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暮らしの日記「スーパーカーよりちょっと年代物の車を好むフランス人」 Posted on 2020/07/12 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、フランスでは滅多にスーパーカーを見ない。そもそも、超高級車を見ることがない。だいたい、駐車場が建物に付帯しているところは珍しいので、多くの人が路駐している。パリ市の住人であることを申請すると一週間10€くらいで路駐する権利が貰える。それも、だいたい区の半分以上をカバーする範囲で自由に駐車できるので、とっても便利だ。ちょっと買い物に、子供の送り迎えに、友だちと会う時に、自転車みたいにみんな使っている。

暮らしの日記「スーパーカーよりちょっと年代物の車を好むフランス人」



だいたいの人が路駐なので、どこも車で溢れていて、駐車スペースは奪い合いになる。中には前後の車と車の隙間0㎝という止め方をする人もいる。ちなみに、父ちゃんも狭い場所に入れるの得意だけど、慣れるとぶつけないでも縦列駐車出来るようになる。この話しは次回に譲るとして、フランスは車を生んだ国という自負があるし、ルマンとかのカーレースが盛んな国なので男性たちはこと車には一家言ある。イタリアに行くとスーパーカーを見せびらかす人が多い。ミラノのモンテ・マポレオーネ通りとか歩くと、めっちゃ凄いのがずらりと並んでいるのだけど、パリはシャンゼンリゼを歩いても大衆車しかとまってない。

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フランス人がこだわるのが、ちょっと古い懐かしの大衆車だ。クラシックカーというよりも、60年代、70年代の普通車で、いまだに乗ってるんだぜ、みたいな自慢。イタリアのフィアットのチンクエチェントの昔のやつとか、ルノーのキャトルとか、シトロエンの2CVとか、まじでずっと乗り続けているのだから、凄い。でも、街並みにあっているし、若い子たちにも人気なのだ。街に馴染んでいるし、とっても素敵で、車が人生の一ページになっている光景にはため息がこぼれる。ぼくは、そもそも、あんまり車には興味がなくて、走ればいいと思っている方だけど、欧州全域を車で移動するので、小型でも燃費が良くてエンジンのしっかりとした、実力のある車が自分は選んでいる。その上、普遍的なデザインを持った車が好き。美観を損なわない、街の色に馴染んだこのフランス人が選ぶ車たちが好きだ。

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内装はイタリア車が段とる素晴らしい。あと、塗装も今時の車とは違って、からし色系の淡いカラーが使われていて、渋いのが好み。思わず、運転している人たちを覗き見てしまうと、なるほど、という人が運転をしている。ぼくも小型車に乗っているけど、路地の多い、パリは小回りの利く車が本当に便利だ。小型車は駐車するのも便利だし、実用的で、自分の生活スタイルにあっている車を背伸びせずに乗り回す感じが好き。



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もう一つ、おまけなんだけど、この車、日本のダイハツが作っていた、日本ではミラジーノと呼ばれていた車で、どうやらこちらでは販売中止らしいのだけど、実はうちの近所に3台もとまっている。こちらでは「トレビス」と呼ばれてた。いまだに大事に乗ってる人がいて、しかも、3台って、凄くないですか。この車がフランス人に受ける理由がなんとなくわかる。小型車だけど、中が広くて、なんかデザインが欧州的なのだ。高くないというのも理由かもしれない。セカンドカーに使ってる節がある。トレビスが走っているのを見つけると、幸運な気持ちに見舞われる。こういう日本車も、もっと作ってもらいたいものである。ぼくの夢はいつの日か、日本車で欧州を踏破することなのだ。

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