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リサイクル日記「健康であるために心がけていること」 Posted on 2022/07/14 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、「何か健康のために心がけていらっしゃることはありますか?」と雑誌の方に質問されたので、いいえ、と答えた。「でも、食べるものにだけはこだわっております」と答えた。ぼくはまず外食をあまりしない。フレンチが嫌いなわけじゃないのだけど、年だからか、脂っこいものを食べたいと思わない。でも、ここはフランスなので、バターが料理には欠かせない。必然的に外食を控えるようになった。ぼくは化学調味料もあまり使わない。そもそもマヨネーズやドレッシングも自家製である。いや、そもそも、味噌も毎年、自宅で作っている。辻家の味噌は麹が大豆の二倍、二十割味噌である。

リサイクル日記「健康であるために心がけていること」

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自家製味噌だと塩分の調整もできるし、何より、美味い。自分で作ることで美味しいと思う気持ちが倍増する。面倒くさくないですか? とよく聞かれるけど、どういうものを食べているのかを自分で知っておくことが健康の基礎だと思う。健康であろうと若さであろうと精神状態であろうと維持するのには大切なことは何を食べているかなのである。スローフード、スローライフをぼくは心がけている。うちの息子もこの点だけはぼくの考え方に賛成で、彼は幼い頃から、醤油とかソースを使わない。お菓子も食べない。すし屋に連れて行っても、ほぼ醤油を使わないでそのまま食べる。「美味いの?」と訊くと「大豆の味が魚を邪魔するんだもの」と言い返され、そこの大将が喜んでいた。

ぼくは市場に行き、その魚や野菜の鮮度を目で確かめていつも食べきれる分だけを買うようにしている。寿司なんかも握る。パリに寿司屋が少ないので、ちゃんとしたお寿司を食べたいね、ということになって、勉強をした。我が家の酢飯は赤酢と混ぜてある。

味噌は田楽にしたり、煮込み料理や鍋やカレーやうどんなどに使っている。大変、重宝している。贅沢を嫌うということも健康には大事だと思っている。だから、ベースを生かす料理を心掛ける。それを発展させて、一粒で三度おいしいような料理の効率化を徹底している。鳥は必ず市場で一羽買い、綺麗に分割し、まず骨でストックを作る。これに塩とゴマ油だけでも美味しいのだけど、根菜などを煮て、大雑把な筑前鍋のようなものを作って食べ、半分を翌日、様々なスパイスを加えて食べ、さらに残ったものを出汁と合わせカレーうどんとかにしてしまう。鳥はブロンと呼ばれるもも肉ならハムなどにしたり、残りは焼き鳥とかにする。焼き鳥もオーブンを使ったり、グリルパンを使ったり、その時々で工夫するのだけど、さすがに備長炭はないので、ぼくはマリネにしたものを焼いてよく食べる。鳥一羽を買ってこれだけ贅沢に食べれるのだけど、1500円くらいで一羽買えるのだから物価の高いパリにおいては経済的であろう。

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しかし、自分の健康を一番サポートしてくれているのは玄米だと思う。シングルファザーになった直後、体調がすぐれない日が続き、食欲も出なかった。体重がぐんと落ちて、50キロくらいになった。これはやばいと思って人の勧めで玄米を食べるようにした。玄米には栄養がある。個人的に玄米こそ長寿の素だと思っている。よく噛まないとならないし、満腹感もあり、しかも美味しい。玄米に小魚を焼いて添え、自家製の納豆、自家製の豆腐などで、フランスでありながら日本の皆さんよりも和食中心の生活を心がけてきた。いつまでも若くいたいだなんて別に思わない。身体と心に優しく、ゆっくりと一生を生ききりたいとだけ思っている。

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