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リサイクル日記「パリのママ友ネットワーク、ママ友を通して知るもう一つのパリ」 Posted on 2022/06/19 辻 仁成 作家 パリ

※この日記は2020年の6月、三回目のロックダウンの直後、やや、明るい兆しが戻りつつあるパリでの、ママ友たちとのやり取り、・・・。もっとも、今もあまり変わりませんが・・・。

某月某日、昼ごはんを食べた後、キッチンで片づけをしていたら、不意に、イザベルからワッツアップのメッセージが舞い込んだ。「みんな元気、どうしてるの~?」ぼくは前にも話した通りフランス人ママ友のグループチャットに男性ながら参加している。外見はぜんぜん違うのだけど、セックスアンドシティみたいな感じなのだ。男性で参加しているのは有難いことに僕一人。フランスのお母さんたちは毎回本音トーク炸裂で、結構きわどいことも平気でペラペラしゃべってくる。本当に参加していていいのか、悩むこともあるけれど、作家的にはいい取材になるので、傍聴している。今日はロックダウンが終わり、いろいろと世の中が動き出した中、彼女らに降りかかった様々な問題について正直な会話が続き、タダで読んでいていていいのか、と思うほど抱腹絶倒となった。

リサイクル日記「パリのママ友ネットワーク、ママ友を通して知るもう一つのパリ」



イザベル:今ね、デプレのアニエスにいるのよ。服を見に来た! 夏服、可愛い。COSも充実してた。やっぱり、買い物楽しい。ロックダウン中、お金使わなかったから、反動で買っちゃいそう。
メラニー:いいわね、初夏だしね、ロックダウン長かったから、可愛い服着たい~。でもさ、もうすぐソルド(セール)なのに、今、行くのバカじゃん?
クレール:6月24日からよ、ソルド。
イザベル:そうなのよ、でも、ロックダウンの最中、おしゃれしなかったらから反動が出てる。おしゃれしたくって、したくってしょうがないの。みんな、おしゃれしたいでしょ?
アンヌ:したいー。水着も着たいー。COS、いい線いってるよね、安くて、でもちょっとシックで。狙いどころよね。
イザベル:店内はマスクが義務付けられてるからね、マスク忘れないように!
レテシア:毎日、マスクつけて働いてるじゃない、だから、メイクとかしなくなって、やばいのよ。メイク面倒くさくなって、女じゃなくなりそ~。
レイラ:あたし、普段、黒髪でまっすぐでサラサラでしょ? でも、ロックダウン中、髪の毛染めるのも面倒になって、白髪のままロックダウン解除になって、本当は酷い天パなの、で、そのままマスクして出社したら、誰も部署の人、私だって気づいてくれなくって。あたしよ、あたし、レイラよって言って、マスク外したら、メイクしてないものだから、もっとみんな分かってくれなくて、あなた誰って訊かれちゃったの。酷くない? 
マリオン:嘘~、やだ、レイラ、あんた、どんだけ普段厚化粧なの?
レイラ:あと、体重がロックダウン太りで5キロ増えたから、それもある。
アンヌ:私も太った。だって、食べることしか愉しみなかったから、毎日のように子供にケーキとか焼き菓子とか作ってた。余ったの結局全部食べちゃって。洋服買いに行きたいけど、サイズが心配。海とか行けないかも。
レテシア:バカンス、どうするの? 海外出れないし、国内かしらね。
アンヌ:不景気で、お金がね、今年は贅沢できないから、田舎の家に行くしかないかも。
イザベル:田舎の家(別荘)がある人が羨ましい。うちはないから、ノルマンディ当たりのエアーB&Bかな。それでも家族で行くとそれなりに高いから、もしかしたらパリに残るかも。
レイラ:夏もパリだと、もう白髪染めなくなって、メイクもしないで、太って、秋がやばいわ。全員で待ち合わせしても、誰が誰だかわからなかったりしてね。(笑)

