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滞仏日記「ついに終わった、オランピア劇場ライブ。その感動の、顛末記であーる」 Posted on 2023/05/30 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、もの凄く長い一日なのであった。
心地よい緊張感と共に、目覚めたのだが、久しぶりの熟睡であった。「これは神様の応援を頂いている」と不眠症に苦しむ父ちゃんは思ったのであーる。
体調もいいし、喉のコンディションもなかなか今までにないくらいいいのだ。
公演が決まってからこの半年間、地道にやってきた結果、禁酒の結果、体調管理の結果、何よりも、熱血の、結果であった。
機材を運搬する車に乗って、11時半に会場入りをした。フランス人音響、照明スタッフはすでに9時から会場の設置を開始ていた。
オランピア劇場は伝統的に正面のファサードにアーティストの名前の赤い文字が飾られることになっている。楽器搬入口がそのファサードの隣にあるので、おお、いきなり「TSUJI」の赤い文字と遭遇をしたじゃないか! ここにBEATLESも掲載されたのだ。
歴史と伝統の中に、父ちゃんの名前が、踊った。
そして、ぼくを出迎えたベルトランが楽屋へとぼくを誘導したのだ。楽屋(ロッジ)は十数室あり、ぼくの楽屋はホテルのような大きな部屋であった。

滞仏日記「ついに終わった、オランピア劇場ライブ。その感動の、顛末記であーる」

滞仏日記「ついに終わった、オランピア劇場ライブ。その感動の、顛末記であーる」

滞仏日記「ついに終わった、オランピア劇場ライブ。その感動の、顛末記であーる」



ところが、進行表通りには進まず、2時から始まるはずのサウンドチェックは4時半にずれこみ、ぼくらのリハーサルが終わったのが18時なのだった。開場の一時間前、そこから前座の方々のリハがあり、19時開場となったのであーる。
日本から、日本ライブを仕切っているサンクリの中原さん、カメラマンの岡田ユウスケ、などがかけつけた。もちろん、オペラのうどん屋の呑もちゃんもいた!!!笑。
みんなでオランピア劇場正面に記念撮影に行ったり、ほぼほぼ、おのぼりさんな父ちゃんであった。あはは。
とにかく、待ち時間が実に長く、マットとローラーを持ち込んでそこで身体をほぐす運動をやった。きっとマドンナもスティングもここで体調管理をやったんやろうな…。( ´∀` )ミーハー。
もちろん、自撮りで、NHK「パリごはん」の撮影もやった、父ちゃんなのであーる。あはは。ちゃんと仕事もしている!
あと、楽屋地区の中心にバーがあって、アーティストはここで寛ぐことが出来る。ぼくがそこでコーヒーを飲んでいるとバーマンのおじさんが、
「そこはデビッドボウイが座って取材をされていた席ですよ」
と教えてくれたのであーる。おおお。
でも、体調はいい。
楽屋に大きな鏡があり、ヘアメイクさんが到着して、髪の毛をセットしてもらった。その最中、ぼくは「ついに、来た」と思っていたのである。
そして、これが終わると、もう、オランピアという目標がなくなってしまう。
張りつめていた熱血が途切れてしまうのだろうか、と考え、ちょっと寂しくもあった。すでに、オランピア・ロスが始まっているのであった。

19時の開場時間を迎えると、スタッフもミュージシャンも関係者もみんなバタバタとしはじめたのだった。
もう、そこからはジェットコースターに乗っているような状態となった。
衣装に着替え、みんなが一気にぼくの前から消えて、真空のような感じになった。
携帯紛失マネージャーMMがやって来て、驚くべき一方を伝えたのである。
「すごい入っています!」
「え? なに? マジ?」
「全然、ガラガラじゃないです。埋まっているように見えますよ。かなりざわざわしているし、Tシャツがもうあとちょっと、小説も最後の一冊です」
「ええええ」
ということで、ちょっと安堵した父ちゃんであった。

滞仏日記「ついに終わった、オランピア劇場ライブ。その感動の、顛末記であーる」

※ ステージに様子を見に行くと、フランス人には見えない男がぼくのアンプを運んできたのだけれど、おおお、大阪のイベンターサウンドクリエーターの中原しゃんじゃないか。お前、何しとんねん、ということで。「落ち着かなくて、手伝っています」と仏語も喋らない癖に、どさくさにまぎれて、スタッフなっている、勝手に・・・。笑。この人も熱血なのだった。

