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滞仏日記「息子の大学問題、ここにきて、新たな動きが判明。マジか」 Posted on 2022/06/20 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、今日、息子から衝撃的なことを言われた。
「あ、そうだ、もう一つ大学に合格したんだ」
朝の電話の時に、不意に判明したのである。
「え? いつ? どこに?」
そこはコミュニケーションでは有名な大学で、45席しかない。
マクロン大統領の出身大学でもある。
彼が行きたかった学校の一つ。つまり、彼は4つ目の合格を手にしたことになる。
「すごいじゃん。でも、どっちにするの?」
彼が今日現在選択しているのは、パリ大学(ユニベルシテ・ド・パリ)の中の一校。
そこは、国家的プロジェクトを手がける大学なのである。
今はそこで勉強したいらしく、4つ目の大学はやはり蹴るような感じになるのか、・・・。どうするか、を明日までに決めないとならないらしい。
フランスの大学は、こうやって、最終決定の7月14日まで次々に合格の連絡が届くことになっている。
最初から志望校に合格できる学生は一部で、じわじわと決定していくのだ。学生たちが合格通知を受けるたびに、乗り換えていくので、なかなか一発で定まらない。
息子は4つの大学に合格したが、他に4つの大学の補欠に選ばれている。
残り、4つはどれもかなりの難関大学・・・。
「でも、まだ、わからないよ」
と息子が言い出した。
その一つ、彼にとって合格率37%の大学は、受験した学生が1万人、140席しかない。
息子は6月2日の時点で1500番目の補欠だった。なので、父ちゃんは鼻で笑って、諦めていたのだけど、
「今日、200番まであがってる」
と言い出しやがったぁ・・・。
「え? どういうこと?」

滞仏日記「息子の大学問題、ここにきて、新たな動きが判明。マジか」



「だから、まだ、可能性はある」
フランスのこの大学受験システムがぼくにはよくわからないけれど、6月2日から7月14日までの間に何が起こるか予測がつかないらしい。
6月2日で1500番目だったのに、2週間ちょっとで200番目に位置しているなら、あと3週間ちょっとあるし、素人的には可能性がある、と考えてしまうじゃんね。あはは。
ちなみに、去年は1万人中、1800番にいた子が最終日に合格している。
もっとも、この大学を受験した一万人は、各学校の優秀な子たちだから、うちのボンが、受かるとは思えないのだけれど、あはは・・・。
しかし、ここにきて、140席まで、あと60席かぁ・・・、これって、期待できるのか、出来ないのか、まだ、よく分からないよねェ・・・。
なんか、ここにきて、新たな、期待が膨らむ父ちゃんなのである。えへへ。
ただ、言えることは、あいつ、こっそりと実は勉強頑張っていたんだな、ということであーる。
音楽ばかりやっていたわけではなかったことが分かって、それはそれで嬉しい父ちゃんなのであった。
自分のことじゃないけれど、ドキドキがとまらな~い。

滞仏日記「息子の大学問題、ここにきて、新たな動きが判明。マジか」



とはいえ、今、彼が合格している大学も、なかなか入れない大学なので、彼は今のところ、どっちに転んでも安泰の身・・・。
ただ、親としては補欠になっている超難関大学に入ってもらいたい。笑。
でも、父ちゃんが騒いでもどうにもならないので、この件は、もう考えないようにしよう。どちらにしても、志望大学の一つには合格しているわけだから・・・。
ところで、他3校の補欠大学の順位も200番台にまで上がってきているというので、もしかすると番狂わせがあるかもしれない。
そういうことなので、急遽、7月に予定していた息子の日本帰国をずらすことにした。
7月14日の結果を受けてから、つまり、行く大学が決定して、部屋の確保などを終えてから、改めて、日本行きを考えよう、ということに・・・。
まずは、ぼく一人で日本を目指すことになる。7月14日といえば、フランスの革命記念日じゃないか、わお~、ドキドキ・・・。
ところが、その後、もうひとつ、衝撃的なやりとりがあった。



ぼくがドキドキしていると、夕方、息子から、ワッツアップのメッセージが届いた。
そこにはまず、
「エコーズの音楽が大好き」
と書かれてあり、え、と歓喜した父ちゃん。
うちの子は、ぼくの音楽を肯定的に受け止めたことがなかった。ヒップホップのミュージシャンなので、日本の80年代のロックとか、ふん、という感じだと思っていた。
「マジか? 」
とぼくが返事を戻すと、
「さっき、たまたまエコーズの音楽がYouTubeで出てきたから聞いてみた」
ということだった。
「なんて曲?」
「strange people」
「ああ、いい曲だよね、パパが24歳の時に作った」
と自ら、いい曲だよね、と言っちゃう父ちゃんだった。すると、衝撃的なメッセージがここで舞い込む・・・。
「パパの最近のバージョンは聞いたことがあるけど、昔の音源の方がかっこいい」
「あはは、やられた」
内心、落ち込んだ父ちゃんなのであった。
「たぶん、エコーズがいいのは、年齢が十斗に近いからだよ。その時、パパは25歳だったからね」
すると、息子から
「うん、かもね」
と戻ってきたのであーる。いい会話である、えへへ。

滞仏日記「息子の大学問題、ここにきて、新たな動きが判明。マジか」



ともかく、こういう会話が出来るのも、彼が今はとっても安定している証拠なのであった。息子は今、未来しかない。
だから、反抗期のシンボルであった父親の昔の音楽を聴くことが出来た。
YouTubeに流れてきても、無視することも出来るのに、ちゃんと聞いて、大好きだ、とメールを送ってきたわけだから、・・・。
息子が好きになってくれたstrange peupleという曲は、変わり者の自分を歌った曲であった。
みんなぼくのこと変わり者っていうんだ、という歌いだし。
でも、人は人、それぞれじゃん、というサビが繰り返される。今の父ちゃんと何も変わっていないのであった。
息子がその曲でどういうインスピレーションを得るのか、父としては楽しみであーる。
それにしても、まだ、ドキドキは続くってことかーい!!! 
7月14日が怖いけど、待ち遠しい~。

つづく。

今日も読んでくれてありがとう。
さて、お知らせです
発売前ですけど、Amazonの総合10位に、「パリの空の下で、息子とぼくの3000日」がランクインしています。落ちるとは思いますけど・・・。あはは。でも、発売前で、総合で10位って、アイドルの写真集みたいですね、と編集者さん。笑。
それから、父ちゃんのオンライン・エッセイ教室が近づいてきましたよ。
こちらはまだまだ売り切れておりません。ぜひ、文章好きな皆さん、ご参加くだされ。
今回が今年度上半期のまとめ的なエッセイ教室になるかと思います。
ブロガーのみなさん、エッセイともっと楽しく向き合ってみたい皆さん、文章を読むのも書くのも好きな皆さん、どんどん、ご参加あれ!!!
6月26日の日曜日になります。
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