JINSEI STORIES

滞仏日記「お別れ会だったが、さようなら会ではなかった。人生は一期一会」 Posted on 2022/09/20   

某月某日、夜の19時過ぎに、我が街(カルチエ)の人々が小さなイタリアンレストランに集まり始めた。
一番初めにやって来たのは、BS「ボンジュール、パリごはん」でもお馴染みのイジアちゃん(5)だった。お母さんのステファニーに連れられてきた。
最近、一番懐いてくれているこの街の少女だ。八百屋のマーシャルのところのお子さんである。
この街で知り合った子供たちは、アシュバル君兄弟(スペインに引っ越した兄弟)、ニコラとマノン(郊外に引っ越したので欠席)、ローズマリーちゃん姉妹(上の階の子たち)、ピエールのところのローズちゃん姉妹など、ここでたくさんの子供たちとも出会った。子供の目を通して、十斗を育ててきたシングルのぼくはこの世界を眺めてきたのであーる。
今夜のパーティを仕切ってくれたピエールがゲストを入り口で出迎えていた。人々はアペロパーティに慣れているので、やってくるなり、遠慮もせずに自分でグラスにワインを注いで、呑み始める。アドリンは赤ワインを注いで乾杯もせずに飲んでいた。やって来た人は勝手に飲んで、勝手に誰かと喋りはじめる。司会者もいない、まどろっこしい挨拶もない。みんなぼくら父子を支えてくれた人々である。20人ほどの人が集まった。

滞仏日記「お別れ会だったが、さようなら会ではなかった。人生は一期一会」

滞仏日記「お別れ会だったが、さようなら会ではなかった。人生は一期一会」

滞仏日記「お別れ会だったが、さようなら会ではなかった。人生は一期一会」

滞仏日記「お別れ会だったが、さようなら会ではなかった。人生は一期一会」



「ボンジュール、パリごはん」でお馴染みのパン屋のヴェロニクさん、八百屋のマーシャル、ピエール、街の哲学者のアドリアン(コロナ禍の時には持論を展開し、読者の心をわしづかみにした。一部の読者さんから、彼は本当に実在するの? と疑われた時期もあった。笑)など。残念なことに、肉屋のロジェはやって来なかった。彼は心の病からまだ立ち直っていないのである。
今日のお別れ会には、裁判官、政治ジャーナリスト、弁護士、インテリアデザイナーなどいろいろな職種の人たちがいる。この日記やテレビ番組には出ていないけれど、ぼくの日常の大事な登場人物たちであった。毎朝、三四郎の散歩で、
「やあ。元気かい?」
と声を掛け合ってきた仲間たちである。
それこそ、ロックダウンという厳しい制限下の中にあっても。
テレビや日記では書ききれない出会いやお別れがそこにはあった。
4年しかこのカルチエにはいなかったけれど、豊かな4年間であった。
ぼくは率先して人々の中に飛び込んでいった。そして、へたくそなフランス語を駆使して、どんどん仲間を増やしていった。
政府の若き高官ローリさんとジャーナリストのシルバンとは宇露戦争後の欧州について意見を交換し、パン屋のヴェロニクからはバゲットやパン作りの難しさをご教授頂き、アドリンと弁護士のアリックスとはプルースト文学の本質について語り合い、イジアちゃんとはディズニーのキャラクターについて意見交換した。三四郎はご近所のわんちゃんらと餌を与えてくれる人間について意見交換をしていた模様。

滞仏日記「お別れ会だったが、さようなら会ではなかった。人生は一期一会」

滞仏日記「お別れ会だったが、さようなら会ではなかった。人生は一期一会」

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面白いことがあった。下の階の会計士をやっているティエリーさん(一度、ぼくのギターがうるさいと怒鳴り込んできたムッシュ)とぼくが現在借りている事務所のオーナーのブノワとは初対面だった。
この20人のうち数組がアンシャンテ(はじめまして)の関係だったのである。
ぼくは毎日、街角で立ち話をしている間柄だから、みんなは当然、顔見知りだろうと勝手に思っていた。
この街で生まれ育ったブノワが、この街の重鎮のティエリーと初対面だったことには驚かされた。
ローリーはピエールと初対面だったし、アドリアンとクラウスも初対面であった。
イジアのお母さん、ステファニーはほぼ全員と初対面だった。
同じカルチエに長く生きていながら、同じロックダウンを乗り越えてきたにも関わらず、すれ違っていただけの人も多かったということ。4年しか住んでいないぼくが、彼らを繋ぐという、実に、不思議。
一期一会というが、この出会いこそが運命だと思う。
ぼくは苦手な人にはあえて近づかないけれど、興味を持った人間、目が合っただけのインスピレーションの人には、どんどん近づき、懐に飛び込んでいく。
新しいカルチエでも、きっと、また新たな出会いが待ち受けている。そこで同じように誰かと繋がっていくのだ。
田舎のアパルトマンがある街(村?)でも、多くの知り合いが出来た。
挨拶をするだけの人もいるし、家まで遊びに来る人もいる。中には本質的な差別主義者もいる。でも、そういう人はぼくの心が門前払いをしている。どこにでもそういう人はいる。
むしろ、その人を眺めて、ぼくは作品の一部に取り込んでいく。むしろ、そうじゃない人の方が圧倒的に多いのがこの世界だ。
78億人の人類の中で、ぼくが出会える可能性は無限にある。
ぼくは広い世界を好んで見つめる。
今日も熱血父ちゃんは心を開いて、人々と交流を続けていった。
お別れ会、とはいえ、これがさよならではない。
本当のお別れは死ぬ時に待ち受けている。また、会いましょう、と言って、ぼくらは笑顔で別れることになった。

滞仏日記「お別れ会だったが、さようなら会ではなかった。人生は一期一会」

滞仏日記「お別れ会だったが、さようなら会ではなかった。人生は一期一会」

※ 犬には、わかる。誰が一番優しいのか・・・。笑。三四郎はアドリアンしか、見ていない!!!!

滞仏日記「お別れ会だったが、さようなら会ではなかった。人生は一期一会」



つづく。

今日も読んでくれてありがとう。
人との出会いの可能性を閉ざすのはよくありません。でも、自分が嫌な思いをする、我慢をして相手に気を使って付き合うのはよくありませんし、それは父ちゃんの生き方ではないので、ぼくは心地よく向き合える人を周囲に固めて、人生を楽しんでいます。無理してえあわない人間と仲良くすることもありません。自然な状態で一緒にいられる人はこんなにいるのです。その人の中で、ぼくは明日も生きるのでしょう。
さて、そんな父ちゃんからのお知らせです。まずは、夏ごはん編をお楽しみください。
■「ボンジュール!辻仁成のパリごはん2022夏」
 本放送:2022/9/23 金曜日 22時〜22時59分
番組ホームページもできましたのでお知らせします。
https://www.nhk.jp/p/ts/6XW8NZ748V/episode/te/ERJW2WJQ8B/
そして「2022春」「2022夏」はオンデマンドが1年間になりました。
より長くオンデマンドでは視聴いただけます。

小説教室が本放送の翌日、9月24日(土)に迫ってきました。熱血でいきます。一度は小説を書いてみたいけれど、小説の敷居が高く感じて、なかなか書けないとお嘆きの皆さまに、わかりやすい、父ちゃんの小説講座です。愉しみながら、小説を書いちゃいましょう。
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地球カレッジ

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