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滞仏日記「フランス人が立ち直る時に使う十の言葉」 Posted on 2019/11/29 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、在仏18年の父ちゃんだが、この国で何度も困難にぶつかっては乗り越えてきた。ぼくは日本語を生業にしているので苦しい時には日本語のことわざなどにすがるが、人生の三分の一も生きたこのフランスだからこそ、役立つ言葉もある。言葉は人を殺すほどの怖さがあるが、同時に、人を救う力もある。今日は、フランス人が困難を乗り切る時に使う超フランスらしい言葉を紹介したい。

滞仏日記「フランス人が立ち直る時に使う十の言葉」



1. Oh mon dieu.(神様、なんてこった…)
いわゆる英語の、オーマイガー!である。英語人ほどフランス人が口にするのを聞いたことはないけど、むしろ、静かに現実を見つめる時につかうような気がする。
2. Et alors?(だから、なに?)
ミッテラン大統領がマスコミに愛人の存在を指摘された時につかった捨て台詞だけど、これはフランス人、よくつかう。で? なんなの? お前に関係ないだろ、みたいな言葉。
3. Ce n’est pas grave. (大したことじゃないよ)
graveは「重大、深刻」という意味の単語で、深刻じゃない、と否定することで相手を気遣いつつ、自分の意思を押し出す、フランス人が実際的によくつかう言葉である。
4. Laissez moi tranquille.(ちょっと一人にしといてくれないか)
周りの人間がおせっかいしてきた時に、必ず、言う。ほっといてくれよ、というニュアンス。ほっとけ、ということ。お前に何がわかる、あっちいけ、という感じかな。
5. Tant pis!(しゃーない!)
しょうがない、という言葉だけど、潔く諦めるのはとってもフランス人的だったりする。ぐずぐず引きずってもしょうがないよね、という時にさらっと流す言葉だ。
6. La nuit porte conseil.(夜が答えを導いてくれるさ)
明日があるさ、ということである。とりあえず今日はあまり悩まないで寝ましょう。明日がきっと解決してくれるはずだから。よくわかるね。世界は一緒だと思う。
7. Ce sont des choses qui arrivent.(誰にでも起こり得ることだよ)
自分をあまり責めないで、こういうことは誰にでも起こり得る、と他人を励ます時によくつかう言葉だ。ま、しょうがない、ここでぐずぐずしないで先に行った方がいいじゃん、いいじゃん、ということ。
8. La vie continue.(人生は続くんだ)
だから、それでも人生は続くんだよ、という、究極の言葉で、ぼくも何度も言われた。シングルファザーになった時にロベルトとリサに最初に言われたのがこの言葉だった。
9. C’est la vie.(それが人生だからさ、…)
そして、その後、ロベルトとリサは、こうやって結論付けた。とってもフランス人的哲学が凝縮された言葉だ。友だちが自殺をしたときに、集まったみんながこう言った。それは彼が選んだ人生だから、とね。
10.  ça dépend des gens(つまり、人それぞれだからね)
結局、人によるよ、ということ。gensは人、これがシチュエーションの時もある。時と場合による、という言い方。ほぼすべてのフランス人が日常的に使ってる。人それぞれだから、気にするな、ということである。気にする必要はない。みんな人それぞれで誰も一緒じゃないんだ、というフランス人の自由思想が詰まった言葉の礫である。

結論から言うと、フランス人はあまり自分や他人を励ますことをしない。みんなそれぞれで違うんだから、一緒くたに出来ないし、答えはだからこそ無限にある、という考え方だ。セ・ラヴィ、がそれを代表している。それが人生というものだ、と認めて、諦めつつも、苦難に対してぐずぐずこだわらない。さっと切り替えて乗り切るのがフランス風かもしれないね。瞬間的には爆発するけど引きずらない。ということで、ぼくは結構、この国で鍛えられてきたと思う。フランス人は強く生きるコツを心得ている。これは真似てもいいかも。苦しまないで、もっと自分らしくいられる場所へ行こうぜ、ということである。

滞仏日記「フランス人が立ち直る時に使う十の言葉」