JINSEI STORIES

滞仏日記「不安だらけのこの世界だが、今日も三四郎は元気だ。GOGOサンシー」 Posted on 2022/05/23 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ぼくの今の一番の心配事は、果たしてぼくは予定通り日本に行って、日本から無事パリに帰って来られるのか、という問題である。
というのは、予約してあった飛行機がどんどん欠航になり、ぼくの帰国予定日、パリ戻り日も欠航→変更となった。
友人のシェフA氏は17日にパリ戻って来るはずだったが、さらに一週間伸びた。彼はまず5月初頭帰国が延期、その翌週が欠航、そして17日が欠航、で23日に延期になって、ずっと帰れないというのだから、凄すぎる。(たまたま不運なのかもしれないが・・・)
その間、店はずっと閉店状態だ。
もうちょっと何か方法はないのだろうか? いや、あるならやっているはずで、戦争の影響はすさまじいということか。
7月のぼくの帰国便もすでに欠航に、日程が翌日にずれ込んだ。帰りの便も欠航になり、翌日にずれ込んだ。
いつ日本にたどり着けるのか、予定通りパリに戻れるのかもわからない。ロシアのせいで、確実な計画が立てられずに困っている。

滞仏日記「不安だらけのこの世界だが、今日も三四郎は元気だ。GOGOサンシー」



心配事はそれだけではない。
帰国が航空便などの影響でA氏のようにぐんと伸びた場合、三四郎はどうなるのか、というもっと大事な問題が待ち受けている。
そこで、日本滞在が短い息子に(彼は二週間くらい従妹の家にお邪魔するだけ)、三四郎の面倒を看て貰えないか、ランチの時間に、依頼することになった。
「え?」
というリアクション。
「いや、不意に言われても・・・。それに」
「それに?」
「8月は友達と卒業旅行を計画しているんだ」
「ほー」
「大学が決まったら、寮とかいろいろと決めないとならないから、パパには早めに帰って来て貰いたい」
「そうなんだけど、わからないんだよ。こういう状況だと・・・。コロナで長いこと帰れなかったから仕事もぐちゃぐちゃなんだ。それに君はもう成人なんだから、自分で寮とか交渉しなきゃ」
というような話で、終わった。いやはや。
三四郎の運命やいかに・・・。

滞仏日記「不安だらけのこの世界だが、今日も三四郎は元気だ。GOGOサンシー」



滞仏日記「不安だらけのこの世界だが、今日も三四郎は元気だ。GOGOサンシー」

夕方、ぼくは三四郎を車に乗せて、海を目指した。
息子は学校があるのでお留守番となった。
こういう生活にもすっかり慣れてしまった。
「田舎に帰る、パリに行く」という感じになってきた。
田舎は自分の家なので、帰る、という感覚である。
パリは借りているアパルトマンなので、どうしても愛着がわかないのだ。あと数か月で離れるつもりなので、心は少しずつ引っ越しを始めている。
三四郎は車酔いもしなくなって、ぼくが運転している間は助手席でおとなしくしている。こういう静かな関係は悪くない。
三四郎は陰口も言わないし、人間の噂話から遠く離れている。心落ち着く存在である。
ぼくは車の中で歌い続けた。よこで静かに耳を傾けている愛犬。
実にいい関係である。犬は面倒くさくなくていい。
いてくれるだけで有難い存在である。
夏のあいだ、一緒に遊んであげられないので、今のうちにたくさん、遊んであげたい。
三四郎は海が大好きなので、浜辺を一緒に走ろうと思った。
3,4時間かけてやっと海の村についた。
夕陽が沈みかけていた。
三四郎がどんどん遠くへと走っていく。
ぼくは砂浜に座り込んで、見守った。
小さな点のようになり、波打ち際で飛び跳ねている。
無邪気に走り回っている。
天国のような風景であった。
太陽が三四郎の向こう側の水平線に沈もうとしている。
美しい世界であった。
さて、この夏がどうなるか、である。

3年間のコロナ禍のせいで、この夏は日本に帰る人が多い。
いつもならば、DSのライターさんとか編集者さんに鍵を預けるのだけど、みんな短期間ながら日本に戻るようだから今年はちょっと預けられそうにない。さて、困った。
ということで、ドッグトレーナーのジュリアに浜辺からメッセージを送った。
「三四郎のポンション(お預け)、ちょっと長くなりそうなんだけど、7月8月の予定は?」

滞仏日記「不安だらけのこの世界だが、今日も三四郎は元気だ。GOGOサンシー」



三四郎に家でご飯を食べさせていると、ジュリアから返事が戻ってきた。
「ムッシュ、私はいますよ。夏は他に預かるわんちゃんたちが数匹いるから、私は休めないの」
おお、良かった。
「そうなんだ。夏の間、ずっと面倒看てくれるんだね」
「ええ、喜んで。三四郎は私のベッドで寝かせているからどうぞ、ご安心を。私は旅行やバカンスよりも犬たちと過ごせる方が好きだから、休みなんか必要ないの。ムッシュ、日本を楽しんできて」
えええ、羨ましい。え? いや、三四郎が、
いやいやいや、そうじゃなくって・・・。
三四郎、ずっとジュリアのベッドで彼女にくっついて寝ちゃったら、ぼくの帰仏後、「ベッドに上げろ、なんでパパはジュリアみたいに抱っこして寝てくれないんだ」ってことにならないだろうか? 
ジュリアに懐いたら、もう、帰ってこないと言い出すかもしれないかなぁ。
でも、ぼくの元から離れて寂しい三四郎をジュリアが抱きしめて寝てくれるなら、むしろ、それはそれで安心である。ううう。
ぼくなんかより、若くて優しいジュリアの方が三四郎的には幸せかもしれない。
ああ、なんか、嫉妬しちゃうんだよな~。なんだよ、なんか、ムカッとするなァ。
ジュリアちゃん、一緒に寝ないでもいいんじゃないの?
と、やきもち焼きの父ちゃんは思うのであった。
さて、この夏はどちらにしても大きな試練が待ち受けているのであーる。

つづく。

ということで、今日も読んでくれて、ありがとう。
やけ気味の父ちゃんからのお知らせです。
マガジンハウスからは「パリの空の下で、息子とぼくの3000日」が6月後半に刊行されます。
正確な発売日とかは、お待ちください。
そして、辻󠄀仁成 アコースティック セレナーデ フロム パリ
Jinsei Tsuji Acoustic Serenade From Paris
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【ビルボードライブ大阪】(1日2回公演)
8/8(月)1stステージ 開場17:00 開演18:00 / 2ndステージ 開場20:00 開演21:00
[お問い合わせ] ビルボードライブ大阪: 06-6342-7722
〒530-0001大阪市北区梅田2丁目2番22号 ハービスPLAZA ENT B2
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【ビルボードライブ横浜】(1日2回公演)
8/12(金)1stステージ 開場17:00 開演18:00 / 2ndステージ 開場20:00 開演21:00
[お問い合わせ] ビルボードライブ横浜: 0570-05-6565
〒231-0003 神奈川県横浜市中区北仲通5 丁目57 番地2 KITANAKA BRICK&WHITE 1F
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発売日
Club BBL会員、法人会員先行=6/6(月)12:00正午より
一般予約受付開始=6/13(月)12:00正午より

地球カレッジ

滞仏日記「不安だらけのこの世界だが、今日も三四郎は元気だ。GOGOサンシー」

※ 三四郎は仲間たちと遊んでいる瞬間が本当に楽しそうなのだ。父ちゃんはそれを見ているのが本当に幸せなのである。



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