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退屈日記「パリツアーまであと五日、しげちゃんからのお願い」 Posted on 2020/09/15 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、9月20日に開催されるオンライン・パリ・エッフェル塔ツアーまであと5日、と迫った今日、東京にいるしげちゃんから、「当日を大成功させるために皆さんへのお願いがあるんです」ということで、急遽、ライン電話による緊急インタビューを試みることになった。いつでも急だけど、あまりこの人の速度感気にならなくなってきた。しげちゃんはお湯を入れて3分たつ前のインスタントラーメンという感じだ。常に、今だよ、食べごろは、という生き方が素晴らしいのだ。

退屈日記「パリツアーまであと五日、しげちゃんからのお願い」



「もしもし、しげちゃん」
「はい、辻さん、わちしです。こんにちはー、そちら朝からすいません。こちらは15時ですけど、ぼくは元気です。ピンピンしています。パリは暑さ厳しいそうですね。残暑お見舞い申し上げますー。そして、今日はぼくへのインタビューということでありがとうございます。緊張して昨夜は眠れませんでした。お手柔らにお願いします」
「しげちゃん」
「はい、なんでしょう」
「いや、大丈夫、その調子でお願いします。」
「辻さん、わちし、いつだってパワフルで明るく、人様を暗くさせないよう、ご挨拶は大きな声で、おっはよーごっざいますー、がモットーなんで、おまかせてください。この調子で、栗原しげ、37歳、昔は添乗員として、介護施設のお爺さん、お婆さんたちを、こっちでーす、この旗の方に集まってくださーい、とがんがんみなさんを引率してきたのです」
「しげちゃん」
「はい、なんでしょう」
「ま、いいか、いいよ、それで」
「いやだなぁ、辻さん、思ったことは隠さず言ってください。しげは多少のことではめげませんから、元ボクサーですし、打たれ強いんです。最近はみんなすぐもうダメだとか、ナイーブな時代だけど、ぼくはせっかく神さまがくださった命なのだから前向きに乗り越えて、世界中を旅してもらいたいんです、そしたら明るくなります。旅先には出会いがありますし、感動がある。でも、今はコロナのせいで、旅が出来ない時代になっちゃいましたし、コロナのせいで人生を悲観する人も増えました。このオンラインパリツアーはですね。大勢の人に旅のすばらしさを思い出してもらい、生きる希望っていうんですか、世界広いんだ、いろんな世界があるんだ、綺麗な光りがあるんだ、生きていればまた行けるんだって思ってもらいたいんです。辻さん、訊いてますか?」
「しげちゃん」
「はい、なんでしょう」

「ちょっと先、進めていいかな?」
「あ、失礼しちゃいました。ご挨拶長かったですかね、わちし、人々に言いたいこと沢山ありすぎるんです。止めてくださいね、長くなっちゃいますから、つまり、ちっちゃなことで苦しんでほしくないんです。だったら、このオンラインツアーがまさにちょうどいいじゃないですか。で世界中の素晴らしいところを見てもらいたい、経験してください。絶対、辻さんと一緒に旅していると、いい気持ちになるし、辻さんってそういう人じゃないですか、誤解され過ぎですよ、だから、辻さんと美しい景色が観られるんだから、絶対気分が変わること間違いありませんから」
「しげちゃん」
「はい、なんでしょう?」

「ぼくの話しは余計だから、なんか、視聴者の皆さんに協力してもらいたいことあったんじゃなかったっけ?」
「ああ、そうでした。忘れてました。わちし、大事なことを今日、お伝えしたかったのです。すぐ話しが脱線するので、子供たちにも、パパ、話しがずれてるよーってよく怒られちゃうんですよ。歳でしょうかねぇ」
「しげちゃん」
「はい、なんでしょう」

