JINSEI STORIES

滞仏日記「田舎の浜辺にある犬派閥の中に入ってしまった父ちゃんと三四郎」 Posted on 2022/06/21 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、朝の10時から、夜の19時までのあいだ、犬を浜辺で散歩させることが出来ない。この村には、そういう決まりがある。
なので、毎朝、9時に海に行き、三四郎を走らせている。
10時前に浜辺を出ればオッケーなので、同じような犬飼いたちが、9時くらいから10時までの間、大勢集まるのだ。
この村は人口が2000人程度だが、犬を飼っている人は多い。
10キロ続く浜辺のそこかしこに犬連れの人を見かける。
で、10時になるとみんな浜辺を離れ、犬を連れてカフェに立ち寄る。
女性が一人でやっている小さなカフェが浜辺にあり、たまたま立ち寄ったら、そこは「犬カフェ」であった。
朝、10時、そこにいる客は全て犬と同伴なのである。凄い眺めであーる。
はじめて入った時、9時半であった。
ぼくがコーヒーを飲み終わろうとしている時間に、次々、犬連れの地元民たちが集まってきて、10時になると、犬飼いとその犬たちで満席となった。
その店は他のカフェとは明らかに空気が違う。
観光客じゃないのが一目でわかる、いけてないルックスをしている。
犬グッズの入った犬バックを持っている。
そして、この店の客は100%常連でなりたっているのだ。みんな、顔見知り。こういう「犬カフェ」だから、一般の人や観光客が超入りにくい。
テラス席に座る人の足元に犬がずらっと寝そべっているし、店の中では、大型犬が走り回っている。
飼い主たちがグループになって談笑をしている。犬連れの常連が入って来ると、
「やあ、皆の衆、今日もいるねー」
と大騒ぎになるのだ。
ぼく?
ぼくはまだ新参者だけど、店主のジェニーがいい人で、三四郎を可愛がってくれる。
なので、次第にそこのグループの一員になりつつある。あはは。まだ、正式会員ではないけれど、徐々に認められつつある感じ? 準レギュラーみたいな・・・・。

滞仏日記「田舎の浜辺にある犬派閥の中に入ってしまった父ちゃんと三四郎」



というのは、犬カフェに集まる常連たちの中に、小型犬グループ、中型犬グループ、大型犬グループという派閥があって、もちろん、それらは緩やかに交差しているのだけど、やはり、犬同士が、たとえば、大型犬は大型犬と、子犬は子犬を意識するものだから、なんとなくグループ分けされてしまっているのだ。
で、三四郎もこの5か月の間に、数匹の子犬と友だちになったので、その子の親たちの交わりに誘われることが当然、・・・多い。
子犬グループの予備会員のような立ち位置になったので、なんとなく、中型犬党や大型犬党などもぼくの存在は認識してくれるようになってきた。笑。
女店主のジェニーが三四郎を気に入ってくれているのも居心地をよくしている要因の一つかもしれない。毎回、三四郎のために水を持ってきてくれる。
ここ、驚くことなかれ、コーヒーが一杯、1ユーロなのだ。安い!
別に、こういう小さな村の、さらに小さな犬社会に入る必要なんてないのだけど、その「犬カフェ」、三四郎にとっては犬仲間たちとの大きな接点の場所でもあり、素通りできないなぁ、と意識はしている。
あと、パリにはなかなかここまでの「犬カフェ」が存在しないので、社会勉強になる。
「犬カフェ」でさまざまな犬情報を入手できるし、何より、三四郎が楽しそうだ。
三四郎と仲良しの犬たちもいるので、自然と親同士も仲良くなっていく。
キャバリアとかジャックラッセルとかヨーキーとか、みんな三四郎目掛けて飛んでくる。
この子は、大人しい子なので、最初は伏せて受け入れているのだけど、そのうち、だんだん調子が出てきて、一緒にじゃれあいはじめる。
この子の対犬関係の構築の仕方もわかってきたので、親としても、その成長やその関係性を知る、いい機会になっているし、この子の幸せ度を測ることもできて、犬カフェは、大いに意味があるのだ。

