JINSEI STORIES

滞仏日記「小雨降るパリ、アーティスト本人がフライヤー配布。もー、熱血~」 Posted on 2023/01/20 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ええと、フライヤーを近所のおにぎりやさん(YAMAYAさん)まで届けに行った。
事務所のすぐ近くだし、美味しいのである。
ぼくは顔が広くないから、フライヤー置いてくださるところを知らない。あ、やまやさんなら置いてくれるに違いない、と踏んだので、アーティスト自ら、出かけてみた。
マコちゃんにフライヤー配布を頼んでいたのだけど「ファッションウイークが終わるまで時間ができません」と言われた。
じゃあ、自分頑張らきゃ、とフライヤーを100枚握りしめた熱血父ちゃん。日本の文化が好きな仏人が集まる店がいいのだけど、パッと思い付いたのが、近くのやまやさんであった。よし、熱血~。
「こんにちはー」
と元気をよく、暖簾をくぐった、父ちゃん・・・。
「あれ、辻さん!」
とお店の皆さんが驚かれていた。
店主さんとスタッフさんが3名いらしゃったのだった。
徹夜明けで、頭がぼさぼさだったこと、店に入った瞬間に気が付いた。やば。
「実は、オランピア劇場でライブやるんです。で、あの、ちらしを、置いて貰いたくて」
皆さん、一応に、本人が自らビラ配布している様に、呆れて? たぶん、驚かれていたのじゃないか、と。
そこにはとくに触れないようにしてくださった優しい日本人の皆さんであった。
「あの・・・、辻さん」
「はい」
「わたし、チケット買おうとしたんですけど、カードが通らなくて、まだ買えてないんです。買いますからね」
おおお、マジか、店主さん、う、嬉しい。
ひっくり返りそうになって恐縮した父ちゃんであった。涙。これだけ聞けて、もう、来た甲斐があった、と思った次第であーる。
すると、厨房にいたマダムが、
「あの、辻さん、実は、わたし、母親と去年の夏の大阪ビルボードライブに行ったんですよ」
ええええええ! な、なんですとォ、マジすか? これには驚いた。衝撃である。
「母親、80代なんですけど、コロナ明けで、すっごく喜んでいて」
うわああ、涙が出そうになるのを笑顔で必死に堪えた父ちゃん。あの日、このマダムがお母さまとビルボードのあの会場にいたというのか、という感動を、パリの街角で味わっている、今この瞬間の、熱血父ちゃん。
今日、やまやさんに来てよかった、と思った。どうでもいい話かもしれませんが、人生というのは、今だ!、と思って行動に移すと、こういうことが起きるものですね。

滞仏日記「小雨降るパリ、アーティスト本人がフライヤー配布。もー、熱血~」



店を出たら、そこに、日本人ママ友のIさんから「インタビューをしたいというフランス人ジャーナリストがいるんですが、メアド教えていいですか」と連絡が飛び込んで来た。お願いします、と飛びついた熱血。ベルトランからも、120センチ×80センチのポスターの印刷開始するけど、と連絡が来たのだ。よーし、出来たら、貼りに行きますよ、まずは、YAMAYAさんに!!! 笑。

