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滞仏日記「人生最大の試練を乗り越えて・前編」 Posted on 2021/09/18 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、今、ライブ前の楽屋で本番前にこれを書いてるのだが、今日はカタストロフ『大惨事』の連続であった。
まず、昨日、一年半ぶりのコンサートだから、早く寝なきゃ、と思ったのだが寝れない、たぶん、興奮してるのであろう。
ぼくは元々、不眠症だから、医師に処方されていた導眠剤を飲んだ。
いつもの倍飲んだら、な、なんと、・・・さ、寝ようかな、と思ってトイレに行ったら、オ、オシッコが出ない。
尿意をもよおしてるのに、一滴も出ない。
どんなに頑張っても出ないのだ。これは異常事態である。
急性膀胱炎だろうと思って、調べたら、「導眠剤を飲むと尿閉」と出てきた。
わ、これじゃん。
閉じたんか、尿道が、、、。
ε=ε=ε=ε=ε=ε=┌(; ̄◇ ̄)┘



しかし、これが苦しくて何やってもでない。
ライブスタッフに状況説明したら、「辻さん、ライブ中止しましょう、死にますよ」とか言われ、
「馬鹿な。こんな尿閉くらいで、一年半ぶりのライブやめたら日本男児の名が廃るやろが」とメッセージ返した。
医者、呼ぶにも尿閉では、恥ずかしい。
それで、我慢して寝たのだけど、一時、二時、三時,四時、五時、六時、七時、八時と8回トイレに行き、10分くらい、パンツ下げて、出るのを待つのだけど、でない。
あの手この手で、たとえばくすぐったり、握りしめたり、拝んだりしたのだけど、ダメ。
結局、一睡も出来ず、朝9時に、息子が学校に行くので、朝ご飯を作った父ちゃんで、あった。
ついでに、彼の夕飯、ぼくが不在だから、作らないわけにはいかず、、、
カツ丼まで、作った。自分は朝・昼兼用に、カツ丼を食べた。
そういえばNHKと時事通信の取材が入っていたことを思い出し、日本文化会館の白崎部長に、取材ごめんなさい、尿閉のため取材は無理と連絡入れたら、
「尿閉!」
あ、ライブ優先でお願いします、と返事が、戻ってきた。笑。
し、しかし、ライブ出来るのだろうか? 
何せ、激しい尿意なのに、出ない苦しみは、誰にもわかるまない。食べたら尿意をもよおしたので、トイレに行ったら、たぶん、薬が切れたからか、ちょろちょろと、でてくれたのである。
やった!
復活の兆しだ。

地球カレッジ



とにかく、なんとか尿閉は回復の傾向に向かいつつあるのが、わかり、ライブは中止にならずにすみそうだ。
スタッフが13:00に迎えに来るまで仮眠をし、14:00会場入りとなった。
そしたらである。
ライブ・コーディネートをしているマダム・モーリャックがやってきて、
「今日、ドラムのジョルジュが出来ません」
と言い出した。
振り返ると、ステージにドラムセットが組んである。
「どういうこと?」
「誰かの伝達ミスで、ダブルブッキングだったのです。なんか、有名なバンドの大きなライブがあるらしく」
有名とか、関係ないし・・・。
とにかく、ジョルジュを探しに行くと、みんな楽屋で、車座になり、頭を抱えている。
「今日は4時から本番だと聞いていたから」
マダム・モーリヤックが、顔を真っ赤にして、私、そんなこと、言ってません。
「皆さん、私、4時からって言いましたか?」
マダム・モーリャックは半泣きで訴えている。
ピアノのエリックも、バイオリンのマリオも、
「本番は20時って、聞いてたよ」
とモーリャックさんの肩をみんなが持ったから、ジョルジュが切れて、
「ぼくが嘘ついてると思われるくらい辛いことはない。ぼくはそんな人間じゃないんだ」
と怒りだした。
ぼくはジョルジュの肩を抱きしめて、尿意を我慢しながら、
「みんな君を信じてるよ。大丈夫、心配するな。そっちのライブは何時からなの?」
尿意が、、、
「20時なんだよ。まるかぶりだ」
ということで、絶望的な父ちゃんであった。
なんでも、馬鹿でかいフェスらしく、ジョルジュは超売れっ子だから、代役は立てられないらしい。
とりあえず、今は、どうなるかわからないけど、これから対策会議とリハーサルがあるから、この後、どうなったかは、明日、また、お伝えします。その前に、トイレに、、、
トイレに駆け込んだ父ちゃんであった。

やれやれ。
一年振りのライブなのに。
つづく。

滞仏日記「人生最大の試練を乗り越えて・前編」

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