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滞仏日記「辻仁成的キッチン活用術」 Posted on 2019/06/05 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、僕はキッチンに立つと創作意欲がわく。だから献立で悩んだことはない。冷蔵庫を覗いて残ってる食材を確認したら、だいたいこれを作ろうというイメージがすっと頭に浮かぶようになっている。市場やスーパーで買い物をする時、すでに頭の中に一週間分の献立が出来ている。だから、冷蔵庫を開ける時はそれを確認する作業に過ぎない。料理をする時はまず大きな器を最初にイメージするのが良い。大きな鍋とかフライパンでもいい。何かベースになるものを一つ頭に描いて、それで足りないものを足していくのがベスト。たとえば今日は茄子と鶏肉のいいのが手に入ったので、この組み合わせで基本はてんぷらと決めた。鳥は塩を効かせた鳥天にする。アスパラとセロリとか、何かちょこちょこっとした根菜が野菜室に転がっていたので(食べられるうちに)それも一緒に揚げてしまう。白ご飯でもいいのだけど、暑いので蕎麦。ベースがてんぷらになったので、サイドに軽いものを考える。もやしがあるのでこれときゅうりでナムルを作った。僕は焼酎でいい気分になる。

ベースになる大きな料理は煮物系、煮込み系、スープ系が便利だ。日本の大根が売っていたので買った。これで大きな器を一つ作ることにしてイメージする。大根の煮物だけだと息子の手が伸びないので北アフリカのスパイシーな羊のソーセージ、メルゲーズ、人参、ズッキーニと一緒に煮込み、クスクスにしてしまう。ベースが和の味だけど、アリッサ(唐辛子ペースト)を加えることでなんちゃってモロッコ料理に大変身。白ご飯がとっても合う。一食目はこれにして翌日はカレー粉を入れ、最後は牛乳を足しモロッコ風カレーうどんにしちゃえばいっぺんで三食。大きな器だからできるバリエーションでもある。

夜、食べ残したものを翌朝の朝ごはんに活用するのは当たり前なので、僕は最初から残すもの、残す量を計算しておく。ご飯が一膳残って、ちょっとおかずがあれば、混ぜ飯にしておく。サランラップをして冷蔵庫に入れておくと、翌朝、チンするだけでいいので、助かる。夜の料理の時には必ず翌朝までの分を考えるのが主夫のテクニックなのだ。

栄養価と値段とのバランスを考えて、まずこのくらいの食材で一週間やりくりしてみようというものを最初に買い漁る。その段階で、すでに栄養などのバランスは計算済み。「身体によさそう。わ、安っ」とか独り言いいながらその日のセール品などを買い漁っておく。肉、魚、野菜をバランスよく買う。魚を大きな器にしたり、お肉を大きな器にしたり、野菜の日もある。スープ系などは野菜を絞って作るので栄養か満点。コキエット(小さなマカロニ)などを浮かべて腹持ちをよくしたり、工夫工夫の連続である。大事なことは料理と料理、食材と食材を組み合わせる力だったりする。レシピを参考にすることもあるけれど、だいたいは勘で出来てしまう。勘で作った方が圧倒的にうまいものが出来る。なぜなら食材も生きているので向こうから「今日はこんな風に食べてください」とか言ってくるのだ。「よしよし、美味しくしてやるから覚悟しておきなさいよ~」と冗談いいながら、僕は今日もキッチンで食事を作る。毎日しなきゃいけないことなのだから、楽しい方がいいに決まっている。キッチンが楽しくなればその家は安泰なのである。

滞仏日記「辻仁成的キッチン活用術」