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滞仏日記「フランス全土で外出制限がはじまる。17日の正午より」 Posted on 2020/03/17 辻 仁成 作家 パリ

マクロン大統領は国民に向かって、20時より、13分程度、新型コロナウイルスの拡大をおさえるためにフランス全土で17日の正午から2週間程度の外出制限を実施すると宣言した。これまで通り、薬品や食料品の買い出し、簡単な運動などは認められるが、それ以外の外出は出来なくなる。どのような状態になるのか、明日にならないとわからないが、今日は昼過ぎからパリ市内に警官が立っていたので、もっとそれが強化されることになり、うろうろしていると注意を受けたりするのだろう。イタリアの場合は外出理由の書かれた書類の携帯が義務づけられているが(逮捕、罰金がある)が、どうも今日の説明だとフランスの場合は言及がなかった。(結局、その後、書類はダウンロードして、外出理由を書かなければならないことが判明。さらに違反者には罰金も)ただし、医療従事者が使うタクシー代、ホテル代は国が持つ。さらに、各企業に関しては、その大小にかかわらず、この期間の必要最低限の経費、家賃とか電気水道代も国が負担するとのことであった。

※ この後の政府発表やフランスの報道をチェックし、細かく修正変更をします。

滞仏日記「フランス全土で外出制限がはじまる。17日の正午より」



息子は、逆に、今はこれでよかったと思うよ、と満足そうに言った。
「パパ、2週間、みんなが外出しなければ、今のコロナの勢いはある程度おさえられるんだ。もちろん止めることは出来ないにしても、ゆっくりとピークに持っていくということじゃないか、と思うよ。他に手はないので、早い決断でよかったとぼくは安心しているけど。休校だけだときっと成果が出にくいから、全部を止めて敵の快進撃をおさえたいんだよ」

フランス人は、イタリア人、スペイン人と同じラテン系なので、同じ欧州でもお隣のドイツの人たちとはちょっと生真面目さの本質が違っている。意外かもしれないけれど、フランス人は、どこか陽気で、楽天的で、明るい性格も持ち合わせている。なので、一メートル以内に近づくなと言ってもなかなか日本人やドイツ人のように厳守できなかったりする。先の日曜日も快晴だったので大勢の人が闊歩していたし、セーヌ河畔では人だかりさえ出来ていた。

政府の人たちが嘆いていた。国民性というのか、そこがフランス的でもあるわけだからぼくは好きだけど、政府もその辺をよくわかった上での外出制限だと思う。感染者数はドイツも多いのだけど、死者数は圧倒的にラテン三国の方が多い。さらにはフランスの場合、国民気質の問題と医療態勢に若干、不安があるのかもしれない。今、フランスは病床の数が足りていないし、医療従事者からクレームが出るほど、予算も人も足りていない。医療関係者の人たちが政府に、これでは感染拡大をおさえられず、しかも医療崩壊を起こす可能性があると訴えたに違いない。(医療従事者の子供たちは特別に、一部の学校を確保し、国が面倒をみているらしい。そうじゃないと働けないからだ)

イタリアは最初に北イタリアを封鎖してから、全土へと封鎖を広げた。けれどもそのタイムラグが全土への感染を逆に広める結果となった。フランスはその轍を踏まぬよう、早い段階での全土の封鎖をやるということであろう。成果が出ることを祈るばかりだ。30日までのこの二週間の外出制限が、その先の選択を左右することになる。

さて、今日の父ちゃんの料理教室は昨日のハンバーガーに続いて「卵焼き」の作り方を息子に教えた。形は悪かったけれど、なかなか美味しかった。銅製の卵焼き器の扱い方、火の加減など、結構専門的だったが、子供はそういう厄介なものの方が面白がる。とても有意義な料理教室となった。明日は鶏肉の和風カレーを教えようと思う。こういう大変な時こそ、逆手をとって、家族の絆を強める機会にしたらいいのだ。息子も、友だちと遊び歩けない時期なので、観念したのか、自分から料理を学びたい、と言い出した。一週間後には、息子がシェフになって、ぼくが客になり、豪華なランチ会を計画している。外出制限は今のところ2週間程度だし、イタリアほど厳しくもなさそうなので、親子の時間が増えたと思って、いろいろと話しをする機会にしてみたい。

滞仏日記「フランス全土で外出制限がはじまる。17日の正午より」

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