JINSEI STORIES

滞仏日記「2020年1月19日の朝焼け」 Posted on 2020/01/20 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、今日は眠れなくて、いろいろと考え事があって、結局、太陽が昇るまでずっと天井を見上げて起きていた。それからふっと、身体のどこに魂があるのだろう、と思って、弄ってみた。意識が冴え冴えとしてきたら、起き上がり、ジャンプをしてみた。息子はまだ寝ている。日曜日だし、フランスの朝は遅い。未だ外は真っ暗だけど、あと一時間もすると太陽が昇る。ちょっと歩いてみようと思い立った。息子が起きるまでに帰ればいいので、何も言わないで出かけた。日曜日の朝、路地という路地は静まり返っていた。ぼくは歩いた。歩くことで、疲れたかった。疲れたら眠れるはずだった。歩けるところまで歩いて戻ればいいかなと思った。だったら、セーヌ川沿いを歩くのがいいだろうと思った、どこまでもまっすぐな道を歩いた。何も考えずに歩いた。そうだ、ノートルダム寺院まで行こう。きっとそこに行けば何かがわかるのじゃないか、と思いついた。

滞仏日記「2020年1月19日の朝焼け」

もうすぐそこがノートルダム寺院だという場所で、ぼくは立ち止まった。目の前の空が赤く染まり始めたので、動けなくなってしまった。それは朝焼だった。ぼくはずっと朝焼けを見ていた。夕焼けばかり見てきたのだけど、朝焼けがこんなに赤いとは思わなかった。こんなに赤いんだ、と思った。太陽が昇り切るまで、そこで静かに祈りを捧げることにした。ただ、祈りたかった。



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