滞仏日記「小雨降るパリ、アーティスト本人がフライヤー配布。もー、熱血~」

※ こちらの小海老のおにぎりがおすすめであーる。

滞仏日記「小雨降るパリ、アーティスト本人がフライヤー配布。もー、熱血~」



もう一軒、近くに知り合いのレストランがあったことを思い出し、再び歩き出した父ちゃんであった。デュロック駅とボンマルシェデパートの中間に、NAKATANIというフレンチがあって、トトさんというシェフが腕を振るっているのである。
ドアをあけて、中を覗くと、トトさんが、哲学的な面持ちでキッチンで料理をしていた。
「あの、すいません。お忙しいところ」
トトさんが、ぼくをチラ見した。
「あら、どうしたんすか?」
「いやあ、偶然、前を通ったからね、大将の顔を見たくてさ」
NHKの「パリごはん」の自撮り料理ドラマ、実はここがモデルなのであーる。ぼくがいつも「大将、いいねー」と言ってるのは、ここの店のカウンターをイメージしていたりするのである。あの「大将」が、トトさんね。カウンターの端っこがぼくの定位置なのであった。
「フライヤーをどこか、その辺に、おかしてもらえないでしょうか?」
と言いかけて、振り返ったら、冷蔵庫の横の丸いテーブルの上に、すでに置かれておったぁ。あ、やば。ここ、ミシュランの星付きレストランじゃなかったっけ? って、知ってるくせに。
「フライヤー、マコさんが届けてくれました。お食事されます?」
しません、とは言えなくなり、席に腰を下ろしてしまった父ちゃんであった。
「もう、営業時間、終わりでしょ?」
「終わりですけど、辻さんを追い返せないでしょ。なんかつまみますか?」
「大将、いいねー」
ということで、なんとなく、今日はいい日であった。
品のいいお客さんが(満席)まだ食事をされていたので、ちょっと、つまんで帰ろうかな・・・。
「ワイン」
「はい、いつものやつで」
「大将、いいねー」
がはは、と笑いながら、フライヤーの入っているプラスティックケースをお尻の下に隠した、熱血父ちゃんなのであった。お尻が痛ーい。
皆さん、人生というのは、手懐けないといけませんな。
ほったらかしにしていても、物事は動きません。行動あるのみです。
じゃあ、今日もご一緒に!
合言葉は、熱血~。

滞仏日記「小雨降るパリ、アーティスト本人がフライヤー配布。もー、熱血~」



つづく。

今日も読んでくださってありがとうございました。
家に帰ると、マコちゃんからメッセージが飛び込んで来ました。
「お疲れさまです。Yamayaさんへフライヤーありがとうございました。本日、伺いましたところ、辻さんご本人がいらっしゃったとのことで皆さま喜んでいらっしゃいました。ご報告までに。引き続きよろしくお願いいたします」
あはは。マコちゃん、でしゃばってしまい、すまんです。じっとしていられないんだもの~・・・。
しかし、こんなことをやるアーティストいるんだろうか、とお思いのそこのあなた、います、いるんですよねー、ここに。
ぼくは、42歳で渡仏してから、路上で歌い続けてきたので、別に、こういうこと苦じゃないのです。
一人でも多くの人に見て貰いたいだけなので、ぜんぜん、かっこ悪いとも思ってないし、ビルボードにお母さんと来てくれたり、チケット買おうとしてくれたことがわかって、運気があがったのでした。ありがとさまです。
そんな熱血父ちゃんが、もう一つの本業でもある文筆家として、講師をやる、熱血オンライン文章教室が、今年もまもなく、1月29日に開催されます。本年度一回目ですけど、応募いただいた60編くらいのエッセイの中から、こうしたらよくなるよね、という文章を選びまして、一緒に推敲方法や、構造調整や、文章の書き方などを細かく、指導してまいりたいと思います。大事なことは、どうやったら、人を感動させられる文章を書くことが出来るのか、ということ。アマチュア、セミプロの皆さんを対象に、勉強会やってみたいと思います。ご興味ある皆さんは、下の地球カレッジのバナーをクリックしてみてくださいませ。

地球カレッジ

滞仏日記「小雨降るパリ、アーティスト本人がフライヤー配布。もー、熱血~」

そして、5月29日のオランピア劇場での父ちゃんの単独ライブ、これはね、たぶん、もう生涯で一度しかできないライブだと思います。間違いなく、ぼくの歴史の中で、最高の瞬間になるはずだから、見に来てほしいです。
チケットは、パリのピア、こと、フナックのチケットセンターで普通に購入することが出来ます。
さらに、日本からの皆さまには、朗報。
JALパック・パリが企画したライブ翌日のランチ会が「完売」したことを受け、参加できなかった人のために、当日、追加でランチ会がもう一回行われることになりました。まだ、先のことですが、パリ旅行を計画されている皆さん、ご参考ください。詳しくはこちらの、URLをクリックしてみてください。

5月30日 辻仁成 オランピア公演記念 『感謝!Merci!』 トーク&ランチ会 《追加設定》



そして、NHKの「パリごはん」来月、新作(秋冬編)が登場をします。
2023/2/17(金)後10:00~10:59【BSプレミアム・4K同時】です。ついにちくわず男の義和Dが編集に入った模様です。4か月半に及ぶ、父ちゃんのアフター子育ての記録です。引っ越しあり、三四郎との旅もあり、てんこもりですぞ。
「辻仁成のパリごはん 2022年秋冬」(59分)
そして、再放送もあります。
2023/2/21(火)後5:00~5:59【BS4K】※再放送
2023/2/21(火)後11:00~11:59【BSプレミアム】※再放送



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