JINSEI STORIES

リサイクル・第六感日記「人間にはみんな誰かがついている、一人じゃないんだ。」 Posted on 2023/04/14 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、虫の知らせ、というのものは誰かが亡くなる予感のことだったりするけど、ぼくは本当にこれがよく起こる。
ふっと思い出したことがあるので、ちょっと書いてみる。
この間、ここにも書いたぼくの「ピアニシモ」の担当編集者だった片柳治さんが、その時、ぼくは40代だったけれど、パリで暮らしていた時のこと、寝ていたら、辻さん、と声をかけられたので目を覚ますと、ベッドの横にいて、時間が来た、そろそろここから出発しなきゃならなくなったので、といつもの優しい笑顔で言うのだった。
不思議なことに、彼の後ろに二人の男性が立っていた。
物腰の柔らかい人たちだった。
そして、物凄くリアルだった。
でも、あれ、これは普通じゃないぞ、変だぞ、と思った。
というのは、その少し前にぼくは片柳さんと病院の地下室(死体安置所)で対面していたのだから。
たまたま東京に立ち寄った僅か二泊三日のタイミングで彼が亡くなり、連絡があり、駆け付けたら、顔に布がかぶせられていた。
で、枕元に立ったのはその少し後のこと、3か月後のことだったと思う。
片柳さんは、残念だけど、もうぼくはここまでになるんだよ、辻さん、と言った。
ぼくはなんとなく輪廻のことかな、と思った。
星を離れるのかもしれないと思って、彼が消えていくのを見送った。
ありがとう、ありがとう、とぼくは心の中で思っていた。
なんでこんなことを思い出したのだろう。でも、こういう経験がたくさんあった。

リサイクル・第六感日記「人間にはみんな誰かがついている、一人じゃないんだ。」



その時、30代だったけれど、ぼくはよく車で移動していた。
とにかく、やたらと葬儀屋の看板が目に留まるようになり、それが日に何度も起きるので、おかしい、ということになって、最初は両親に何かがあるのかもしれない、と思って実家に電話をしたら二人とも元気で、でも、翌日も、その翌日も移動中に葬儀屋の看板が目に留まり続けた。
その回数がだんだん増えていく。
一日に十回くらい見るようになり、そもそもそんなに葬儀屋の看板ってあるだろうか? 
で、青梅街道を車で移動していたら、阿佐ヶ谷あたりで赤信号につかまり、車を停車させることになる。
ぼんやり赤信号を見ていたら、顔の左側がざわざわとなった。
何かがある、と思った。
誰かに触られているような感じ。
嫌な予感だった。
思い切って左手を見ると、細い路地があって、その突き当りに葬儀の大きな看板が出ていた。
翌日、ECHOESのスタッフが亡くなったのだ。
その同じ時期、バンド関係の仲間が立て続けに亡くなった。
でも、不思議なことに、それ以降、ぼくは葬儀屋の看板を見なくなる。

スペインに家族で旅行に行っていた時のこと、40代の後半かな、息子が、パパ、教会に行かなきゃ、と不意に言い出した。遠くに見える教会を指さし、あそこに行ってお祈りをしなきゃだめだよ、と言うのだ。
ぼくの手を引っ張るので、おかしいな、と思って従った。
大きな教会だった。正面にキリスト像があった。しかし、息子が手を合わせて、祈りだした時、ぼくの携帯が不意に鳴って、それは弟からで、父さんの死を知らされた。

リサイクル・第六感日記「人間にはみんな誰かがついている、一人じゃないんだ。」



ちょっと余談になるけど、息子は小さな頃、ずっとは白髪のおじいさんと一緒だった。東京にもその人はいたし、パリにもいた。
ある日、パリの、そう、片柳さんが現れたアパルトマンの廊下で、息子が天井に向かって話し込んでいるので、誰と話をしていたの、と訊いたことがある。
すると息子が、おじいさんだよ、見えないの? と言った。
どんな人? 白いお鬚のおじいさん、と言った。
息子が3歳とか4歳の頃だったと思う。なんの話しをしたの? 
あのね、いつも教えてくれるんだよ、命のことを、と言った。
実は、これには後日談があって、離婚の直後、ぼくと息子が二人切りで暮らし出した時、息子をたぶん、支えたのがこのおじいさんだった。
というのは、ジェレミーのカフェでご飯を食べていた時のこと。
不意に息子が、命について語りだしたのだ。パパ、見てごらん、ぼくらは決して一人じゃないんだ、と不意に言い出して、冬空の下を急ぎ足で歩く人を指さしながら言った。
このことは前にもどこかで書いたことがあるけど、ぼくはこっそりと携帯の録音ボタンを押した。
この携帯は福岡のホテルでランドリーに間違えて放り込まれ破壊されてしまうのだけど、一部をパソコンに抜き出していて、今もその音源の一部が残っている。
そこに録音されている幼い頃の息子はこうぼくに言った。
あのおじいさんが教えてくれた。
見て、ぼくには見えるよ。あの人の後ろに誰かがいるでしょ? 
あっちの人の後ろにも誰かがいる。
人間にはみんな誰かがついている、一人じゃないんだ。
だから、寂しいくはないんだよ、と語りだしたのだ。二人切りで暮らさないとならなくなった悲しみが彼に幻影を見せていたとも言えるけど、彼が3,4歳の時に一緒に生きていたあのおじいさんの吹聴じゃないか、とぼくは思った。
この話を16歳の息子にすると怪訝な顔をされてしまった。
録音物として残っているので証拠はあるのだけど…。でも、息子はそれを聞こうとしない。

なんでこんなことを思い出したのだろう。息子がいないアパルトマンの中で、暇だからかもしれないけど、いや、もしかすると、何かの虫の知らせなのかもしれない。ぼくは最近、やっぱりいろいろ気になることがある。
でも、あまり考えないようにしている。だれかがこの世界から旅立つということもあるだろう。
人間には順番があるのだし、それを察知するということは、その人と繋がっていた証でもあるのだから。 

自分流×帝京大学

リサイクル・第六感日記「人間にはみんな誰かがついている、一人じゃないんだ。」

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5月29日 辻仁成 パリ・オランピア劇場 ライブコンサ-ト!


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