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退屈日記「田舎で知り合った連中が、ぼくの誕生日会をオーガナイズしてくれた!」 Posted on 2022/10/05 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、三四郎と家でのんびりしていたら、シェフのチャールズから電話が入った。
「こっちに来てるんだって? どうだい? 予定がないなら、店に来ないか? 誕生日なんだろ?」
ぼくはちょっと驚き、どうして知っているの? と訊き返した。
「全部、アンヌから聞いた」
アンヌというのは、ぼくのアパルトマンをあっせんしてくれた不動産屋のボスである。
田舎に移り住んで、最初に親しくなった友だち? 相談役? 彼女を介して、いろいろな人に出会っていった。今や、ここにも多くの友人が出来た。(ぼくは昔、友達がいないのが自慢だった。でも、これも長生きの証拠なのかな。ぼくは確かに変わった。今は人を受け入れている。前みたいに、拒絶することもなくなった。友だちの垣根は低い)
「いいの?」
「もちろん。みんな集まるから来てよ。ささやかながら、お祝いをしよう」
なんにも予定がなかったので、ちょっとびっくりした。
ということで急遽、三四郎に夕食を与えた後、ぼくはこの近くではちょっと大きな町にある、チャールズのレストランへと向かったのである。

退屈日記「田舎で知り合った連中が、ぼくの誕生日会をオーガナイズしてくれた!」



こっちで親しくなった友人たちが数名集まっていた。
ぼくらは乾杯をした。といっても、ぼくは車だし、気管支炎なので、シャンパーニュは辞退。かわりにペリエで乾杯となった。えへへ。←本当です。
アンヌが連れてきたジャンはNHKの2021年かな、一番最初の「春ごはん」を撮影した時に「コロナと日常について」インタビューを引き受けてくれた民宿の経営者だ。残念ながら、その部分は番組では採用されなかったのだけれど・・・。
チャールズは料理を作らないとならないので、かわりに、ぼくの横にはチャールズの嫁のミラが陣取った。足元には三四郎が・・・。
ともかく、持つべきものは友だちである。
寂しく、しかも、気管支炎が長引き、ちょっと落ち込んで過ごしていたぼくの、誕生日が、わずかに、華やかになった。
ぼくらはペリエで乾杯をした。サンテ!!!!
慣れ親しんだカルチエを離れたことで、ぼくはセンチメンタルになっていたのだが、この田舎にもすでにこうやってぼくの誕生日を祝ってくれる友だちがいる。それは、驚きであった。
「アンヌ。ちょっと訊いてもいい?」
「ええ、どうぞ」
「その、なんで、ぼくの誕生日を覚えてくれていたの?」
みんなが笑った。
アンヌにかわり、ジャンが答えた。
「理由は簡単だよ。彼女は顧客の誕生日を全部、メモしている」
「なるほど、((´∀`))ケラケラ」
「あ、でも、ヒトナリ。確かにそうだけれど、でも、全員の誕生日会をオーガナイズすることはないのよ。やっぱり、好きな人だけ、こうやってお祝いをするのは」
そこにチャールズが料理を持ってやってきた。
「牡蠣フライだよ。日本で食べてあまりに美味しかったから真似てみた。スープは鰻のダシで作った。牡蠣との相性は抜群なんだ。これはメニューにはない、ツジーのために、特別に作ったんだから、みんな、食べてみて!!!」

退屈日記「田舎で知り合った連中が、ぼくの誕生日会をオーガナイズしてくれた!」



わお、めっちゃ、美味しかった。
まさか、こういうサプライズがぼくを待っているとは予想もしなかったので、ちょっと、報われたのも事実であった。
この田舎でも着実に友だちの輪が広がりつつあった。
全く、何もない、と思っていたし、越してきたばかりの田舎でこんなハプニングが起こるとは思ってもいなかった、嬉しい・・・。
だから、驚きすぎて、NHKのための自撮り撮影も出来なかったのだ。ま、当然であーる。なんでも撮影をしたらいかん。
ということで、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまった。
会の最後、チャールズがやってきた。
「ヒトナリ、ぼくが参加できなかったのが残念だ。どうだろう? 明日、ミラと三人で朝ごはんを食べに行かないか?」
「え? 朝ごはん?」
「昼は子供の学校に行かないとならないし、店もある。でも、朝は自由なんだ。朝から盛り上がろうよ」
「笑。いいの? もちろんだよ」
「じゃあ、9時に、君の家に迎えにいく。なぁ、みんなも、どうだい? 二次会はホテルの朝食ってのは?」
ぼくはちょっと嬉しかった。
ここはパリではない。フランスの田舎なのである。
ぼくは日本人で、よそ者なのだけど、みんな優しく接してくれる。
老後は寂しく一人ぼっちかな、と思っていたので、こうやって、仲間たちが増えていくのは、しかも、ぼくよりうんと若い仲間たちが集ってくれることは、もしもの場合を考えても、・・・えへへ、有難いことであった。
また新しい世界が広がる。
楽しんだ者の人生なのであーる。

退屈日記「田舎で知り合った連中が、ぼくの誕生日会をオーガナイズしてくれた!」

退屈日記「田舎で知り合った連中が、ぼくの誕生日会をオーガナイズしてくれた!」

※こちらが、2021年に我が家に招待した時の、ジャン!



つづく。

ということで、今日も読んでくれて、ありがとう。
みんなから、シャンパーニュを頂きました。ぼくが今は飲めないのを分かっているから、完治したら飲むように、ということで、自分では買えないような素晴らしいシャンパーニュばっかり、頂きました。ひゃああ。それにしても、あゝ、生きていてよかった。気管支炎で落ち込んでいたので、これを励みに、頑張りますね。明日の朝食会、こちらも、また、ご報告さえて頂きます。

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