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滞仏旅日記「フランスの田舎で雑貨やアンティークを探す愉しみ」 Posted on 2020/06/25 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ぼくは特に趣味のないつまらない男なのだ。でも、フランスの田舎を巡る旅の最中、ひそかに燃える愉しみがある。それが雑貨やアンティークの小物の物色である。フランスの田舎街はそこかしこに小さなアンティークショップがある。時間をもて余したマダムたちが趣味で開いたような店ばかり。結構いい加減な店も中にはあり、これで商売が成り立つのかと心配になるような店から、カフェが併設してあって、本格的に収集された商品が陳列された店まで様々で、買わないまでもふらりと立ち寄り、世間話しをして、時にはお茶などすすめられることもあって、人間交流の場であり、趣味の無いぼくには楽しい旅の目的にもなっている。ノルマンディー地方の海沿いの街にはだいたいどこにでもそういう店が何軒かあるので、ふらりと立ち寄っては油を売っている。この二日間で十軒ほどのアンティークショップや雑貨店、小物屋に立ち寄った。一軒の所要時間は30分。長い!

滞仏旅日記「フランスの田舎で雑貨やアンティークを探す愉しみ」

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滞仏旅日記「フランスの田舎で雑貨やアンティークを探す愉しみ」



ぼくの車は小型車なので大きな家具などは買えないけど、最大で椅子くらいなら運ぶことが出来る。でも、普段買うものは、片方の手でつかめるくらいのものが多い。今まで買い集めたものは、ガラクタみたいなものばかりだけど、家のあちこちにそういうのを並べて、にんまりしている。うちは築120年の古いアパルトマンなので各部屋に暖炉があり、暖炉はこういう小物美術館みたいになっている。

驚いたのはノルマンディのアンティーク屋なのに日本のものばかり置いてある店があった。ここはウインドーにずらりと並んだこけし。こけしの側面には「まつしまやー、あー、まつしまやー」と書かれていたりした。店主のクリスティーヌに訊いたら、なんでも、娘さんが日本で働いているとかで、たまにこういうのを送ってくれるのだとか。娘さん、このこけし、どこで買い漁ったのか、知りたい。ともかく、世界中からこういうものが集められて展示されているのがフランスのアンティーク屋なのである。パリにもあるけど、なぜか、どうでもいいものは地方の田舎街道に集中している。

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ドゴール将軍の絵とか、いつの時代のものかわからない勲章とか、コインとか、ろうそくたてとか、把手とか、ペーパーナイフとか、銅像とか、拡大鏡とか、銀食器などなど。

滞仏旅日記「フランスの田舎で雑貨やアンティークを探す愉しみ」

今回は買うのを断念したのだけど、このマダムの象は結構悩んだ。もしかしたら、帰り道に立ち寄って買うかもしれない。

滞仏旅日記「フランスの田舎で雑貨やアンティークを探す愉しみ」

結局、迷わずに買ったのはこの栓抜き。実はこれと同じものを持っているので、二つあるとさらに面白くなると思って買った。ロイヤルコペンハーゲンの60年代の栓抜きでパリだと70ユーロ、一万円くらいだったが、田舎街だと30ユーロって、パリがどんだけぼったくっているのか、分かる。

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ともかく、アンティーク小物探しをしていると、その村や街のことがよくわかって楽しいし、交流も生まれる。電話番号を交換して、また行くね、と約束をする人も出てくる。次にそこを訪れた時にはすっかり友だちになっているという寸法である。
実は、日本に戻った時も、京都とか、箱根とか、上野とか、下北沢とか、金沢などで、こういうアンティーク屋を巡る。京都はよく物色するけど、パリに持って来たものの中には明治天皇の晩餐会で使われていた小鉢とかお土産の文鎮などもある。銀の匙とか、日本のアンティークも高いけど、ものによっては思ったよりも安く手に入るので、あとは交渉次第であろう。

ぼくの仕事机の上やサロンの古いテーブルの上、暖炉の上などにこれらの小物がどんどんたまっていく。相当な老後に、ぼくがパリにアンティーク屋を開くのも面白いかもしれない、あ、もしくは日本のどこかに、出店して、これを一つ一つ売ってもいいだろう。買うことの楽しみ、売ることの楽しみ、人と人を繋ぐ道楽なのである。 

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