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英国デザイン事情 「デザインで幸せを感じる」 Posted on 2017/01/26 新立 明夫 プロダクトデザイナー ロンドン

デザインは人々の生活を精神的にも物理的にも豊かにするものであろう。
デザインがどうやって人々の心を幸せにできるのか。これはデザイナーにとって永遠の難題と言える。

今イギリス、特にロンドンでは、HYGGE というデンマーク語が話題だ。

日本ではこの“HYGGE ”はまだほとんど耳にすることがない。
HYGGE に一番近い響きは宮崎県の日向(ひゅうが)じゃないかと思う。デンマーク人に正しい発音を問うとヒューガのガの部分が2音ほどピッチが上がるような感じで、ヒューグッ、となる。 

多分英語で言うところの HUG —抱きしめるーに近い感覚じゃないかな。

HYGGE の意味は『なんとなく過ぎ去っていくこのたわいもない瞬間を、もっと意味のある美しい特別なものにすることで、真の喜びを味わおうぜ』みたいなこと。
 

英国デザイン事情 「デザインで幸せを感じる」

もう少し具体的に説明すると、
たとえばコーヒーを淹れるというささやかな行為一つとっても、まったりと過ぎる夕暮れまでの小一時間、
そのコーヒーを中心に咲く気の合った友人達との会話や、そのやりとり、気持ちの交換、柔らかい雰囲気があたかもそのコーヒーそのものに溶け込んでいくような、あるいは尊い幸せに満たされていくような永続的感覚を共有するということ。
 

英国デザイン事情 「デザインで幸せを感じる」

HYGGE という言葉は、それが簡単なコーヒータイムであっても特別なディナータイムであっても、‘まさにその瞬間’に永続的な無限の幸せが寄り添う、ということを意味しているようだ。

このようなふくらみを持った意味がこの HYGGE と言う一つの単語につまっている。
 

英国デザイン事情 「デザインで幸せを感じる」

ここ数年、イギリス人はインテリアデザインに特に強い関心を抱くようになった。
HYGGEブームの到来が、人々のインテリアへの興味を引き上げている。

手の届かない高価な車やガジェットにお金をかけるくらいなら、時間をかけて気に入ったいいデザインの調度品を探し求める。家の中の雰囲気を充実させることで暗く湿りがちな外の雰囲気とは異なる、暖かくウェルカミングなインテリアを演出し、友人や家族と共にHYGGE的な喜びや幸福を分かち合いたいという空気、いや、ムードが広まりつつある。

デンマークのコペンハーゲン郊外ではカーテンを閉めきっている家が少ない。
外からは家具も照明も丸見えで、でも、それがまた美しい。
実は、ロンドンでも最近そういうオープンな家が増えつつある。街全体がHYGGEし始めている。

普遍的な美しさをもつ家具デザインと言えばデンマークがダントツであろう。
アルネ・ヤコブセン、ポール・ケアホルム、アルヴァ・アールト、エーロ・サーリネンなどデンマークから世界を代表するファニチャーデザイナーが多数育った。

HYGGE という言葉がイギリスで広まりつつあるのは、この当たり前の単語がデザインに対しての新しい価値観をもたらしたからではないか。当たり前ということが、ブームを生み出しているというこの皮肉な現象こそが面白い。

この言葉が単なる時代のムーブメントになるのではなくこれから僕達が生きていく上で、新しい生活の指針になるような気もする。
 

英国デザイン事情 「デザインで幸せを感じる」

『デザインで幸せを感じる』

これは僕自身が長いこと追い求めてきたデザインにおけるコンセプトだ。
まさに、それこそがHYGGEなのである。
僕のデザインに人々がHYGGEを感じてもらえるよう、僕はこれからも自分自身をHYGGEし続けていきたい。
 

英国デザイン事情 「デザインで幸せを感じる」

(‘Waitrose Weekend’ 2017年1月12日号より)

 

Photography by Akio Shindate

 
 

Posted by 新立 明夫

新立 明夫

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Akio Shindate
プロダクトデザイナー。ロンドン在住。米国の大学卒業後、日本企業のデザイナーを経てロンドンのデザイン会社にて数々の国際的なプロジェクトに参加。2000年に独立し、ロンドンにてVOコーポレーションを設立。オートモーティブ関連や電子機器関連などのデザインで、主に日米欧のクライアントとのプロジェクトにて活動中。