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滞仏日記「一クラス11人の落第、フランスの落第に関する考え方」 Posted on 2019/06/23 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、息子のクラスで11人の生徒が落第をした。息子は中学卒業が決定したけれど、同じクラスに中学生をもう一年やらないとならない子が11人も出たといことに僕は衝撃を受けた。僕は何度も、
「ちょっと聞くけど、11人は高校にあがれないの?」
と訊き返し、息子は
「あがれないよ、落第だから」
と言った。
大学ならわかる話だけど、中学四年生(フランスは中学四年制)での落第というのはどのくらい人生に動揺を与えるのだろう、と思った。息子が通う学校はフランスでは中の上くらいの学校である。一応、進学校で今年は優秀校に選ばれ区長に表彰もされた。
「クラスの三分の一が高校に進学できないって、聞いたことない」
こう告げると息子は肩を竦めてみせた。
学年に3クラスあるのだが、他のクラスでの落第者は2~3人ということだった。2~3人という数字も日本と比べると多い方だと思う。僕が通っていた大昔の中学で、落第をする者は一人いるかいないかだったと記憶している。だいたいタバコで停学となった子だったり、相当に成績の悪い子、などが落第をするケースがほとんどだった。私立の進学校とはいえ、11人の落第生を出す学校側の姿勢を親御さんたちはどう見ているのであろう。

息子は離婚の直後、精神不安から成績が急落し、担任に呼び出されて「このままだと落第になる」と宣告されたことがあった。成績をあげないと落第、でも、そうは言っても心の問題もあるので「勉強しろ」とは言えない、ジレンマが続いた。二人三脚の生活の中で心と身体と精神を支えて、なんとか落第を免れた辛い思い出があった。あれからずいぶんと歳月が流れたが、息子は中学卒業試験を受ける前に卒業は決定しているし、中学時代の全評価が良かったので、全国卒業試験(ブルベ)でいい点数をとれなくても卒業は確定しているという通知を貰った。傍にいる僕からすると音楽ばっかりやってるこの子でも卒業できたのに、何が11人には起こったのか、と考えてしまう。同時に、11人もの落第生を出すということは学校側にも問題があるのじゃないか、と思わざるを得ない。
「パパ、でも、落第というのは日本だと悪い子みたいなイメージがあるみたいだけど、こっちでは優しさの恩恵を受けた子たちでもあるんだよ。このまま上にあがってもついていけないのが数字で分かっているからね、もう一年、中学生をやらせた方がこの子のためだという考え方。人間には人それぞれのペースがあるから、ゆっくりと勉強をしていかないとならない人もいる。もちろん、彼らは勉強しないし、生活態度もよくないから、あえて落第をさせることで気持ちを引き締めるという狙いもあるんじゃないのかな。僕の学校は私立で厳しいから、平均点を下げたくないという校長先生の思惑もあると思う。その辺はよくわからない。でも、落第をしたことで頑張って勉強をして成功をした大人もたくさんいるし、そういうところは日本と考え方が違うんじゃないかな」
 この説明は正論だろうけど、それにしても落第生11人は衝撃であった。

滞仏日記「一クラス11人の落第、フランスの落第に関する考え方」