JINSEI STORIES

滞仏日記「人生を無駄なく生き切るためのコツ」 Posted on 2019/06/11 辻 仁成 作家 パリ

 
某月某日、息子の友人イヴァン君が不意にやって来たので、サンドウッチを作った。二人は試験に向けて一緒に勉強をするのだそうだ。ご飯はいらないというけれど、昼時なのでササっとツナサンドとBSTを拵えた。食べないならあとで父ちゃんが食べるから、と言って出したら、案の定、一瞬でサンドは消えた。

僕はいつも何かをするとき、思いついたらすぐに行動をするようにしている。こういうことに躊躇する時間は無駄だと思っている。エッセイなどを依頼されたら締切日まで待つよりも依頼されたその瞬間にやっつけてしまって、早めに送る。あとあと、その締め切りに頭を悩まされ、時間を奪われるのが嫌なのだ。作家の中には締め切りを過ぎて、編集者に催促されてはじめて書く人もいるし、それが売れっ子作家の条件みたいに思っている人がいる。締め切りを一月くらい遅れて出す人は僕から言わせると作家失格だと思うし、編集者に大変失礼だ。僕は一度だけ締め切りを遅れたことがあるが、やむを得ない体調不良のせいだった。それ以外は作家生活30年、守り続けている。褒められたいからじゃない。自分が締め切りごときに人生を追い回されるのが嫌なだけ。だから腕時計をしたことがないのかもしれない。時間に支配されるか、時間を牛耳るか、は人間にとってとっても大事なことだと思う。

忙しければ忙しいほど仕事も人生も迅速にやるのがいい。そもそも忙しいという言葉は他人や家族や周囲に向けての言い訳みたいなものだから、僕は忙しいという言葉をあえて頭から消している。忙しいのせいにして、人は家族との時間を減らし、子供と遊ぶことをせず、仕事も怠慢になる。でも、好きなことをする時間は必ず見つけているし、好きなことならどんなに時間がなくても寝るのも惜しんでやるじゃないか。

僕も映画だ音楽だ連載だ小説だこのデザインストーリーズの編集だって。毎日書いてるこの日記も今のところ本当に毎日書いている。(笑)来月映画の撮影がはじまるので、さすがに書けない日も出てくるかもしれないけど、きっと時間をやりくりして書いているんじゃないか、と思う。無理と思う前に、時間は作るものだ、と自分に言い聞かせていたりするから、ちっとも苦痛と思ったことがない。

イヴァンが来るよ、と言われた瞬間に、サンドイッチを作らなきゃ、と思った。それを食べてる子供たちの笑顔のイメージが僕にそうさせるのだった。とある人に、「君は時間を手なずけているよな」と褒められたことがあった。時間を上手に操ることが出来ると人生が何倍も楽しくなる。限られたこの一生、思う存分に生き切りたいじゃないか。前向きに生きたろう、という言葉を僕は、時間を手なずけてやるぞ、という意味に変換している。
 

滞仏日記「人生を無駄なく生き切るためのコツ」