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滞仏日記「友だちが少ないと言った息子への助言」 Posted on 2019/11/04 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、毎日の食事の時間がぼくと息子の会話タイムである。考えても見てほしい。15歳の男の子と還暦の変わり者のお父さんが並んでずっと二人きりで食事をしてきたわけだ。思春期でちょっと反抗期の息子君がお父さんと仲良くペラペラ話していたら、逆に気持ちが悪い。うちの子も滅多にペラペラと喋らないし、食べ終わったら、ご馳走様と言ってさっさと食器をキッチンに運んでから自分の部屋へと逃げる。これはある意味、健康ということでもある。

二人暮らしをうまく維持するために大切なことは思春期の子供に干渉しないことである。向こうが喋りださないなら、無理に会話に持っていかないのがベスト。これはシングルファザーの心得第一条と言える。「子供をのびのび育てたいなら、ほっといてあげる」だ。喋りたいことがある時は向こうから必ず話してくる。その時は真剣に話しを聞いてあげる。そうするとうざいお父さんにならないで済む。

いつものごとく無言で夕食を食べていたのだけれど、今日、なんとなく息子の友人の話しになった。すると、息子がぽつんと「ぼくは友だち少ないよ」と言った。このような一言こそ、子供が親に確認を求めているサインでもある。自分を否定する時、子供は「これでいいのかな」と親にシグナルを送っていたりする。こういう時はきちんと会話をしてあげなければならない。

「友だち、少なくないと思うよ。いつものウイリアム、アレクサンドル、恋人のエルザ、ガールフレンドのイロナ、幼馴染みのマークアレクサンドル、バディム、ロマン、ティボ、エミール、ビートボックス仲間のニコラ、グレゴワール、アメリカに一緒に行く約束しているアモリ、それからフィリップだ」
「パパ、よく覚えているね」
「パパはいつも君の話しをちゃんと聞いてるって証拠だね、さすが父ちゃんだろ?」
「でも、残念ながらフィリップなんて子はいないよ」
「え? いたじゃん、ほらギターを弾く子でお父さんがギタリストで、ECHOESのYouTubeを親子で見てくれてる子だよ」
「それはフェリクス」
「おお、フェリックスだった。元気か?」
「うん、でも、今はべったりじゃない。みんなもそうだよ。いつも遊んでる子ばかりじゃないんだ。みんな自分の世界で忙しい」
「あのな、友だちっていい意味で時代とともにどんどん入れ替わるものだぞ。次々人間は出会いがある。だから、その時々でいろんな子と仲良くなったり離れたりを繰り返す。でも、小学校の時の友達と久しぶりに会っても、幼馴染みはずっと幼馴染みでいつまでも変わらないだろ? それが本当の友だちだよ。大人になって久しぶりに会ったら、昔のことを一緒に笑顔で共有できるのが大切な仲間だ。お前は友だちに恵まれている。だいたい友だちってのはそんなにたくさんいる必用がない。パパを見てみろよ、リサとかロベルトとか、大事な友だちは2、3人で十分だ。でも、そういう仲間がいつもパパを助けてくれる。15歳の中学生にしたら君はたくさん友だちがいる方だよ。友だちが少ない、なんて言ったら今の友だちたちに失礼だぞ。その子たちを大事に、ずっといい関係持ち続けられたらいいんだ。いつか、君が大人になった時に、きっと笑顔を一番与えてくれるのが今、君の周りにいる友だちたちだからね。君が今よりももっとたくさんの大変を抱えて生きている時にこそ、懐かしい昔話をしにやって来てくれるだろう。大事にしたらいい。生きている間、一緒の船に乗った連中だと思いなさい」
「うん、ありがとう」
そこで会話は終わった。美味しい夕食になった。ぼくは息子の成長を見守るのが生き甲斐でもある。そうだ、昔の友だちにメールでもしてみようかな。

滞仏日記「友だちが少ないと言った息子への助言」