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退屈日記「おにぎりとおむすびの違い、わかりますか???」 Posted on 2022/08/14 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ぼくは今一つシャキッとしない時、何か気分が安定しない時、人生にしっくりこない時など、調子がいまいちの時は、必ず、握り飯を握ることにしている。
握り飯を握る時に、ぎゅっぎゅっと気合いを入れていくのだ。
美味い握り飯を食おうだなんて、思っちゃいない。
ただ、黙々と握る時、ぼくは生きることを嚙みしめているのである。
そうすると、ぼくの気持ちがすとんとそこに集約されていく。掌を介して、ぼくの気持ちが握り飯の中に封じこめられるのであーる。
それにガブリつく。そして、米をよく噛むのだ。
そうすると、納得することが出来るじゃないか。
出来ることなら、美味い海苔があれば、新鮮なものを巻いて、ザクザク食ったらいい。
塩が足りなければ、ちょっとふりかけると、パンチが出る。
よーし、という気持ちになる。

退屈日記「おにぎりとおむすびの違い、わかりますか???」

つまり、おにぎりは日本が生んだ「ひと手間の気合い」なのである。
弁当箱に米を詰め込むだけじゃなく、おにぎりにすることで日本人は「よーし、がんばったるぞ」となってきた。
もっとも、そこまで考える必要はないのだが、父ちゃんは、そのぐらいの決意でおにぎりを握って、頬張るのである!

退屈日記「おにぎりとおむすびの違い、わかりますか???」



そもそも、おにぎりは平安時代の貴族の食べ物、「頓食(とんじき)」がその起源とされている。
当時の貴族の宴会では、下っ端の役人の方々にふるまわれた玄米の卵型の握り飯を頓食と呼んでいた。
その後、おにぎりのカタチが庶民に広まり、江戸時代に、今の四角い海苔が生産されるようになって、巻いて食べたらめっちゃうまいじゃーん、となったのだとか。
ちなみに、有明海のあの四角い海苔だが、ぼくの母型の一族が大型の海苔乾燥機を発明して普及させた。

退屈日記「おにぎりとおむすびの違い、わかりますか???」

※ 植野編集長にいつも頂く、明石の海苔で今日は作ったった。笑。



その昔は一枚一枚、干していたのだが手間暇がかかり過ぎるので、干さずに大量に海苔板を生産する機械を開発したのである。
小学生の頃、実物を見たことがある。
大型トラックくらいある大きな機械で、海女さんがとったどろどろした海苔を機械のベルトに載せると、あら不思議、反対側から四角い海苔が出来上がって出てくるという大げさな大機械なのであった。(父ちゃんは発明家一族の血を引いているのであーる)
おにぎり、おむすび、の名称はどちらでも構わない。
関東の一部では「おむすび」とも言われているが、なんとなく、ただ握るのじゃなく、そこにご縁を結ぶような響きを感じるので、実にかわいい呼び方だと思う。
力を込めた「おにぎり」、心を込めた「おむすび」ということであろうか。
ぼくは気合いを入れたい時には「おにぎり」を握り、周囲の人へ愛を届けたい時には「おむすび」にしている。
あなたは、どちら派であろう?

つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
どちらにしても、ちょっと塩をふりかけたおにぎりが大好きで、ただ、新鮮な海苔で食べるのもいいのだけど、時間がたって、しっとりと撓った海苔も悪くないですね。
さて、お知らせですよ。
ちょっと本のサインを変えました。サイン会はありませんが、今後、しばらくは、こういうサインで、頑張って行きたいと思います。どこかでこのサインをお見かけになったら、2022年夏以降のサインだ、と思ってくださいね。えへへ。

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