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滞仏日記「最強おせちの作り方と再利用の方法」 Posted on 2020/01/01 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、今日は一日、体調があまりすぐれないにもかかわらず、希望に満ちた新年を辻家成員二名で美味しく乗り切ってスタートさせようとぼくは頑張った。当初は欧風おせちにする予定だったが親族、友人、知人らが年の瀬に間に合うようにとおせちの和食材を送ってくれたこともあり、和洋中折衷のこの際、インターナショナルなおせちを作ってやろうと思いついた。その時点から頭の中はおせちムード満載となった。魚屋に行き、オマール海老、ガンバス海老、カニ、貝など甲殻類を仕入れた。甲殻類は美味しいだけじゃなく、おせちを華やかに彩り、見栄えがいい。たいがい、食べき切れないが、おせちに飽きたらパスタやリゾット、あるいは魚介スープに二次利用できるので欠かせない。

滞仏日記「最強おせちの作り方と再利用の方法」

肉ものは、まず中華風の焼き豚を作ることにした。日本のレシピは煮るのが主流のようだが、「焼き豚」としっかり名付けられてあるので正確には焼かないとならない。辻家の焼き豚(チャーシュー)は必ず焼く。これが美味い。焼くことで味を閉じ込めることがでるので、ぜひやってもらいたい。肉のもう一品は故郷の味、筑前煮である。この作り方はうちの一族伝統のちょっと黄色く仕上がるゴージャスな筑前煮だ。この味は息子に受け継がせたいので、辻家正月の定番料理にしている。レンコンはきちんと飾り切りし、料亭なみの手の込みようだけど、これこそ、父ちゃんが目にも美味いものを喰わせたいという愛情に他ならない。もう一品は日本最強のから揚げとなる。ニコラやマノンたちが来るかもしれないので、子供にとっても人気の一品。コツは半日マリネした鳥もも肉を、フライパンで二度揚げすることで生まれる香ばしさであろう。そんじょそこらのから揚げじゃない。手間のかかったおやじのから揚げである。

滞仏日記「最強おせちの作り方と再利用の方法」

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欧風おせちなので今回は辻家の定番、サーモンのテリーヌも作った。サーモンの水煮缶で作る簡単だけど高級感ある一品で、パーティに向いている。YouTubeにアップしたところ、なかなかの反響で、クリスマスに大人気だったとか。頑張った甲斐があった。他にもいろいろ、サイドディッシュを飾り付ける。そうそう、おぞうには関西風にして、大根も面取りをし、白みそで作る。日本の味をちゃんと息子に伝えたいので、余さず食べさせたいという親心である。すると、息子がキッチンに顔を出し、
「パパ、ごめん、今夜、友達たちと泊まり込みでパーティやることになったから、これから外出するね。また明日」
と言った。波乱万丈な展開である。
「え? あの、おせ、…ちっ」
と言い返すと、息子は小さな声で「ボナネ」と言い残した。あけましておめでとう、という意味である。
ぼくはキッチンを振り返り、手塩にかけた料理たちを暫くじっと見つめた。でも、友だちに誘われ、愛されているのだから、仕方がないどころか最高じゃないか。ところで、辻家のおせちは常に再利用について保険がかけられてある。つまり、明後日、これでパエリアを作ってやることができる。おせちからの世界最強のパエリアが誕生するという仕組みである。2019年から2020年へと食の架け橋となるだろう。このように2020年も常にポジティブに生き切りたい。 

さて、おせちは完成するのだろうか。もし完成した場合、完成品は明日の日記で。

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