JINSEI STORIES

退屈日記「ロックダウンの恐ろしい罠、2」 Posted on 2020/04/26 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、家から出られないのに、なぜかテレビに出演する機会が増えて、最近はスカイプまで登録させられて(笑)、ついにスカイプデビューまで果たし、もうボロボロの顔なのに、下は映らないからジャージ姿で、出演していたりすると、外出できないのに、スタジオとは繋がっているという、実に奇妙な経験を積んでいる。スカイプと電話の違いはよくわからないのだけど、間に入っているタイタンの小野寺さん曰く、あまりに短いコメントだけならば電話、ということらしい。たしかに、ヘアメイクさんがいるわけじゃないので、スカイプといえどこのボロボロな状態がさらされてしまうので、できれば、電話が助かる。そこまで気を回せないのが実情なのだけど、何か少しでも日本に情報をと思うと、引き受けてしまうのだ。それに、だいたいが、何か、身体動かしてないと、今日が、昨日や明日とくっついてしまって、曜日も時間もわからなくなってしまって、困ってる。今日もこれから、スカイプで一本出演、収録だけど、がある。もはや自宅のリビングルームがスタジオみたいになりだした。これも新しいリモートワークと言えるのか。収録の後は、ついでに大学のオンラインの授業も収録する。



それにしてもスカイプや電話で言えることには限界があり、電話を切った後、奇妙な気怠さに見舞われる。でも、日本の皆さんも不安だろうから、ぼくと息子が経験していることが役立つならばとメモをとったり気が付いたことはこうやって日記に書いて伝えたいと思って頑張ってはいるのだけど…。

とにかく、やることがないし、こういう状況だと外出したくもなくなるし、最初は息子と燃えていた筋トレも既にやらなくなってきた。するとフランス人の友だちから次々に「注意をしろ」というメッセージや映像が届いたので、なんだなんだ、と慌てて開いたら、ジャージばっかり履いているとジーパンが履けなくなるから、今すぐ試せ、と書かれてあった。慌てて、いつも履いていたスリムジーンズを履いたら、うう、確かに太ももが、やばい。

退屈日記「ロックダウンの恐ろしい罠、2」

退屈日記「ロックダウンの恐ろしい罠、2」

※ ロックダウンの前、と、ロックダウンの後…、みたいな。

退屈日記「ロックダウンの恐ろしい罠、2」



つまり、他にすることがないので、ついつい食べ続けてしまうのである。あり余った時間に対して、それくらいしか愉しみがない。しかも、ぼくは料理が得意なので、つい凝ってしまうし、美味しいものを大量に拵えてしまう。今日のランチはシンガポールライスだったし、午後にはタルトタタンを作り、夜はあまりに時間があったのでゴマペーストを使って担々麺を作った。(カロリー度外視!)

他にすることがないという理由だけではない。これらの暴飲暴食は、どうやら心理面から来ている要素が強いようだ。つまり、経験したことがない封鎖措置の、そこから来る不安のせいで、つい食べるものに手が出てしまう。今後、食べられなくなるかもしれないという不安から、今、食べられるうちに食べておこうという心理が働いてしまうのだ。これは実に恐ろしいコロナの副作用と言える。外出してもスーパーしか行けないので、すでにストックが十分あるのが分かっていても、ビールや生ハムなどを買ってしまう。普段、それほどビールを飲まないぼくが昼も夜もビールを飲んでいるのだから、太るに決まっている。しかも、体重計の電池が切れていて、特殊な電池だからスーパーでは買えないし、ぼくはいったい今現在何キロなんだ!しかも、タルトタタンがこれまためっちゃ美味しくて、味見をしたら、やばかった。

退屈日記「ロックダウンの恐ろしい罠、2」

ロックダウンになって6週目に突入した。ますます、運動不足で、変な体形になりつつある。息子が昨日すれ違いざまにこう言った。
「パパ、ちょっと変な身体になってるよ。気を付けな」
ぎゃふん。

退屈日記「ロックダウンの恐ろしい罠、2」



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