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退屈日記「父ちゃん、へとへと。三四郎の躾けに絶望の一日」 Posted on 2022/06/17 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、三四郎なのである。
何が三四郎か、というと、どんなに叱っても、聞いてくれないのだ。
そこはおしっこをする場所じゃない、と相当きつく叱っても、そこでまたするのだ。
「お前はバカか!」
たぶん、何も知らない人が我が家を覗いていたら、虐待、すれすれの叱り方なのだ。
でも、どんなに叱っても、きいちゃくれないさんちゃんなのだ。
「うわあああ、そこ、そこじゃないじゃー---ん、さんしーイイイイイ~」
三四郎は犬が電柱に後ろ脚をあげて、しゃーっとおしっこをするように、田舎のアパルトマンの壁、それも綺麗な白いペンキが塗られた大好きな壁に、しゃー、しかも大じょんべんやらかすのだ。
床に大きな水たまりが出来上がるという毎日なのであーる。
「あああ。それ、それ、それそれそれ、何度言ったらわかるんだよ、さんしー-----」
おしっこシートを目の前にして、壁におしっこをする犬の心境が理解できない。
「なんで、ちょっと考えたらわかるようなことをやるんだよ。おしっこシートを前にして、よくもまぁ、そんな顔で、壁に脚をあげて出来るんだよ!何度言ったらわかってくれるんだよ。ダメって、教えてるだろ? わからないのか、さんしー、いったいお前は何歳だ!!!」
まだ、生後8か月の赤ちゃん犬に、思わず怒鳴ってしまう父ちゃんなのであった。やれやれ。
しかし、・・・

退屈日記「父ちゃん、へとへと。三四郎の躾けに絶望の一日」



退屈日記「父ちゃん、へとへと。三四郎の躾けに絶望の一日」

で、父ちゃんが毎回、激怒するたびに、犬特有の、申し訳なさそうな、「やばい、これは叱られているな」という目つきをし、反省を表す。
あまりに、人間的な目つきで、顎を引いて、目だけでぼくを見上げて、すまなそーにするし、あんまりにぼくが激怒をするときは、逃げ出して、物陰に隠れたり、椅子の下とかに逃げ込んで丸くなっているのだけど、しばらくすると、床に水たまりが出来ているのであーる。
「あああああ、さんしーイイイイイ~」
ぼくがパソコンに向かって仕事をしている時に、床にしている音がする、慌てて、顔を上げた時はもう遅い、
「ああああああ、さんしー----、バカ! 違うって、何度言えばわかるんだよー、さんしー、お願いだから、もうちょっと賢くなってくれよー-----」
で、本人は、逃げ回るのだ。
ぼくはトイレットペーパーでおおじょんべんを吸い取り、その後、消毒液のついたシートで床を綺麗に拭き掃除するのだった。62歳の父ちゃんの一日は、ほぼ、これ。
で、最近は、おしっこをする時間がだいたい想像つくようになったから、その時間に三四郎を抱えて、5階から下の階まで降りる。(ミニチュアダックスフンドは胴長短足で脚が弱いので、階段を上り下りさせてはならない)
ぼくも腰痛持ちだし、62歳なので、ほんと、辛いし嫌なのだけど、頑張って地上階まで降りて、周辺を散歩させるが、しない、のである。
(パリは4階、田舎は5階、エレベータなし。毎日昇り降り、おかげ様で、父ちゃんの足は頑丈です!!!)
「さんちゃーん、お願いだから、ピッピとポッポ(おしっことうんち)してくれよー。ほんとう、お願いしますよ、三四郎さま~」
でも、しない。仕方がないので、抱えて、5階まで階段を上って、子犬を床に置いた途端に、しゃー----、とやって、
「あああああああ、何やってんだよー---、お前、ほんとうにどうなってんだよ!!! 頭、悪すぎないか、こらぁ!!!!!!!!!」」
となるの、分かって貰えますか?
でも、床におしっこが染みて新しい家が臭くなるのは嫌だから、父ちゃんは拭き掃除をするのであーる。
辛い・・・・。

退屈日記「父ちゃん、へとへと。三四郎の躾けに絶望の一日」



どんなに躾けをしても、YouTubeでプロのアドバイスも何度もみたし、ドッグトレーナーのジュリアにも相談をしたのだけど、・・・あの手この手をやっても聞いてくれない。すると、海ですれ違った、子犬の飼い主さんが教えてくれた。
「ああ、やっぱ、2歳くらいになると分かってくれますよ」
「ぎょえー---」
2歳!!! 
2歳までまたないとならないのか! というか、あと、1年2か月、ぼくは毎日、
「ああああああ、おい、おい、さんしーイイイイイ~、そこ違うだろ! どこにおしっこしてんだよ、こらぁぁぁ!!!! さんしーイイイイイ~」
と繰り返し、怒鳴らないとならないのか?
叱られて、逃げ回る三四郎なのだけれど、一時間後には、スタスタと何食わぬ顔で、ぼくの元にやってきて、幸せそうに、ぼくの股間に顔をうずめて寝るのであーる。
最近の彼のお気に入りは、お風呂のふかふかのバスマットで、薄いブルーの本当に気持ちのいいバスマットなのだけど、昨日だけで、そこに2回もおしっこをしやがって、ぼくは2度、洗濯機でマットを洗わなければならなくなったのであーる。
一度、おしっこをして、匂いがついたところにする習性があるようだ。
そういう習性があるなら、そこにしちゃいけないという習性はないのか、と気の毒な飼い主は思うのである。
あなたは、それでも、犬なんかを飼いたいと思いますか?

つづく。

ということで、うんざりな父ちゃんですが、今日も父ちゃんの愚痴を聞いてくださり、ありがとうございます。
今日は、海の散歩の後、三四郎を連れて獣医さんのところにドッグフードを買いに行きます。ちょっと相談をしてみようかな、先生に・・・。
はい、お知らせです。今日、17日、夜の10時からでしたよね? 父ちゃんの番組、・・・。昨日は一日間違えてツイートしてしまい、ごめんなさい。今日です!
このしょんべんライダーの三四郎が主役です。お楽しみに。

『ボンジュール! 辻仁成のパリごはん 2022春』

【本放送】6月17日(金) 午後10:00〜10:59 [BSプレミアム・BS4K]
【再放送】6月21日(火) 午後11:00〜11:59 [BSプレミアム]  

NHKーBSを視聴できない方は以下からご覧いただけます。 
【NHKオンデマンド】6月18日18時〜2週間配信

6月30日はマガジンハウス社から、いよいよ「パリの空の下で、息子とぼくの3000日」が発売に。愉しみ~。韓国の出版社から早くも出版化のお誘いが!!!
そして、
6月26日に、地球カレッジ、前期エッセイ教室の最終回、総まとめ編です。
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