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滞仏日記「突然の客人をもてなす辻式ホームパーティ術」 Posted on 2019/04/23 辻 仁成 作家 パリ

 
某月某日、イングランド・プレミアリーグに在籍する岡崎慎司選手の一家が我が家にやって来た。岡崎家4人(奥さんとお子さん二人)だけではなく、今回はオカちゃんのお父さんとお母さんも一緒である。本当はみんなでランチを食べる約束だったが、イースター(パック)でおすすめのレストランがどこもしまっており、ならばうち飯にしましょうということになった。親孝行をする岡崎選手の家族思いなところが僕は好きだ。だから、ちょっと疲れてはいたけれど、スーパーまで食材を買いに走ることになる。僕と息子をいれると計八人。ちょっと多めの人数だが、大丈夫。不意のお客さんが来ても僕は慌てることがない。むしろ、燃えるタイプなのである。
 

滞仏日記「突然の客人をもてなす辻式ホームパーティ術」

滞仏日記「突然の客人をもてなす辻式ホームパーティ術」

不意の客人の場合、しかも、5人を超える時はメインを煮込みにすることが必要不可欠である。しかも時間のかかる煮込みではいけない。さらにカレーのような誰もが作れるものはやめた方がいい。買い出しに向かう道すがら、僕は頭の中で計算をする。煮込みに使える時間×人数÷予算=デリシャスを目指さないとならない。お父さんとお母さんは日本から来たばかりで、昨夜もフレンチだったそうで、間違いなく胃が疲れている。クリームソース系やオイリーなものはいけない。食べなれた和風味がベースがいい。煮込みと言えば、肉じゃがとか筑前煮のようなものが喜ばれるだろう。でも、それだとパリまで来たありがたみがないので、僕はモロッコのクスクスを作ることにした。モロッコのクスクスは大根や蕪やニンジンなどの根菜と羊や鳥肉で作るのだけど、僕はあえて豚(イスラム教徒は絶対に食べることが出来ない)とメルゲーズと呼ばれる羊のスパイシーなソーセージを使う。豚の角煮とか、豚の煮ものを変化させたものである。ベースは昆布などの和風だしでとり、仕上げは柚子胡椒とアリッサでスパイシーに味を調え、クスクスにはタブレという米のカタチをしたパスタを使うけど、それだと胃で膨らむので玄米にした。それをクスクスと呼んで出したら、大変に喜ばれて完食であった。メインを煮込みにする一番いい点は、まとめて作ることができ、来客時にバタバタしないで済む利点、しかも盛り付けも簡単で、食べた満足感も強いので、大人数の時には便利である。
 

滞仏日記「突然の客人をもてなす辻式ホームパーティ術」

メインを決めたら、アミューズとか前菜だけど、大人数の時はまとめて出せるものがいい。家族なのだから、気を遣わないで手を伸ばせるもの。しかも子供がいるので、卵系は必須であろう。今回はスペイン風オムレツの卵の部分をあえて和風な出し巻き卵にして、一工夫。黒トリュフが一つ冷蔵庫で眠っていたので粉砕してニンニクとマヨネーズで合え、上に塗って出した。そうすることで食べたことのない味のオムレツが誕生し、これは見事に一瞬でなくなってしまった。アミューズ的な一品としてバケットを摘まみやすいサイズにカットし、今日は鯖があったのでこれでちょっとスパイシーなリエットを作った。シャンパンやワインなどにあうのでリエットはお手軽だ。肉で作ると時間がかかるが、魚だと焼いてむしってオリーブオイルとかハーブとかマヨネーズとかで和えればすぐ出来る。缶詰などを利用する場合もそのまま出さないで、たとえばイワシの缶詰はカットした黒パンなどに載せるだけでも、豪華そうな一品となる。見栄え×味×速度=デリシャスの法則である。

オカちゃんの奥さんの素敵な笑顔、子供たちの聡明さ、お父さんの控え目な父性、お母さんのダイナミックな愛情が、辻家に愛を連れてきた。お招きする者がもらえるものは客人の幸福である。帰りに岡崎選手が息子にレスターのユニフォームをプレゼントした。その時の息子の口元が次第に緩んでいく光景が僕をさらに満腹にさせた。任務を無事に遂行したという達成感に包まれた夜となった。
 

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