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滞仏日記「辻家の節約、残り物再利用術、人生に余り物なし」 Posted on 2020/07/28 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、辻家は親子違った立場で、節約を心掛けている。息子は環境問題から、ぼくは金銭的、そしてもったいない精神から、無駄を出さない生活を念頭に置いて暮らしている。とくにかく、合理的節約が辻家の基本姿勢となっている。そこで、辻家の節約術を紹介したい。ある日、辻家は美味しいカツカレーを作った。必ず、辻家は通常よりも食べきれない量をあえて作るようにしている。まず第一に、経済的な側面からある程度の分量をまとめて作る方が経費を節約できる。材料の問題だけじゃなく、それを調理する時間や労力、火力などを考えてのことだ。

まとめて多めのカレーを作る時、肉量なども多少多くする。初日は、大人しくカレーとして食する。たとえば前日の残りのとんかつを、これも多めに作っておいて、添えることでカツカレーとする。一日置いたとんかつはオーブンで静かに温めるといい。カツカレーにすることで、カレーの量は減らして食べることができ、大量のカレーがさらに残ることになる。これがコツの第一となる。

滞仏日記「辻家の節約、残り物再利用術、人生に余り物なし」



一晩寝かせることでこの手の煮込み料理はおいしくなる。(夏は冷蔵庫で)これも、コツの一つだ。昼間は普通にカレーライスとしてさらっと食べてもよい。味変をしたい場合は、醤油などをちょっと垂らすのがいい。でも、一晩寝かせたことで深みが増している。夜はこれをカレーうどんに利用するのだ。だしは別で作り、おたま一か二程度そこに加える。ダシ感が出ることで、昼間のカレーとは味変が出来て、美味しい。冷やしにすることもコツである。そこに卵の黄身などを落とすことで、和風カレー冷やしうどんが出来上がる。この時期には最適である。

滞仏日記「辻家の節約、残り物再利用術、人生に余り物なし」

さて、ここで、もう一つのコツとしては、カレーは足が速いので食べるのは翌日までにし、初日に3分の一程度は一度冷凍にしている。さすがに4食続けてカレーというのはインド人ではないので、ちと辛い。一度、和食などに逃げた方がいい。中華とか、韓国とか、イタリアンという具合に巡回し、三日目、四日目くらいに、冷凍カレーを取り出し、自然解凍をする。一週間以上あけてもいいけど、冷凍焼けすると風味が落ちるので、早めに食べてしまおう。



さて、少し具が多めカレーが残っているので、まず、フライパンでざく切りの玉ねぎを炒め、色づいてきたら、お米を投入し、混ぜ飯を作る。卵などを入れてもいい。いい風味が出てきたら、解凍されたカレーを加え、よく混ぜ合わせ、最後に、ピザチーズをどさっと入れる。とろみが出た、ドライチーズカレーが出来るので、このままランチとかで食べてもいい。けれども、ぼくはこれでライスコロッケを作る。コロッケの形ににぎり、小麦粉をまぶし、卵を潜らせ、最後にパン粉を叩いて、揚げるのだ。サクサクのめっちゃ美味いカレーチーズコロッケライスが出来る。十分に味が染みているので、ソースなどは何にも必要ない。青い野菜を添える。辻家では昨日、大量の豚まんを作ったので(昨日の日記を参照)、それをサイドディッシュとした。中国とインドとイタリアがミックスしたようなランチプレートだけど、ま、硬いことは言わない。

滞仏日記「辻家の節約、残り物再利用術、人生に余り物なし」

最初のカレーが、形を変え、姿を変え、ランチとディナーを通過することになるのだが、ご存じのように、材料費は初日分だけになる。たとえば、昨日の豚まんも、皮の部分とタネの部分は別々に使えるので、再利用している。豚肉部で焼きそばを作り、皮の部分は中華パンを作っている。



辻家では焼き鳥をよく作るが、骨付きの一羽単位で買って、鶏肉の部位でいろいろな料理を楽しむ。骨は捨てない。骨でスープを作り、翌日は塩ラーメンにする。海老フライを作る時は有頭海老を買い、頭の部分は捨てずに、フライパンに油を引いて頭の部分を木べらでぐいぐい潰しながら、味噌ソースを引き出し、海老味噌風味のトマト魚介パスタソースに再利用している。もったいないを徹底することで、レストランよりもおいしい料理が超安価で食べられた上に、無駄なく余すところなく食べつくせる。

辻家の料理術は、もちろん、環境に必要だと考える息子の思想ともマッチし、同時に、生活費の削減にも繋がっている。料理が出来るということは、偉い、ことじゃなく、生活向上に必要な措置である。魚の最後はふりかけ。お肉の最後はスープ。野菜の最後もふりかけ。人間の最後は幸福、と辻家では決まっている。人生を余すところしゃぶりつくして楽しんで頂きたい。それが幸せというものだ。ボナペティ!

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