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暮らしの日記「オンラインお盆の時代。コロナ禍の新しい生活習慣を考える」 Posted on 2020/08/04 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、昨日、WHOのテドロス事務局長が「特効薬は現時点でなく、今後も存在しない可能性がある。(コロナにおける)影響は今後数十年に及ぶ」と未来に関し恐ろしいほど悲観的な声明を発表した。さて、このようなことを言われても、ぼくたちの生活は続くので、生活者は未来のことよりも、自分たちの生活をどうしていくのか、どうするべきか、について考えていかないとならない。

もうすぐ、お盆だけど、帰省がしにくい状況なので、少なくとも今年はオンラインお盆が流行るような気がする。若い子たちの中での感染拡大が懸念されているので、迂闊に戻るとおじいちゃん、おばあちゃんにうつしてしまう可能性があるからだ。「オンラインお盆」、これもコロナ禍で生まれた新しい日常なのである。



「オンラインお盆」だけじゃなく、この「オンライン」はコロナ禍の私たちの日常で大きな役割を果たすことになるだろう。オンライン井戸端会議、オンラインママ友集会なんてのも当たり前になるに違いない。井戸端会議は飛沫感染の可能性があるので、避けたいと思う人は間違いなく増える。幹事からURLが送られてきて、時間になると主婦たちが、エプロンで手をぬぐいながらパソコンの前に集結し、お茶菓子食べたり、もしかすると、ヨガなどしながら、世間話をするのが主流になるかもしれない。会わないでいいので安全だからだ。コロナの深刻度が増せば、あらゆるこれまでの行事がオンライン化することになる。

日常生活はオンラインで全部済ませるのは難しい。買い物は日々の主婦の憂さ晴らしであったが、ここも感染の可能性がぬぐえないので、人込みの多い時間帯をさけるようになるだろうし、密閉空間での買い物はここフランスでもみんなかなり気を付けていて、感染リスクが増えると言われる長い時間の密閉空間への滞在を避ける傾向が増している。ぼくなんかは15分以内に買い物は済ませるようにしているし、人の少ない午前中を買い物時間に変えた。今、パリはセールの季節だけど、意外と人の出が少ない。セール商品なんかを奪い合いするのは危険だし、デパート側も、規制している。WHOの懸念が当たれば、これが世界基準となり、スーパーやデパートの在り方も変わるかもしれない。とにかくご年配の方は買い物を怖がっているので、ぼくの家の近くのスーパーはひっきりなしに配達をしている。

暮らしの日記「オンラインお盆の時代。コロナ禍の新しい生活習慣を考える」



ぼくがもっとも懸念しているのは、家庭内感染なのだ。息子は16歳で、秋から学校が再開する。うちにたまに遊びに来る近所の子供たちは小学生が多い。特に息子が学校で感染をしても、無症状なので分からない。普通に接しているとウイルスを貰う可能性がある。学校が再開したら、家の換気もよくし、ぼくは家の中でもマスクを付けることになる。もともと、息子と触れ合うことは少ないので、そういう感染の心配ないが、幼いお子さんを抱えているお母さんたちは気にする必要が出てくるかもしれない。幼稚園などでの無症状感染は増えるだろうし、なにせ、子供たちは元気だから、大声ではしゃぐことで飛沫がかなり遠くへと飛ぶ。大人よりも感染力がある。お盆で帰省し、そういうお孫さんをおじいちゃん、おばあちゃんが抱っこすることで感染は拡大しかねない。ここは命のことを考えると、いろいろな対策をとる必要が出てくる。

お年寄りの病院通いは日常の一コマであったが、これも、難しくなる。院内感染はなくならないだろうから、病院側も、駐車場とかに仮設の風通しのいい年配者向けの簡易診療所などを作るところが出てくるかもしれない。ゴルフ接待もこれだけ感染が出てくると減らそうという動きが出ても不思議じゃない。カラオケ、クラブなどは若者を中心にすたれることはないだろうけど、ある年齢以上の人たちは歓楽街を避けるようになるだろう。飲食、娯楽産業への影響は恒久的に続く。それを回避するための、たとえば最強の空調の開発とか、コロナを気にせず娯楽出来るような設備の開発が進むだろう。コロナ禍が続くだろうけど、スーパーやデパートやシアターやバーとかクラブでの感染を防ぐための設備の変更などは加速するものと思われる。



学校の説明会なんてのも、今年からは無くなるのじゃないか、と思う。うちの子が通う学校はもうなくすと宣言している。だいたい、G7なんか開催して、密になって会議をやって、各国の首脳が感染したらシャレにならないので、オンラインにすべきとぼくはずっと言い続けているのだけど、多分、こういうのも、実際に誰かが不意に陽性になって、慌てて中止をするという感じになるのだろう。このように、慌てて陽性者が出たので、集会は中止になりました、というのが日常茶飯事になる。かつては台風のため中止となっていたのが、コロナで中止が増えるだろう。不意に予定が狂うような予測のつかない時代が来る、ということだ。ペストの時代も数十年以上続いたのだ。結局、人類はこれだけ科学技術が進んだというのに、大して進化はしていなかった。ペストの時代に一番有効だったのがロックダウンで、それは今も変わらない。

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