滞仏日記「ついに終わった、オランピア劇場ライブ。その感動の、顛末記であーる」

※ 楽屋で、時間のある時に、今の心境を自撮りで語る、父ちゃん。NHK用です。あはは。



開演時間になり、前座の人たちの演奏がはじまり、もう、そこからは記憶がないのである。次々にスタッフがやって来て、ぼくは引っ張りまわされ、最後に、ベルトランから、背中を押されてステージへと・・・。拍手!
「メルシー」
とフランス語で挨拶をした後、
「父ちゃんだよーん」
と思わず言ったら、やはり、受けていた。あはは。
その後、日本のおっさんたちが野太い声で「父ちゃん」を連発するものだから、フランス人のお客さんは、きょとん、なのだったが、しーらない・・・。あはは。
ともかく、もう、なんだかわからなかったが、大声援だったのだ。一階の後ろや三階後方に空席はあったが、ステージから見る限り、埋まっているように見えた。
力強い辻バンドの演奏でお客さんが盛り上がっていくのがわかった。ぐんぐん、盛り上がって行った。それは海がせりあがるような光景でもあった。オランピア劇場の照明が美しかった。音もかなり良かったらしい。
でも、歌っている自分は必死で、もう、時間が止まったまま、なのである。
ああ、でも、一つだけ、ジャック・ブレルの「ヌムキトパ」とピアフの「パダン」を歌っている時、彼らのことを考え、同じ歴史的舞台に今、自分がいるのだ、と、素潜りをした人が息継ぎに海面に上がるような瞬間があって、その瞬間、青空がぼくの目の前に広がったのである。ブレルの「ヌムキトパ」はぼくがずっと歌ってきたフランスの名曲で、これが歌えたことは個人的に最高にうれしかった。
そして、ゲストのDEEP FORESTが登場し、「荒城の月」をやったのが、本当に、感動的なのであった。お客さんたちは、みんなここで感動をしてくださったようで、たくさんの方に、そのことを終演後、言われた。
真空になっていたステージに、もの凄い光が差したのが、アンコールで歌った「ラヴィアンローズ」だった。ぼくは嬉しくてしょうがなかった。フランスの音楽の殿堂で、この曲を自分が歌えるんだ、と思うと天にも昇るというが、まさに、至福の瞬間なのだった。
そうやって、ぼくはオランピアの歴史の中に名前を残すことが無事に出来たのである。応援してくれた皆さん、スポンサーの皆さん、スタッフ、メンバー、皆さん、に感謝なのである。
札幌や広島や日本各地、またロンドンやウイーンから来てくれた昔からの日本のファンの方々にもお礼が言いたい。本当に、歌い続けて来てよかった。
次はどこへ行けばいいのだろう、と悩む。
でも、日本公演が決まったので、皆さん、次は、名古屋、東京、京都で、会いましょう。おまたせしました。
それでも、熱血は続く!

滞仏日記「ついに終わった、オランピア劇場ライブ。その感動の、顛末記であーる」

※ 終わった。ついに、終わってしまった。また、次の熱血をはじめないと・・・。笑。

滞仏日記「ついに終わった、オランピア劇場ライブ。その感動の、顛末記であーる」



今日も読んでくれてありがとうございます。
チケット発売になりましたね。チケットぴあさんで最速先行がスタートしているようです。やっぱり、日本でも最高のライブをやらないとね。皆さんに、凱旋し、ご報告をステージからさせてもらいます。ありがとう。
「辻󠄀仁成 アコースティック セレナーデ フロム パリ 2023」
Tsuji Acoustic Serenade From Paris 2023
出演アーティスト:
辻仁成(Vo・Ag)/Dr.kyOn(Piano・Chorus)/ユン ファソン(Flugelhorn・Trumpet・Chorus)
各会場:
8/29(火)愛知・名古屋DIAMOND HALL
open18:00/19:00
8/30(水)東京・EX THEATER ROPPONGI
open18:00/19:00
9/3(日)京都・京都劇場
open17:30/18:00
さて、デザインストーリーズから、一般発売に先立ち、オフィシャル最速先行、のお知らせを行いします。特別に、「ぴあ」内に、ただいまより、このミニツアーの先行窓口が6月11日まで設置されます。
チケット購入を希望される皆さんは、下のURLをクリックお願いいたします。

https://w.pia.jp/t/tsujihitonari-k/

5/30(火)09:00~6/11(日)23:59/日本時間
※企画制作、ハッピーヘッズミュージック、協賛、帝京大学、シマダグループ株式会社、協力、Design Stories