退屈日記「パリツアーまであと五日、しげちゃんからのお願い」



「だから、お願い。言って、お願い!」
「ああ、お願いでした。はい、そうなんですしげからのお願いがあります。9月20日のエッフェル塔オンラインツアーは辻さんが皆さんをエスコートしてくださいまして、エッフェル塔周辺を一時間ばかり散歩をするのですが、イエナ橋の上で、視聴者の皆さんと生放送ですから、アンケートに参加して頂いたり、それからチャットの質問に答えたりして双方向の、生中継ならではの、視聴者参加型のイベントを計画しております。パソコンのキーを叩いてもらうだけでOK、チャットやアンケートに答えてもらいます。答えてもらいたいんです。やり方は番組の途中でアシスタントの中村さんから説明がありますので、簡単ですから、従がってください。わちし、が東京から顔出してもいいんですけど、パリの空気感に割って入るとエッフェル塔の雰囲気を壊しかねないので、わちし、普通の男ですからあまり期待しないでください。昔、ボクサーでしたから、ちょっと強面な顔してますが、娘に言わせると可愛いワンちゃんのような顔で…」
「しげちゃん」
「はい、なんでしょう?」



「話しそれとるよ」
「ああああ、失礼しました。つい昔話に花さか爺さんしてしまいました。ええと、何の話しでしたっけ」
「だから、本番中にアシスタントの人が、操作方法を教えるので、参加してほしい、ということですね、それは難しいの?」
「いえいえいえ、パソコンや携帯のキーボードを押すだけです。エッフェル塔と東京タワーどっちが好きですか? エッフェル塔が好きな人はこのボタンを教えてください、みたいな感じです。すると辻さんの横にいるフランス公認ガイドの中村じゅんじさんが持っているiPadに数字が出るという近代的な仕組みです。インスタライブみたいな感じですよ、超簡単。中村さんが流れていくチャットをチェックしていき、目に留まったものを彼が発表し、二人にこたえてもらうという視聴者参加型のイベントを、これはベルサイユでやりませんで、エッフェル塔の20日だけやらせてもらいます。辻さんへの愛の告白とかもあるかもしれないですね。やっとあえたねーと返すんですか?」
「しげちゃん」
「はい、なんでしょう」
「余計なことはいいから、お願いはそれだけですか?」

退屈日記「パリツアーまであと五日、しげちゃんからのお願い」



「はい、今のところ私からは以上です。あとはどんどん楽しんでもらってですね、一時間、素晴らしい思い出をご堪能ください。心配事項がちょっとあります。一つは天気ですが、フランス気象庁の天気予報によりますと、その日、最高気温27度、パリは晴れのちくもりでございます。やりました。天候をも味方につける天才しげちゃん37歳です。エッフェル塔ツアーは晴天じゃないといけません。晴れのち曇りというのは最初は晴れということが間違いない時に使う業界用語です。朝は絶対晴れております。大丈夫です。パリは朝の8時半スタートですから、絶対、ピーカンです。日本は15時半からになります。地球ってこう考えるとめっちゃ広いですね。この7時間の時差、この時差を生中継で一気に縮めます。日本とフランスは一万キロの距離がありますけど、これを生中継でぐんとお茶の間のテレビの中にお届けしちゃうと寸法なわけです。あと、様々な事情で、若干、電波が乱れる瞬間があるかもしれません。何せ一万キロの生高画質映像配信ですからね、でもご安心ください、フランス技術チームが待機しておりますので、問題はすぐに解消させます。慌てないでごらん頂いていて大丈夫です。はい、しげからはこんなところです。いかがでしょう」
「しげちゃん」
「はい、辻さん、なんでしょう!」
「そろそろ、時間になりました。インタビューは以上ですけど、よろしいですか?」
「あ、はい、ありがとうございました。9月20日、エッフェル塔ツアー、ぜひ、大成功させたいと思います。コロナで旅に行けず、もんもんとされている日本中の皆さんに、ぜひ、この機会に旅が楽しかったという記憶呼び覚ましてもらいたいのです。いけない時に行けないところへと行けるのがこのオンラインツアーの魅力です。「旅介」総力を振り絞ってこのイベントを成功させたいと思っております。21日のベルサイユ宮殿ではチャットイベントなどは出来ないのですが、二日間違った空気感のイベントお楽しみください。「旅介」はこれから世界各地で辻さんとオンラインツアーを企画し続けていきたい思います。ご清聴ありがとうございました!」
「え、ぼくも?」
「あたりまえですよ、もう離しません」
「しげちゃん…」

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