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退屈日記「三四郎が出会った田舎の動物たち。平和な時間」 Posted on 2022/05/12 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、パリにいると、周りはコンクリートだらけなので、散歩に行きたがらないのだけど、田舎だと外に出るのが楽しいみたいで、
「散歩行く?」
と聞くと、三四郎は顔をふりあげ、うんうん、行く、という顔をする。あはは。
一回の散歩にだいたい、1,2時間は歩き回っているので、毎回大イベントだし、当然、いろいろな動物に出会う。
一番のライバルというか、どう接していいのか、三四郎が悩んでいるのが、かもめだ。フランスの田舎のかもめは巨大で、もちろん、三四郎よりもどんと大きくしっかりしている。
お茶をしていると、普通にやってくる。三四郎は一応、こう見えても狩猟犬なので、向き合うのだけど、鳩やカラスのようにはいかない。
かもめは意外と強いし賢いので、三四郎はどう対応していいのか悩みながら、今のところ、恐る恐る、距離感をはかっている感じである。
今日、一羽のかもめが近づいてきて、三四郎と1メートルほどのところで対峙となった。
お互い、様子をみているが、鳥と犬なので、心が通じ合うものはなさそうで、結局、近づいてきたかもめが、アクションを起こさない三四郎に業を煮やして去っていった。笑。
「三四郎、かもめは賢いからね、飛びかかる時は気を付けなさい」
と一応、言っておいた。

退屈日記「三四郎が出会った田舎の動物たち。平和な時間」

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漁港の裏路地の一階の窓があいていて、犬のおじさんが顔をだしていた。
「やあ、君は小さいね」
と犬のおじさんが三四郎に声をかけた。三四郎はびっくりして、立ち止まり、暫くおじさんの顔を見上げていた。まるで人間のような知的な顔の犬のおじさんだった。
三四郎はどうしていいのかわからない。
犬のおじさんはしきりと小さな声で、三四郎を羨ましがっていた。
「海に行くのかい? いいなぁ。ぼくも行きたいけど、連れて行ってもらえないんだ。ぼくはお留守番だよ。いいなぁ、海は楽しいよね。君が羨ましいよ」
間違いなく、そういうことを犬のおじさんは三四郎に向かって語っていたのだけど、三四郎は、人見知りだから、あ、犬見知りだから、それ以上の会話にはならなかったのが残念である。
「おじさん、さようなら。三四郎、行こうか」
ぼくは三四郎にそう告げた。

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三四郎にとって、海は特別な場所になりつつある。
海が好きなんだろうなぁ、というのがよくわかる。砂浜を走り回る三四郎は楽しそうだ。
パリだと公園が唯一走り回れる場所だけれど、範囲は限られているし、芝生だけど人工的だし、その点、海は砂なので大違いだ。
リードを外してあげて、浜辺では自由にさせている。放し飼いなのだ。
波打ち際まで果敢に走っていき、ばしゃばしゃと水飛沫をあげて、喜ぶ三四郎。なんともかわいい眺めである。
三四郎が走り回っている間、ぼくは波打ち際で貝を拾っている。コックと呼ばれる貝が砂浜のあちこちに顔を出している。ほとんどはかもめに食べられているのだけど、今日は難を逃れた貝が結構いた。三四郎がやってきたので、貝を見せてあげた。
「これは貝という生き物だよ。ほら」
三四郎は匂いを嗅いでいる。なんだこれ、という好奇心旺盛な目で見ていたけれど、それ以上の興味は示さなかった。笑。
このあたりには、巻貝やアサリやクトー(マテ貝)が生息している。でも、ほとんどがかもめたちに食べられてしまう。けれども、殻の硬いコックは比較的生き残っている。
味噌汁にでもしようかな、と片手に入る分だけつかんで、三四郎のポッポ(うんち)ビニールにつめこんで戻ることにした。食べるんかい!!

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三四郎が走っていると、どこからともなく犬が挨拶にやってくる。最初は怖がっていたけれどジュリアの訓練校で他の犬たちとの交流機会が増えたからか、三四郎は近づく犬を受け入れるようになってきたし、自分から挨拶にいくようになってきた。
そこに一匹、ころっとしたプードルがやってきた。三四郎とはすでに顔見知りの「アヌシュカ」である。
ロシア語の名前のついた犬はけっこう、多い。
ジュリアの犬訓練校には「プーチン」という名前のオスのハスキーがいる。今から名前を変えられない。
「プーチン、バカなことやめなさい」と飼い主が大声を張り上げるたびに、みんなが困惑している。
三四郎にとってアヌシュカはこの浜辺で最初の友達ということになる。
飼い主のナタリーさんは海沿いの館で暮らす高齢のマダム、映画のプロダクションに長年勤めて、定年退職し、17平米のアパルトマンを買って、今はアヌシュカと二人で生きているのだ。
「ここは犬天国ですよ」
ナタリーが走り回る二匹の子犬を眺めながら言った。

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退屈日記「三四郎が出会った田舎の動物たち。平和な時間」

ぼくはナタリーと並んで佇み、アヌシュカと三四郎を眺めた。
こうやって親しくなる飼い主もいるけれど、だいたいは、素通りになってしまう。
飼い主にとって犬の散歩は早く終わらせたい毎日の行事の一つ。みんな忙しいので、仕方ない。
ナタリーは定年退職をして時間を持て余しているので、時間がある。
「もうちょっとすると、干潮がピークになるから、あの岬の海面が下がって、砂地が出るので、そこを回り込むと、隣の・・村まで歩いて行くことが出来るわよ」
「そりゃあ、すごいですね」
「ええ、あっちの浜辺も広大だから、でも、満ちる前に戻らないと何キロも山道を歩かないとならなくなるから気を付けてね」
三四郎はアヌシュカと遊びたいのだけど、アヌシュカはそうでもないみたいで、乗ってこない。三四郎もやっぱり犬なんだ、と思う瞬間である。
今日はいろいろな生き物と知りあえた一日であった。

※ 今日のダイエット日記。
毎日、腹筋をやることにした。100回を2セット、繰り返している。ちょっと腹筋が痛いけど、割れそうな予感。
ともかく、今日で3日目なので3日坊主は免れるかな・・・。

つづく。

今日も読んでくれてありがとう。
コック貝は味噌汁にしないで、あとで海に返してきます。笑。
今回の文章教室は、より具体的な書き方を一緒に学べる会にしたいと思っていますよ。
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