滞仏日記「田舎の浜辺にある犬派閥の中に入ってしまった父ちゃんと三四郎」



ただ、ほとんどのお客さんが地元民だから、つまり、ここに定住している人たちだから、そのつながりがかなり濃密で、ぼくは残念ながら、そういうのが苦手だから、独特の距離感をはかって、近づきすぎないようにしている。
ジェニーが素敵な人なので、彼女に会いに、カフェに行き、三四郎はそこで社会性を勉強している、という感じだろうか。
ちなみに、夕方、19時前に顔を出すと、全く同じメンバーが店を占拠していて、その時間帯はムッシュが店番をしている。
たぶん、ジェニーのご主人なのだろうけど、ビールを呑みながらの犬談義で盛り上がっている。実にディープな世界だ。なかなか、そこに入り込む勇気はでない・・・。あは。
ぼくは外国人やパリジャンが集まる「犬バー」の方へ顔を出す。
実は、「犬カフェ」から百メートルくらい離れた海沿いに「犬バー」があるのだ。
この土地に根をおろそうと思った時、一番最初に仲良くなった店で、オーナーはジェレミー。
80年代の日本の音楽、日本カルチャー好き。最初から居心地が良かった。
夜はそこに毎晩、顔を出し、朝は毎朝、ジェニーの店に顔をだしている。
ジェニー対ジェレミーというのも、不思議だけど、面白いのは、ジェレミーの店にジェニーのグループは一人もやってこない。
ジェレミーの店はパリジャンだらけ・・・、おいてるお酒も個性的。
ぼくのように二拠点型のパリジャンなので、半分地元民ではあるけれど、完全な地元民ではないし、どこかパリジャンはすましているので、ジェニーの店のようなディープな泥臭い人間関係を嫌う。
ま、どっちも面白いし、ぼくはどこにでも入っていける人間なので、今のところ、両方でいい顔をしている、こうもりのように、えへへ。
三四郎も、ジェレミーの店では、パリからやってきた犬たちと仲良しになっている。心無しか、パリジャンと地元の人たちでは犬との接し方も違っているような・・・。この辺はもう少し研究してから、お知らせしたい。笑。
次第に、フランスの犬事情の専門家になりつつある父ちゃんなのであった。
あはは。

つづく。

今日も読んでくださり、ありがとう!!!
これから、浜辺に散歩に行き、帰りにジェニーの店で1ユーロノアロンジェ(アメリカン)を頂く予定です。写真を撮ってないから、撮影して、こっそり、あとで載せますね。
さて、お知らせですぞ!
父ちゃんのYouTubeライブ、下のURLからご覧いただけますよ。

Jinsei Tsuji Hitonari【Live in Paris 2022】Ver.1

https://youtu.be/syEP1_-ZPog

Jinsei Tsuji Hitonari【Live in Paris 2022】Ver.2

https://youtu.be/x1lNvaIJquA

さて、お知らせです。
『ボンジュール! 辻仁成のパリごはん 2022春』の再放送、21日、今日!
【再放送】6月21日(火) 午後11:00〜11:59 [BSプレミアム]  
NHKーBSを視聴できない方は以下からご覧いただけます。 
【NHKオンデマンド】6月18日18時〜2週間配信
 会員登録が必要で、単品利用の金額は1本220円かかってしまいます。すまんです。
そして、父ちゃんのオンライン。エッセイ教室は、6月26日、今週の日曜日に、パリからオンラインでエッセイ教室を行います。
ブロガーの皆さん、エッセイスト目指している皆さん、プロ・アマ問わず、エッセイが好きな皆さん、どしどし、ご参加ください。
詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックくださいね。

地球カレッジ



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