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自主隔離日記「ついに、コンビニ買い出しに成功したの巻」 Posted on 2020/10/14 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、悶々としていたら、携帯が鳴った。
別に変なことは想像しないでね。父ちゃんだって悶々とするのだ。
もんもん。もんもん。
それにしても、見覚えのない番号である。だれ?
普段は出ないのだけど、自主隔離中の身なので、もしかすると厚生労働省さんからかもしれない。
何かあるといけないと思い、出てみると、フランス語で、
「ボンジュール。ムッシュ・ツジ?」
と若い声が弾けた。
怪しむ、父ちゃん…。ツジって言ってるし、誰だろう?
「アロー? ムッシュ・ツジ?」
用心しながら、ウイ~、と言ったら、今度は日本語で、
「あ、ジュリアンです~」
と戻ってきた。
ジュリアン? どちらのジュリアンさん? 
悶々としていたので、イメージが頭の中ですぐには結ばなかった。
「メグちゃんとこのジュリアンです」

「メグ…、ああ! メグ太郎か!」
一時期、うちの近くに住んでいた日仏カップルご夫妻の息子くんのジュリアンだ。
奥さんが日本人のメグ太郎、御主人がフランス人のハム太郎、まちがい、ジャンジャック!
二人はお酒とかワインなんかの輸出入の仕事をやっている。
3年前に東京に移り住んだ。
え? でもなんで、ぼくの日本の携帯知っているの?
するとジュリアンはうちの息子からワッツアップが入って、ぼくが「自主隔離で宿から出られないって騒いでいるから、よければコンビニに買い物に行ってやってもらえないか」と連絡があった、のだそうだ。
「マジ?」
「マジ。いい息子もったよね~」
え、そういうこと? 
いい息子? 誰が??? 
「自分で言ってましたよ」
「?」
「パパは、いい息子を持ったことわかってないって」
カッチーーーーーーーン。

自主隔離日記「ついに、コンビニ買い出しに成功したの巻」



「住所聞いてびっくり、メトロで一駅となりなんですよ。辻さんの宿からうちまで歩いても余裕っす」
「マジか」
「マジマジ。あ、ママが隔離終わったらご飯にお招きしたいって」
「ふっ、(力が抜けて、微笑みながら、ため息が出た父ちゃんの声)」
ジュリアンはうちの子より1~2歳上(たぶん18歳)だけど、くらべものにならないくらい性格のいい子で、ルックスもモデルみたいで、日本のアニメが大好きで、なんか喋り方や行動がマンガっぽくて、フランスに多いタイプなのである。
「だから、コンビニ行かさせてもらいますね」
「マジか」
「余裕っす」

ふってわいたようなありがたい申し出であった。
実は日記を読んでくださった友人や仕事仲間など、各方面から「買い物行きますよ」的な有難いメッセージ貰っていた。
でも、ぼくは甘えるのが得意じゃなくて…。
ひねくれものだからで、申し訳ない。
本当に、皆さんのお気持ちに感謝である。
でも、ジュリアンならいい。この子、実にサバサバした性格で、明るく、とっぽくて、頼みやすいのだ。
昔、パリで暮らしていた頃、メグ太郎が作った卵焼きなどを配達してくれたことがあったっけ。懐かしい。
「超嬉しいんだけど」
「ぜんぜん、余裕っす」
「でも、差し金はうちの子なんやね」
「おじさん、そういうもんですよ、親子って」
あら、笑っちゃいそう。
そういうもんか、いや、噴き出してしまった。ぷはー。



ということで、ジュリアンに買い出しを頼むことになった。
ちょうど、自主隔離一週間の折り返し記念日である。残り一週間、これで乗り切れる。
「おじさんとこからだと一番近いのがセブンイレブン、あと、ナチュラルローソンもある。あ、普通のローソンも」
おじさん、…ちゃう、と心の中で否定している自分…。
「まず、各コンビニで何を売ってるか調べて、リスト作って、この番号にSMSする」
「毎日、買い物くらい楽勝っす、ってか、そこのセブンイレブン、自分もたまーに利用してるから。だから、思いついたら、ちょっとずつ言ってくれていいですよ」
「いや、そんなこと言ったら、ぼく号泣しちゃうよ。うちの子はおはようって言っても返事しないし、買い物なんかお小遣いあげないと行かないんだ」
「おじさん、悪口、ダメですよ。あいつ、いいやつだから。だから、ぼくのこと思い出して連絡来たんでしょ? 違います?」
「あ、まあ、そうか」
ぐすん。なんだか、泣きそうになった。
ぼくはこうやって年寄りになっていくのだろう。もんもん。
「とにかく、まずは最低限必要なものだけ送って。すぐ行くから。夕方から家庭教師のバイトがあるんで、できれば今、行きたいです。買ったものは、玄関の前に置いて、帰ります。コロナが怖いわけじゃなく、ママが今はそうしなさいって」
「そうだね、そうしてくれるとありがたい。お金は隔離が終わったら、ママに届けにいく」
「余裕っす、じゃ、待ってるね」
「すまない」
そして、一時間後、届けられた商品がこれだ。

自主隔離日記「ついに、コンビニ買い出しに成功したの巻」

ぼくが頼んだものはだいたいだけど、カップ麺2個、枝豆、一夜漬けのおしんこ、チーたらカマンベール、十勝カマンベール、ポテトサラダ、イタリア栗のモンブラン、マカデミアチョコ、刻み葱、天かす、明太子、シラス釜揚げ、スライスチーズ、キムチ、環境に優しい割りばし、ホイップクリーム、エビアン、など、以上セブンイレブンさん。
それから、写真に入りきれなかったけれど、奥出雲そば、きねうちなつかしうどん、祖谷そば、レンジ系の玄米ご飯、白ご飯など、特選ポン酢、有機めんつゆ、有機卵、紀州梅、炭火焼チキンサラダ柚子胡椒味、有機納豆、有機豆腐、などはナチュラルローソンさん。もちろん、ジュリアンは未成年なのでアルコールは頼まない。
エビアンで我慢だった。



思わぬ援軍が現れ、ピンチをしのげそうな父ちゃんであった。
それに、息子の生存確認もできたし、めでたしめでたし、一安心。
ということで、今日はやっと念願だった日本のコンビニ飯を食べることが出来たのである。
まずは、ローソンさんで買った「きねうちなつかしうどん」を食べることにした。
うどんの上にはセブイレブンさんで買った刻み葱と天かすを載せた。
ふるえる…。もだえる、もんもんだぁ、…。
今日は朝から悶々としていた父ちゃんだったが、これでスッキリした。希望が見えてきた。あと一週間、自主隔離万行まで一直線なのであった。
余裕っす。

自主隔離日記「ついに、コンビニ買い出しに成功したの巻」



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