JINSEI STORIES

退屈日記「愛をください、と叫ぶ、この誹謗中傷の世界で」 Posted on 2020/05/24 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、花さんのことは知らなかった。そういう番組があることもぼくは知らなかった。でも、自分の子供でもおかしくない子がSNSの誹謗中傷で命を落とすのを平然と受け入れることが出来ない。ぼくも誹謗中傷を受けてきた。相当、すごかった。死んでいてもおかしくない時が何度もあったが、ぼくは図々しい人間だから、死を選ぶことはなかった。でも、花さんは違った。いじめというのは群集心理だから、ある時、何かがきっかけで、不意に世の中の反感を浴びることがある。匿名の集団心理は一旦火が付くと、抑えが効かくなる。個人というよりも、群衆に紛れた大勢の中の一人になることで、普段見せない裏側の心理がむき出しになり、いきおいで騒動に便乗し、あまりに軽い気持ちで攻撃に参加し、参加することで大勢の側の一人でいられるような優越に浸る、という悪い循環が生まれ、攻撃された個人はたまらなくなる。世界が全て敵になるのだから。



ぼくは昔から生意気だったし、いろいろと歯向かっていたので、いじめれた。中学生の頃が酷かった。その時の経験をもとに書いたのが「ピアニシモ」という小説だった。いじめを受け続ける主人公はぼくの分身でもあった。フランスでも「IJIME」という単語が通じるくらい、日本のいじめは国際化している。今回の花さんのことはフランスでも報じられた。イギリスでも、ドイツでも報じられている。いい加減、このような悲しい出来事を繰り返さないでほしいけれど、SNSの社会がここまで拡大すると、なくすのは容易なことじゃない。ツイッターとかインスタなどSNS側にもこれを機に、SNS内の行き過ぎた集団いじめを野放しにせず、何かのプロテクション機能を考えるきっかけにしてもらいたい。いじめから、脅迫にまで発展する例もある。SNS側の技術と誠意で人の命を救えると思う。ぜひ、早急に取り組んでもらいたい。

彼女のインスタの「ごめんね」という言葉が悲し過ぎる。朝、起きて、どうしても釈然としなかったので、ZOOを歌った。思えば、今日は本来ならば、オーチャードホールでライブをやる日だった。コロナのせいでライブはまた延期になってしまったけど、これを届けたい。コロナ禍の世界で、ぼくらはギスギスしてしまった。愛をあげたかった。