ぼくは在パリ日本人ママ友ライン会にも唯一の男性として参加。皆さん在仏歴20年選手ばかりで、ご主人は全員フランス人なのだ。話すことは主にお子さんのこと、料理のこと、情報交換、それから日本の暦にあわせた海外在住者ならではの日本ノスタルジー談義が中心である。ご主人のことはほぼ話題に出てこない。笑。セックスアンドシティっぽいフランス人のママ友とのこの差は何だろう、と驚くばかりだ。けれども、作家としては、この比較はいい勉強になっている。

レテシア:ヒトナリ、いるの? 
辻仁成:oui,je suis la(いるよ)。
一同:ボンジュール。
辻仁成:ボンジュール。盗み読みしてたよ。ぼくもCOS着てるよ。メンズは大きすぎるので、レディースのSかMがちょうどいい。ジャケットだとXSでも大丈夫。
一同:わお~。(意味不明のスタンプ、他)
辻仁成:他におススメのブランドある?
アンヌ:日本人のIRIE WASHも好きよ。
辻仁成:ざぶざぶ洗えるからいいよね。ぼくも何着か持ってるよ。
レイラ:ZADIG&VOLTAIREとかツージー、似合いそう。
辻仁成:昔、よく買ってた。ロックだよね~。
イザベル:A・P・Cとか? 高級過ぎないで気楽に着れて、でも、大衆的じゃない、新しめのカジュアルがいいわ。
辻仁成:あの、皆さんに質問だけど、上半期はコロナで人生ひっくり返ったじゃない。この長いロックダウンを通して、何か生活の価値観が変わった人がいたら教えて貰える?

リサイクル日記「パリのママ友ネットワーク、ママ友を通して知るもう一つのパリ」



真面目な質問をしたつもりだったけれど、結構きわどい返事も戻ってきた。でも、実にこれがフランス的だな、とぼくは思ったのだ。
イザベル:私からいい? 実は夫と離婚をすることにした。
一同:わお~、(意味不明のスタンプ、他)。
イザベル:恋人はいたけど、それが原因じゃない。それが証拠に恋人とも別れることにしたの。理由は特にない。子供たちも理解してくれている。コロナでずっと一緒だったでしょ、この人じゃないって、気が付いちゃった。で、話し合った。そういう年ごろなのよ。よくある話しでしょ? でも、ロックダウンではっきりとした。この人とは同じ屋根の下で暮らせないんだってことが。ならば一人で生きて行く方がましよ。私には仕事があるし。
アンヌ:私は離婚して10年になるから、新しい家族が出来た。相手にも子どもがいるので、家族が増えた感じ。ま、難しいところもあるけど、複合家族として新しい価値観を持って生き始めたところ。
メラニー:価値観はわからないけど、マスクは手放せない、と思う。フランスが収束宣言を出したとしても私はずっときっと一生マスクをし続ける。フランスもついに、そういう時代になったということ。
マリオン:家族を今まで以上に大事に思うようになったわ。それから、私は3月17日から今日までずっとブルターニュにいる。田舎の生活に慣れた。もう、パリには戻らない。戻るつもりはないの。都会は怖い。これから先、何が起こるかわからないから、ここで、暮らすわ。子供たちもこっちの学校にうつすつもりよ。さようなら。(笑)
一同:わお~、(意味不明なスタンプ、他)。
クレール:そうね、私は医療従事者だからみんなに警告をしておく。コロナウイルスというものは夏には流行しないのよ。インフルエンザと一緒なの。でも、10月になったら、再流行が必ず始まると思っておいて。これはインフルエンザと同じように今後、続くことになる。ワクチンも特効薬も出来てくるからそのうちある程度緩和されるだろうけど、暫くは強いのが襲ってくる。秋から来春までは再び大変な状態になっている可能性があるということを忘れないで。価値観なんてどうでもいい。常に備えて生きることよ。再び、病院が大変なことになるだろうから、罹らないように、気を緩めないことが大事なのよ。

ロックダウン中のママ友トークはこちらから➡️ https://www.designstoriesinc.com/jinsei/daily-500/

 
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