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滞英日記「突然、出現したマット・ゴスが驚くべきことを言い出し、ぼくは驚嘆した」 Posted on 2023/09/24 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、また、ショッキングなことが起きた。ごめんなさい。・・・。

マット・ゴス(元ブロスのボーカリスト)とポール卿とぼくは4時間以上、話し合いをした。
最初、はじめて会ったマットは物静かでジェントルマンだった。そうだ、あまりに知的なミュージシャンだった。
彼はぼくの絵(秘密のサイトがあるのだ)を全部見て、一つ一つに丁寧な意見を述べていた。そのあと、自分が今作っているアルバムの曲を3曲ほどぼくに聞かせた。ぼくも「荒城の月」を彼に聞かせた。
暫くの間、音楽や表現の厳しさと楽しみについて話が弾んだ。ずいぶんと、親しくなったのだ。あっという間に、本当に心が通じ合うようになった。これは凄いことだった。
アーティストだからわかるいい話が出来たと思う。
その直後、彼からいつか何か一緒にレコーディングするとか、コラボをやりたいね、と持ち掛けられた。もちろん、いいね、いつか、やろうね、とぼくは言った。
しかし、その直後、ぼくは自分の耳を疑うことになる。
一時間ちょっとこういうやりとりが和やかに続いた後のこと、マットはぼくにこう言った。
「ツジさん、ケンブリッジ劇場でどうしてもライブをやりたい?」
「え? (どういう意味だろう・・・・)」

滞英日記「突然、出現したマット・ゴスが驚くべきことを言い出し、ぼくは驚嘆した」



「あんなに大きな会場を満杯にしないとならないと考えるとプレッシャーで苦しくならないかい? ぼくにはそういう経験があった。大きな会場だった。でも、前日にキャンセルしたことがあるんだ」
いったい何の話だろう、と思った。振り返ると、そこにポールがいて、マットをじっと見ていた。
「ツジさん、どう思う?」
「それは、コンサートをキャンセルしたら、という意見ですか?」
「そうじゃない。聞いてほしい」
マットが前傾になり、熱を込めて言い出した。
「無理して大きな劇場でやるより、満杯になるサイズの会場に場所を変える。もっとみんながリラックスできるような会場で、やったらどうか、という提案だよ。これから3週間ほどでケンブリッジを満杯にするには、日数が足りない。ラジオもテレビも出まくらないとならない。それはこっちで活躍するアーティストでも簡単なことではない」
マットが熱を込めた。
「ツジさんとはじめて会って、いろいろと話をして、ぼくは君のことが友だちのように思えたから、おせっかいだけれど、言わせてもらいたい」
ぼくは驚いて、言葉が続かなかった。
「ポールは知っていたの? この話」
「いいや、今、聞いた」とポール。

滞英日記「突然、出現したマット・ゴスが驚くべきことを言い出し、ぼくは驚嘆した」



ポールは会場の予約をするのにかなりの金額をデポジットしている。会場を変えても、彼の赤字は変わらない。
マットが続けた。
「ツジさん、あなたはアーティストだ。お金のこと、チケットの売れ行き、など気にしちゃいけない。あなたがやるべきことは最高のライブをやることでしょう? ファンの人たちは、あなたの笑顔を求めて集結する。ポールはプロモーターだから、ビジネスのことは彼が考える。ツジさんは券売のこととか、考えないで、最高のライブだけをやりにロンドンに来てほしい」
ぼくはびっくりして、言葉が続かなかった。
「でも、そんなこと今言われても、明日、Youtubeライブもやる予定だし、実は毎日、日記も書いているんだ。あゝ、なんて、言えばいいの?」
「正直に言えばいいよ」
マットはその後、2時間以上、まじで、情熱をもって、ぼくを説得し続けたのだった。
18時半に集合し、解散が23時過ぎであった。

滞英日記「突然、出現したマット・ゴスが驚くべきことを言い出し、ぼくは驚嘆した」



「ツジさん、ぼくが責任をもって、いい会場を探すよ。ここはロンドンだからね。いくらでもいい会場がある。心当たりがある。ぼくの知り合い、業界の人間にも連絡をし、みんなに協力してもらう。ぼくは17歳から英国の音楽業界でやってきた。あなたのことが好きになったから、全力で応援させてもらいたい」
マット、あなたはだれ? なんで、ぼくのために、そこまで真剣に言ってくれるの?
これは本当に信じられないことだった。
確かに、大成功したパリのオランピア劇場とは違い、準備不足で宣伝もほぼできていなかったし、チケットが思うように売れていなかったことで悩んでもいた。
埋めきれないのだから、満杯にできる会場にして、楽しくライブをやろうよ、という提案だった。要は、ぼくの負け。オランピアの成功の勢いで英国に上陸してはみたが、という話し、あはは。
でも、キャンセルだけはできない。
「キャンセルはしない。場所を変えるだけだよ」
不意に、この男がぼくの前に、現れ、4時間にもわかって、ぼくを説得したのだった。
英国では人気の歌手だ。
初めて会った人間が、他人に、ここまで情熱を傾けられるだろうか?
なんで、と思うのも当然だった。
しかし、彼はそういう英国人だったのだった。
そして、彼の説得を受けて、前向きにそれを実行しようとしているポールという人も謎であった。
この人たちはなんで、ぼくの前に、現れたのであろう。

滞英日記「突然、出現したマット・ゴスが驚くべきことを言い出し、ぼくは驚嘆した」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
今日、24日、日曜日のロンドン、Youtubeライブは結構します。ゴールはケンブリッジ劇場周辺になるでしょうが、明日の動きを見て、決めますね。ともかく、コベントガーデン周辺をうろちょろしています。楽しいライブにしましょう。

ケンブリッジ劇場から違う会場への変更について、ですが、今日が土曜日なので、月曜日にならないとあらゆることがわからないので、ぼくは会場が決まるまでロンドンに残って、出来れば新しい会場を見てから、パリに戻ることになると思います。(本当は明日、ケンブリッジ劇場の下見をする予定でした)今、ケンブリッジのチケットを購入しようと思っていた皆さんは、数日、待ってください。また、現在、ケンブリッジ劇場のチケットを持っている方にはマットが会場を見つけ次第、主催者であるポールから連絡がいきます。(日本語と英語で)ここからはマットが力を貸してくれます。たった、今、起こった出来事なので、頭がまとまっていません。ポールからメッセージで「今日はぐっすり寝なさい」と書かれてありました。明日から、徐々にお伝えしていきます。
なので、今日のYouTubeライブは、コベントガーデンをひたすら歩くブラツジになります。
☟☟☟ 登録、視聴は、こちらから。

https://www.youtube.com/channel/UC8LNCip_zv44ZIkcTeiYReQ

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