JINSEI STORIES

滞仏日記「帰国のための最後の難関、搭乗72時間前PCR検査に行く」 Posted on 2022/07/04 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、実は、ぼくの日本行きでもっとも心配なのが、日本政府が指定する検査ラボでのPCRテストなのであーる。
現在、日本入国に際して、隔離はなくなったが、搭乗の72時間前にPCR検査が義務づけられており、陰性が証明されないと当然だが、飛行機に乗ることができない。
この検査で、陽性が判明し、日本に行けなくなった人が結構いる。
もしくは一月ほど前に一度感染をし、それが治って、薬局の抗原検査では、陰性が何度も出ていたので、もう帰れるだろう、と思って検査をしたら、陽性、という友だちもいた。
つまり、結構な頻度で出ているので、自分がどんなに健康でも、油断はできない。
ぼくは今月、いくつかの飲み会を断り、おとなしくしていた。抗原検査ではずっと陰性だけど、何処で貰っているかわからないので、かなり神経を使っている。なにせ、8月にライブがあるので、家の中でもFFP2マスクを付けて過ごして来たくらいなのだから・・・。

滞仏日記「帰国のための最後の難関、搭乗72時間前PCR検査に行く」



日本での隔離はなくなったが、今、日本に入国する人は日本政府がつくった「MySOS」というアプリに登録をしないとならない。(絶対の義務ではないけど、これをやってないと、空港で物凄く長い時間、足止めされてしまうのだとか・・・)
登録時はアプリ画面が真っ赤で、いくつかの検査項目を突破すると黄色いになり、最後、PCRテストで陰性が証明されれば、ふー、青色になる、というまるでコロナ信号のようなすごくわかりやすいアプリなのである。
ところがこのアプリの質問や内容が結構複雑で、項目を埋めるのが文系のぼくには難しい。えへへ。
一応、3回のワクチン接種証明書をアプリにいれたら、黄色になった。黄色信号である。(ワクチン接種してない人でも、黄色になる。今、フランスからの入国にはワクチン接種有無にかかわらず隔離なしで入国できるからであーる)
で、ぼくは16区、アベニュー・モザーにある検査ラボに行った。おじさんが外にいて、いろいろと訊いて来る。はじめてか、と訊かれたので、うい、と答えたら、なんか、書き込み用紙を渡された。自分の情報を埋めなければならない。中に入ると、受付が二つあり、みんな順番を待っていた。日本人ばかりだった。このラボは、日本人慣れしているというのを聞いたことがあったので、ぼくもそこにしたのであーる。

滞仏日記「帰国のための最後の難関、搭乗72時間前PCR検査に行く」



日本が近づいてきた。日本語が溢れていて、ちょっと嬉しい。
ぼくの番になり、受付で、いくつか質問をうけた。パスポートを見せてと言われた。おっと、いきなり予定外。たまたま、旅立つ前なので、パスポートを肌身離さず持っていたからよかったものの・・・、無ければアウトだった。いきなりの、ひや。
他の人は滞在許可証だけでOKだったと聞いていたのに、なんで、ぼくだけパスポート?
次に、カルトヴィタル(健康保険証)を提示した。これがあると、無料で受けられるが、旅行者の人たちは50ユーロを払わなければならない。検査室に案内され、若い先生に綿棒を鼻のずっと奥の、脳みそに届こうかというところまで押し込まれ、
「がふがふ」
と悶えた父ちゃんだった。
「はい、終わりました」
「がふがふ」
鼻が気持ち悪い。
「今夜、検査結果が出ますからね。明日、取りに来てください」
と教えてくれた。優しいキレイな先生だった。
ということで、ぼくは家に戻り、結果が届くのを待つことになった。

滞仏日記「帰国のための最後の難関、搭乗72時間前PCR検査に行く」



フランスは先週からぐんと感染者が増えてきている。ほぼ倍に・・・。
感染者数が落ち着いたり、膨れ上がったり、なかなかしぶといコロナ君である。
家に戻り、パッキングをはじめた。日本は超暑いと聞くので、下着とかTシャツとかできるだけ、持っていかなければならない。他に、ライブの衣装、楽器とか、結構な荷物になりそうだ、おっと、お土産買ってないじゃーん!!!
東京のスタッフさんらに何か買おうと思っていたのに、慌ただしくて、買いそびれてしまっている。地球カレッジのスタッフや、タイタンの光代さん、うちの母さんとかに何か持っていかないとならないのに・・・。
と思ったら、今日は日曜日でどこも開いてないじゃんか。やれやれ。
そもそも、お土産を持って行くために戻るのじゃないから、ま、勘弁してもらおうか。母さんにだけ、赤いワインを買っていかなきゃ・・・。
夕ご飯の準備をしていたら、携帯のSMSにラボからショートメッセージ飛び込んできた。
ぎょえ、結果が出たのだ。
不意に強張る父ちゃん・・・
「おーい、息子~」
一人で結果を見るのが怖いので、息子を呼んだが、いなかった。
大学の結果発表みたいな緊張が駆け抜けていった。パソコンを開くと、ラボから二種類のメールが届いていた。(どうやら同じもののようである)
バナーをクリックすると、生年月日を入れる画面が出た。生年月日を入れると、
「結果を携帯にパスワードをお知らせしますか、メールしますか?」
と選ぶことになっていたので、携帯、を選択した。なかなか結果にたどり着かない。
SMSでパスワードが送られてきた。10分以内に、と出た。時計表示がカウントしはじめている。おいおいおい、緊張させんなよ。
しかもパスワードがちょっと難しい。だいたい、老眼なので、xなのかvなのかよくわからなんじゃないか。
老眼鏡を探しに行ったら、3分ほどのロスタイム・・・。残り、5分34秒・・・・。
急いでパスワードをいれたら、緑の画面が出てきて、ダウンロードしますか、と出た。おいいおいおい、ええかげんにせーよ、思ったが、怒っている暇はない。ダウンロード!

滞仏日記「帰国のための最後の難関、搭乗72時間前PCR検査に行く」



す、すると画面に、
「Negatif(陰性)」
という黒い文字が出現したのである。おおおお、陰性じゃー陰性じゃー、みたいな興奮が押し寄せた父ちゃんなのであった。
ともかく、おめでとうございます。ありがとうございます。受かりました!
これで胸を張って、日本に戻ることが出来るのであった。
ちゃんちゃん。

つづく。

ということで実にハラハラドキドキのPCR検査でしたが、72時間前の陰性が証明されたので、明日にはMySOSのアプリも青色になることでしょう。(正確にはラボにもう一度行き、先生に陰性証明書を書いてもらい、それをアプリに入れなければならない)息子に、よかったね、とお祝いの言葉を頂いた父ちゃんでした。旅行者の皆さんも日本に帰る前にこれをやらないとならないので、結構、大変かと思いますが、落ち着いて、頑張ってください。えいえいおー。
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