JINSEI STORIES

再録日記「台湾人のおもてなし」 Posted on 2022/02/27 辻 仁成 作家 パリ

 
※この日記は2017年に書かれたものですが、2022年2月に改訂しました。ここ最近、台湾の人たちと交流が増えてきているからです。読んでみてください。

2017年に、うまれてはじめて台湾の土地を踏みました。
なにもかもが驚くほど日本に似ています。
それぞれの通りが、御堂筋、新宿西口、名古屋駅前、博多の渡辺通りなどにそっくり。
古い台湾のビルも残っていますが、近代的な台湾はどこか日本の街並みと重なります。

実際に日本の新幹線も走っています。(高鐵HSRと呼ばれている)
中身はそっくりそのまま日本の新幹線なのです。(システムだけが欧州製)
同じような車内販売もありますし、英語のアナウンスまでそっくりなのだから思わず微笑んでしまいました。
 

再録日記「台湾人のおもてなし」



再録日記「台湾人のおもてなし」

 
友人になった大学生の高君(24歳)は日本語が堪能です。
いや、堪能なんてレベルじゃありませんね。
「恐縮です。恐れ入ります」などという丁寧語を会話の中でつかいます。
でも、彼は日本で暮らした経験はありません。※その後、彼は日本に渡り、2022年現在、日本で働いています。ぼくはいまだに高君とライン友だちです!!!

「どうしてそんなに上手なの?」
「ぼくは日本語の謙譲語とか丁寧語が好きで、中学から独学で学んだのです」

驚きました。台湾人は親日の人が多いと聞いていましたがこれは本当です。
台湾大学や師範大学の学生さんたちにも会いましたが皆さん日本語が堪能でした。
一般の方々もあいさつ程度の日本語なら理解できます。
そして、町中に日本語が氾濫しているのです。
 

再録日記「台湾人のおもてなし」

 
日本語世代と呼ばれるご老人の方々はみなさんペラペラです。
中国語より日本語の方が得意なおじいさんもいました。(彼の母語は台湾語)

「なぜ、日本人や日本が好きなの?」
「文化も好きですが、日本人のまじめで何事にも丁寧なところが好きなんです」

高君(24歳)はこう続けます。彼は日本の大学への編入を計画しています。
 

再録日記「台湾人のおもてなし」

 
なぜ、戦争の歴史があるのに台湾の人たちは日本や日本人が好きなのでしょう。
芸能事や漫画とか文化の影響だけではないことがわかってきました。
彼らが口にするのは日本人の丁寧な生き方。
ぼくはちょっと気恥ずかしくなりましたが、彼らはいたって真面目です。

「日本人ならああいうことはしない」「日本人の生真面目さに驚かされる」など次々に彼らは日本の良さを口にします。
みんながみんな言うのでちょっと怖くなったくらいです。
フランスで15年(今は20年)も生きている小生、ここまでの親日国を欧州内では知りません。
 

再録日記「台湾人のおもてなし」



再録日記「台湾人のおもてなし」

 
知り合ったばかりのレストラン経営者の呉さん(43歳)に同じ質問をぶつけました。
呉さんも日本語がペラペラです。日本にあこがれ、若いころに習得したのだそうですが、もちろん日本で暮らした経験はありません。

「おもてなしの精神がわたしは好きですよ。台湾人にも同じ精神があります。もてなすという心が人をつなぐんです」

その日、ぼくたち一行は呉さんの厚いもてなしを受けました。
もしかするとこういう気遣いは今の日本だとちょっと少なくなってきたかもしれない。ここまで至れり尽くせりではないでしょう。
送り迎えから食事、世話、人の紹介や、とにかくびっくりするほどのもてなし。
実際に呉さんは自分車でずっと付き添ってくださいました。
でも嫌味が一つもない、裏がない、実に当たり前にやってのけるのです。
日本の昔ながらの良さは台湾で生きているのかもしれません。

「辻さん、これがわたしたち、台湾人のおもてなしです」

別れ際、ぼくがもてなしに対し礼を告げると、呉さんが笑いながらそう告げたのでした。
また、いきたい。
そして、言わせてください。台湾、大好きです。
 

再録日記「台湾人のおもてなし」



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