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暮らし日記「食べるスープ。スープを食習慣の中心に置いた健康法」 Posted on 2020/05/27 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ぼくが健康的な生活を心がける中で欠かさずやっていることがある。というのか、力を入れていることがある。それは献立の中に出来るだけスープを加えることだ。息子がロックダウン以降、ずっとダイエットをしているので、辻家ではスープが主食の日が多くなった。ご飯とかパスタを控え、昨日の夜はスープだけで終わった。それじゃ、お腹がすいて眠れないじゃないか、ということにはならない。なぜなら、辻家のスープは長らく、飲むスープではなく「食べるスープ」だったからである。



フランス人は「スープを飲む」とは言わない。興味深いことに、彼らは「スープを食べる(manger de la soupe)」と表現するのだ。言われてみれば、スープ・ド・ポワソンや、オニオングラタンスープなど、フランスのスープは結構食べ応えるのあるものばかりである。ぼくは、栄養素も高く、食材のエキスを濃縮した、このパリ・スープをランチの中心に据えている。そこである頃から、食べるスープを研究するようになった。他のものを食べないでもバランスよく栄養素が取れるし、しかも食べ応えがあり、一食として満足できるようなものを考えている。

息子が炭水化物抜きダイエットを始めてから、この「食べるスープ」が辻家のメインディッシュになった。昼はスープと生野菜、夜はスープとチーズ、といった食生活が続いているが、空腹感を覚えたことはない。

大昔から、欧州文化の中心地であり、食の都でもあるパリ。当然、世界中から美味しいものが集まり、人々の交流と共に食文化も混ざり合って、他国では決して味わうことのできないパリならではの凝縮された味が育ってきた。パリで味わうスープのバリエーションといったら驚くほどに多種多様で、それらがフランス人によって実に国際的にアレンジされ、もはやスープと呼ばれるカテゴリーを超越しているものさえ存在する。フランス料理だけではなく、アジア料理、アフリカ料理、南米料理、中華料理、北欧料理、東欧料理、アラブ料理、どの国の料理にも美味しいスープがあり、結構どれも食べ応えがある。これは厭きることもない。

暮らし日記「食べるスープ。スープを食習慣の中心に置いた健康法」

暮らし日記「食べるスープ。スープを食習慣の中心に置いた健康法」



スープ好きが高じて、料理雑誌dancyuのウェブ版でスープのレシピ連載「パリスープ」が隔週でスタートした。女性自身のウェブ版でも「ムスコ飯」の連載が毎週すでに5年以上続いている。毎週連載に隔週のdancyu連載が加わり、ちょっと大変になってしまったけれど、料理が好きだから、苦ではない。dancyuは料理専門誌なので、どうしても手の込んだものになってしまうが、男性の読者も多く、同じような料理好きなお父さんたちからの受けも悪くない。「ムスコ飯」は簡単な家庭料理をご紹介する感じで、「パリスープ」の方は手の込んだ食通向けの連載というすみわけを自分の中ではやっているつもりだ。

しかし、食べるスープという発想は、とってもフランス的でありながら、実はこれからのぼくらの食生活を考えると、健康志向にもマッチするし、ダイエットにも都合がいいし、何よりも美味しいし、食べ応えがあるので、おススメである。今日は、最新連載の「ポタージュ・ペキノワ」をちょっとご紹介してみたい。フランスで暮らすようになったおよそ20年前、アジア飯を無性に食べたくなり飛び込んだ中華レストランのメニューにPotage pekinois(ポタージュ・ペキノワ)とあり、北京風のポタージュとは何だろうと思って試したのが、このスープとの出会いであった。(実はポタージュ・ペキノワは四川料理なのだけど、1960年代のフランス人が一番知っていた都市が北京だったところからこういうネーミングになった)ようは、日本でも馴染みの「酸辣湯(サンラータン)」のことである。ピリ辛酸っぱいポタージュ・ペキノワの特徴は、白胡椒の辛さとお酢の酸っぱさにある。トロッとしていて、かなり具沢山、卵でとじてあることなどがポイントなのだが、まさに「食べるスープ」を地で行くのがこのスープだ。酸辣湯がフランスに定着する中で、食べるスープを好むフランス人好みにアレンジされていったのであろう。それでは、一緒に作ってみよう。dancyuさんに許可を得たので、こちらをクリックされたし、丁寧に作り方を記しておいた。
※レシピはこちらから。
https://dancyu.jp/recipe/2020_00003289.html

肉も野菜もしっかりと入って、これだけで十分な栄養をもったスープ・ペキノワ、夏の暑い日に、ふうふう言いながら食べるのがいいだろう。ごちそうというのはそういうものだと思う。ぼくはこれに添えて、昨日の残りの冷たいご飯と一緒に食べるのが好きだ。「食べるスープ」習慣、ぜひ、試してもらいたい。ボナペティ!

自分流×帝京大学