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滞仏日記「終息はないという現実を直視する生き方」 Posted on 2020/04/23 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、収束はありえると思う。分裂や混乱が次第にまとまって収まりが付いていくという意味なので、この新型コロナ戦争混乱状態は現実を受け止める、ある程度の医学的成果が出始めれば一定の収束を見るだろう。ロックダウンの解除などが行われているので、世界が収束へ向かいつつあるという言うことは出来るかもしれない。しかし、物事が終わって完全に終える、止むという終息に関しては、ぼくは悲観的な意見しかもてない。それは単純にこの世界から風邪やインフルエンザが消え去らないことを考えれば理解貰えると思う。



実は誤解しがちだけれど、風邪を死滅させる風邪薬は存在しない。対処の薬はあるけど、頭痛をおさめたり、のどの痛みをとる薬はあっても、のんだら風邪ウイルスが消えるというものはいまだ存在しないのだ。薬を飲んだら治癒しました、という風邪薬はいまだ開発されておらず、それが出来たらノーベル賞と言われ続けてきた。新型コロナも風邪と同じコロナグループなので、なんで新型コロナの薬が風邪より早く出来るとみんな思っているのか、不思議だし、ちょっとした誤解であろう。風邪に効く薬と言われているのはアスペリン(咳を和らげる)、ムコダイン(気道の粘液を調整し端を着り、年万区の正常化)、アンプロキソール(気道ねん液の分泌促進)、トランサミン(炎症を抑える)ビフェルミン(庁のバランスを整える)カロナール(熱を和らげる)などだけれど、これらはウイルス自体をやっつける薬ではない。

抗インフルエンザウイルス薬のアビガンは期待がかかっているが、これは要は細胞内におけるウイルスRNAの複製を妨げることで増殖を防ぐ仕組みの薬なので、臨床試験で結果が出れば多いに役立つとは思うけれど、予防薬でもなければ、これで新型コロナがこの地球から消し去れるというわけじゃないのだ。薬がRNAの複製を防げれば、快復を助けることにはつながるので、臨床結果を待ちたい。ワクチンの開発もしのぎを削って行われているのだけど、新型の変異が激しく、最近のインフルエンザワクチンがあまり効かないというのと同じ結果になる可能性もある。集団免疫を持てば新型コロナは無害になるという説を信じる政府が多いのだけど、国民の70%が罹る必要がある。(しかも抗体もすぐに消えてしまう人も出ている。とにかく厄介なウイルスなのだ)



フランスだと人口6000万なので、実に4200万以上の人が罹らないと集団免疫が獲得できないことになり、じゃあ、致死率が物凄く高いので、いったい感染者の中から何人死ぬことになるのか、と考えるとぞっとする。フランス政府は子供たちから社会に戻していく段階的解除を検討中、それは子供は罹りにくく、軽症、無症状で終わる可能性が高いからだ。最後にご年配の人が解除されるというのだけど、つまりその間に集団免疫を持たせる計画のようだが、70%というのは実にロング&ワインディングロード過ぎる。すでにご高齢の方々が不満を爆発させているのだ。自分らだって、外に出たい、と。

アビガンやヒドロキシクロロキンには期待をしたいけれど、どちらにしても緊急事態宣言やロックダウンが解除された時に、はい、終息です、とはならないということだし、科学者たちの多くは、インフルエンザのようにこの新型は世界に残り続けることは間違いない、と思っている。WHOまでがまさに今日、「間違いなく、先の道のりは長い。このウイルスは長い間とどまるだろう」と同じようなことを言い出していて呆れかえった。初期の頃に、人から人への感染は少ないとか、旅行や貿易を阻害する不必要な出入国禁止はやめるよう世界に呼び掛けたり、世界保健機構として、実にいい加減で怠慢で、その責任は百歩譲っても許されるものじゃない、とぼくは思っている。しかし、今現在、アフリカや貧困国のことを考えると、存続させるしか手がないのだ。資金の拠出は世界が負担するしかない、人道的な立場から。トップを変えた上とかで。

そこで気になっているのは「終息するまで頑張ろう」というメッセージだ。人間の忍耐には限界があるので、いつかこの苦しみが終わると思うからこそ、試練に耐え、訓練などが出来るわけで、一生続くとなったら、絶望しかない。ぼくがこのロックダウン中に、何度か絶望をしたのは、新型コロナの感染力や致死率が具体的に分かった時に覚えた感情の墜落によって。今は考え方を変えた。これは終息しない。人類はずっと付き合っていくものだという認識に変更したのだ。そう考えるようになってから、ちょっと楽になったというのか、割り切ることが出来た。いつかは風邪をひくように罹る病気なのだ、と思うようになり、そのために免疫力をつけたり、そのための行動、予防など(この病を知ることも含め)を徹底するようになった。収束するだろうが、前にも書いた通り、こういう感染症は第二波、第三波がさらに甚大な影響を及ぼす可能性が高いので、ロックダウンが解除されたからといって安心はできない。むしろ、再び人々が市中に出るので、大規模な再感染が始まるのは目に見えている。どうそれを防ぐか、どうやって軽症で終わらせるかをぼくは今必死で考えている。

滞仏日記「終息はないという現実を直視する生き方」

自分流×帝京大学