JINSEI STORIES

滞仏日記「アンダルシアへの旅」 Posted on 2019/11/04 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、美味しん坊雑誌「dancyu」(ダンチューです)の連載もなかなか好評なようでとっても嬉しい。大好きな料理について巻頭で2ページも好きなことを書かせていただいている。この連載だけは仕事というより喰い意地優先で取り組んできた。パリのマルシェで出会った美味しいもののルーツを求める旅は、前回がイタリアのフィレンツェ、その前がポルトガルのリスボンであった。そして、今日からぼくはスペインのアンダルシア地方へと取材旅行に出かけるのである。そして、ぼくの頭の中ではロッシーニの「セビリアの理髪師」が響き渡っている。

アンダルシアといえば、スペイン南部に位置し、フラメンコダンスと闘牛の発祥地として知られている。シェリー酒でも有名だ。南下するとジブラルタル海峡がある、グラナダにはアルハンブラ宮殿などがあり、アラブ文化との接点でもある。とにかく、ディープなスペインが堪能できる地域なのだ。

息子君はバカンスが終わり、新学期が始まったので、食べ物を冷蔵庫にわんさか詰め込んで、ぼくは一人出かけることになった。家事、子育てに疲れて、ちょっと鬱気味だったので、大いなる気分転換になることであろう。dancyuの連載が名目の、ようは気分転換旅行でもある。ああ、やっと休める。息子がふさぎ込んで仕事ばかりしているぼくに、「パパ、たまには自分のこと大事にしなよ」と言った。「自分こそ大事にしないとだめだよ」と叱られた。ということで、息子のお墨付きも頂いたので、思う存分、アンダルシアを満喫したいと思う。スペインは25~30回は訪れた大好きな国だがアンダルシアは初めて。ここを制すればほぼスペイン制覇となる。個人的には期待値は最高レベルだ。
 

滞仏日記「アンダルシアへの旅」

 
セビリアに到着して、地図もないまま、夜歩きをした。そして、地元民で溢れかえる店を見つけたので、大きなスペイン人を押し分け、中へ中へと…。(ほんとうに度胸があるよ)
ラモンおじさんが経営するお店であった。満席で席はないと言われたが、「一人ならカウンターで飲み食いできるよ」とかなりわかりにくい英語で言われた。ついていくとカウンターじゃなく、客席と客席の間のワイン台を与えられた。はじめての経験だ。みんなすぐ真横で、しかも着席して食べていた。恥ずかしい…
「おすすめの何か、ください」
とラモンさんにいうと、彼が考案したというラモンの卵、Huevos de Ranon というのを出してくれた。
ぼくはそれとこの地域のおすすめのシェリー酒、Pastranaを頼んだ。
卵と茹でジャガイモという超シンプルな料理だったが、これが信じられないくらいに絶品だった。
「うまい!!!」
思わず大きな日本語が飛び出し、お客さんの失笑を買った。
小皿料理を他に3品、ワインを3杯、お腹いっぱいに食べて、飲んで、なんと、15ユーロ! パリだったら、50ユーロはするはず、安い!!! さすが、アンダルシアだ。
初日の夜から大満足であった。
 

滞仏日記「アンダルシアへの旅」

滞仏日記「アンダルシアへの旅」

 
タパス、またはタパは、いわゆるスペインのアペタイザーのことで、日本では小皿料理として広まっている。小皿に蓋(タパ)をかぶせていたところ(ハエから食べ物を守るためという説が有力)からタパスと呼ばれるようになった。スペイン人は夕食が遅いので、ディナーをとる前にちょっとつまむ感じでタパスをはしごする。日本人の胃袋的には、というのかぼくの胃袋ならタパスだけで十分だ。
ともかく、ぼくは歩きながら、自分の目と感覚でガイドブックにない美味しい店を探して歩きたい。
こういう予定調和のない、人間賛歌の旅が大好き。さて、どんな出会いがあるだろう。まずは、ラモンさんと出会うことができた。今週の滞仏日記は滞西旅日記になるのかな、お楽しみに!
  

滞仏日記「アンダルシアへの旅」

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