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滞仏日記「久しぶりに、ニコラ、マノン、息子が揃っての、夕食会となった」 Posted on 2022/12/03 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、不意にマノンから、
「今日、辻さんの新居に遊びに行っていいですか? たまたま、わたしたち(ニコラとマノン)今、パリ市内にいるんです」
と連絡があった。
お父さんの方の家にこの週末お泊りすることになっているようであった。
「もちろんだよ、おいで」
とぼくは返信をした。
というのも、たまたま、十斗がごはんを食べに来る日なのだった。
こういう機会は滅多にない。
もちろん、十斗がぼくとたくさん話したがっているのは知っている。でも、二人でご飯なんかいつでも(ま、確かに)できる。大人になったニコラとマノンと十斗が揃うのはなかなかない。
これはいい機会なのである。ぼくも久しぶりにみんなに会いたいし・・・。
月と太陽と金星が一直線に並ぶくらい、ここ最近では、珍しいことなのだった。
ということで、のんびりしていたのだけれど、不意に忙しくなった。
「何を作ろう?」
愛情料理研究家としては、この点が、重要だった。うまいものでみんなの心を一直線につなぐのであーる。
そこで三人に「何が食べたい?」とメールを送ったら、
「パスタ」
「お肉」
「餃子」
と三者三様の返事が戻って来た。あはは。
えええい、面倒じゃ、ということでメニューは以下に強制決定。
父ちゃん自慢の煮込みハンバーグ、
父ちゃんスペシャルのスパゲッティ・サラダ、
父ちゃんの好物、普通のインゲン・サラダ、
という布陣。えへへ。

滞仏日記「久しぶりに、ニコラ、マノン、息子が揃っての、夕食会となった」



ニコラ君は中学生、マノンちゃんは高校生、十斗が大学生である。
光陰矢の如しだぁ。
NHKの「パリごはん」が始まった最初の頃、2年ちょっと前かなぁ、ぼくはニコラ君と一緒に豆ごはんを作った。
そうだ。おにぎりの握り方を教えてやったのだった。懐かしい。
ニコラとマノンはもはや、ぼくよりも背が高い。
一番背が低いのがぼくなのであーる。
「どうなの? 学校は?」
「うん、楽しい」
ニコラは言葉数が相変わらず少ない。
「進学の相談会ばかりで、ほんとうに面倒くさいの」とマノン。
3年前の十斗と同じであった。
高校生になるとまもなくフランスの学生たちは進路を決定しないとならない。
「将来は何を目指すことにしたの?」
「わからないけど、一応、ジャーナリストです」
「へー。すごいね」
「でも、簡単には決められないですよね。まだ、世の中のことなんにも分からないから」
「ほんと、そうだよね。でも、きっと何か見つかるよ。ぼくも大変だった」
不意に、十斗が割り込んできた。は、兄貴風ふかしている?
年頃のマノン、年頃の十斗、この二人のやりとりを見守るぼくは、まるでお母さんのよう。お父さんではなくて、・・・。
「大学はどうですか?」とマノンが十斗にふった。
「面白いよ。世界が広がる」
黙々と食べているニコラ。ニコラは会話に参加してこない。
そこから十斗が大学生活の楽しさ、面白さ、意義などをマノンに語ってきかせはじめた。
兄貴風、びゅんびゅん。

滞仏日記「久しぶりに、ニコラ、マノン、息子が揃っての、夕食会となった」

滞仏日記「久しぶりに、ニコラ、マノン、息子が揃っての、夕食会となった」



コロナの時期、しかも、ご両親が不仲になり、この姉弟は大海に放り出された格好であった。でも、うちにやって来るようになって、少しずつ、安定してきた。
今は、一時期、お母さんの実家の方で暮らしているようだった。(週に一度、お父さんが会いに来る。そういう生活のリズム)
「でね、フランス語の先生がルーマニア人で、フランス語の間違いが多くて、親たちが学校に抗議して、その人、先生をやめさせられたの」とマノン。
「それは学校が悪いよ。その人を選んだのは学校でしょ?」と息子。
「そうね。もともとはラテン語の先生だったんだけど、フランス語の先生が足りなくて、急遽、彼女がフランス語を教えることになった。そこから彼女の人生も、学生も親御さんも学校もみんな大変になっちゃったの」
「やっぱり学校が悪いな」
「ですよね。でも、その先生も黙っちゃいなくて、今、学校と係争中」
こういう内容のことをフランス語で話しているので、ぼくには、さっぱりわからない。
ニコラは、あんなに可愛かったのに、もう、かなり大きくなって、無口な皮肉屋さんになってしまった。マノンと十斗の話を、鼻であざ笑うように聞き流している。
「どう思うの?」
とぼくがふると、
「誰かを悪者にするのは安易な結論だと思う。みんな悪者を見つけて安心したいだけだ。ぼくは関わりたくない」
と戻って来た。
あはは、やられた、フランス人・・・。

滞仏日記「久しぶりに、ニコラ、マノン、息子が揃っての、夕食会となった」

※ 美味しい匂いを嗅いで、獲物を狙っている三四郎・・・。

滞仏日記「久しぶりに、ニコラ、マノン、息子が揃っての、夕食会となった」



途中から、十斗が最近作っているごはんの写真をみんなで眺めることになった。
「ごはんを毎日、作っているんですか?」とマノン。
「うん。だいたい毎日」と十斗。
「大変じゃないですか?」
「ぜんぜん。うちは小さい頃から料理が生活の中心にあったから」
ぼくは息子の発言にちょっと驚いてしまった。
「素敵ですね。ごはんを毎日作れる大学生って」
「そうかな」
「うん、それはすごいね」とニコラが横から意見を言ってきた。あはは。
なんとなく、自分が褒められているようで嬉しくなった父ちゃんであった。

滞仏日記「久しぶりに、ニコラ、マノン、息子が揃っての、夕食会となった」



滞仏日記「久しぶりに、ニコラ、マノン、息子が揃っての、夕食会となった」

※ 息子が最近作った料理、親子丼(写真の)、キーマカリー、などなど・・・。

滞仏日記「久しぶりに、ニコラ、マノン、息子が揃っての、夕食会となった」

つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
ニコラは大きくなったけれど、まだ、子供。マノンは、すっかり大人。十斗は、ううーん、大人なんだけど、ほんとの大人になる手前? しかし、三者三様、頑張っています。それが楽しい夕食会でもありました。
さて、12月22日はいよいよ、今年最後の地球カレッジ。今回はスペシャル版で、パリ市内中心部からぼくが暮らすカルチエ(地区)まで、ブラタモリならぬブラツジ散歩をさせてもらいます。とくに仕掛けもなにもない、冬の散歩道です。行きつけのカフェに立ち寄ったり、マーシャルの八百屋で野菜を買ったり、ケーキ屋さんでクリスマスケーキをピックアップしたり、何も起こらないかもしれませんが、ぶらぶらしたいみなさん、生配信での散歩、おつきあいださい。詳しくはこちらの地球カレッジのバナーをクリックくださいませ。

地球カレッジ



自分流×帝京大学

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