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滞仏日記「フランスの肉屋(ブッシュリー)は凄いの巻」 Posted on 2019/06/21 辻 仁成 作家 パリ

 
某月某日、フランスは農業国だから、食べるものは日本に負けないほどに充実している。野菜もうまいけど、特に狩猟民族だったからか、肉ものが充実している。で、料理が得意な僕でも毎日一から作ってばかりはいられない。今は映画の撮影前だから仕事場でカット割りの毎日なのだ。朝、昼、晩と、育ち盛りの息子に何か食わせないとならない。主義主張があって、もちろん金銭的な理由もあるけれど、出来る限り手作りを心掛けている。そこで、そういう時に、僕は肉屋へ走る。日本の肉屋にもコロッケやポテサラなどの総菜コーナーがあるがフランスの肉屋の出来あい料理はもっと凄い。サラダも人参サラダ、タブレ、マッシュルームサラダなど結構種類がある。当然、テリーヌも充実しているし、パテ・オン・クルート、ジャガイモのドフィノア、など挙げればきりがない。その上に、ブロシェット(串焼き)、タコ糸で結んだポークロティ、ローストビーフ、そして今日ご紹介するポーピエットなど、肉屋さん側で手のかかる下ごしらえをある程度やってくれている、プレタキュイ(下処理済みの肉)と呼ばれる肉が並んでいる。これがめっちゃ、便利なのだ。店によっては一流レストラン並みに美味いものを提供しているところもある。で、今夜は仔牛のポーピエットを買った。馴染みの肉屋のおじさんはローリエの葉っぱとダシを出すための筋肉付きの骨までつけてくれた。やった。メルシー、ムッシュ!
 

滞仏日記「フランスの肉屋(ブッシュリー)は凄いの巻」

作り方は超簡単。まず、ポーピエットをポワレする。僕は骨とローリエも一緒にフライパンで焼いてしまう。それをグラタン皿に入れ、ポーピエットが一センチちょっと浸かるくらいの水と白ワインをいれる。(水だけでも十分美味い)180度に熱したオーブンで35分から40分、で完成。特に一から料理をしなくてもいいのに、レストランで食べる料理に負けないくらいに美味いのだから、本当に助かる。火加減さえ分かっていればレストランより美味しく出来るので、つまりはレストランに行かなくなった。

滞仏日記「フランスの肉屋(ブッシュリー)は凄いの巻」

滞仏日記「フランスの肉屋(ブッシュリー)は凄いの巻」

お皿にこんがりと焼けたポーピエットを載せ、グラタン皿の中のソースを回し掛けし、マスタードなどで食する。白ワインとの相性は抜群である。フランス人は肉屋で上手な買い物をして、レストランに負けない味を家で家族と静かに楽しんでいる。僕も、忙しい時、この肉屋の力を借りる。今夜は楽しいディナーになった。息子と二人きりの、笑。でも、思春期の生意気な息子くんにも、思わず笑顔が溢れてしまうのだった。ボナペティ!
 

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