「ぼくの家の玄関に謎の老人が大挙押し寄せ、家に入れなくなった」



まもなく、パーティがはじまったのか、人々の話し声が聞こえてきたので、仕事場の窓から下を覗いたら、二階の人の家の庭に、大勢の人が・・・。おおお、ガーデン・パーティじゃないか。これは本格的である。
大きなテーブルが置かれ、ワイングラスがすらりと並び、お酒や食べ物がかっちょよく置かれてある。そのテーブルを囲んで、さきほどのご老人たちが歓談をしている。
これから、夜になるにつれて、大勢の人が集まって来るのかもしれない。実にフランス的なホームパーティであった。
誰かがギターを弾き始めた。お、ミュージシャンの登場である。言ってくれたら、ぼくが演奏をしたのに・・・。笑。

滞仏日記「ぼくの家の玄関に謎の老人が大挙押し寄せ、家に入れなくなった」

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それにしても楽しそうだ。人生とは、一生こうやって楽しんでいいのである。誰にも憚る必要がない。
先ほど、ぼくを細い目で睨んでいた女王陛下も、殿下もいる。
みんな、ワイングラスを片手に、笑顔を浮かべて歓談をしている。
よく見ると、誰かのお孫さんか小さなお子さんも走り回っていた。
もしかすると、二階に住む矍鑠とした90代のあのお爺さんの誕生日会かもしれない。
長生きをするということ、それを喜ぶ家族や仲間がいるということ、独身のぼくからすると、実に羨ましい光景であった。
「じゃあ、サンシー、ぼくらもパーティをやろうじゃないか」
ぼくは三四郎と仲良く二人でパーティをすることにした。
ぼくは白ワインを片手に、そして、三四郎にはお水と、小さなお皿に数種類のドッグフードを並べてあげた。
パーティ・スナックみたいなものを拵えたが、これは、一瞬で三四郎の胃袋に消えてしまったのであった。あはは。
三四郎は、まだ、パーティの愉しみ方がまだ分かっていないのである。

つづく。

今日も読んでくれてありがとう。
やれやれな毎日ですが、かわいいはずるかですね。笑。
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※ 三四郎スナック、チキンのクラッカー、人参スティック、ラムスティック、そして、ドッグソーセージ!!! 三四郎の大好物ばかりであーる。



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