PANORAMA STORIES
アートカレッジ担任奮闘記(1) Posted on 2025/11/13 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
一つ、夢があって、ぼくは美術クラスの担任をやりたい、と思っているのです。
え? 担任?
そうなんです。
まだ、内緒の話なんですが、ちょっと聞いてください。
長い話になると思いますので、何回かに分けて、何十回かにわけて、ここまでの道のりを、そしてこれからの夢について、少し、説明をさせてもらえればと思います。
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コロナ期にぼくは仲間たちと「地球カレッジ」をスタートさせました。
世界中のありとあらゆることを、その道の専門家を招いて学んでいくという雑学学校のようなネットの学び舎でありました。
様々な講師陣をお招きし、パリから90分の授業をしてもらう、というスタイルで、アート講座、料理教室、ソムリエ講座、仏教講座、旅の講座、史跡巡りツアー、などなど、いろんな講座をやったわけですが、数えたところ、なんとのべ50回ほどもやってたんですって・・・。がんばりましたよね!
コロナで観光客がいないセーヌ川を独占し、オンライン船上ライブなんかもやりました。一番最初は、ヴェルサイユ宮殿ツアーと言うのがきっかけだったと思います。この回は、15000人もの視聴者さんが参加されました。
最後の方は「小説教室」がメインになり、ぼくが熱血先生になって、小説家を目指す人、小説を書いてみたいという方々に向けたクリエイティブライティングの授業を続けまして、そうですね、そして、2年くらい前にその使命を終えました。
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実は、その頃から、次は、アートスクールを作りたいという願望があったのです。アートと言いましても、カルチャーセンターで絵を教えるようなものではなく、「アートってなんぞや」という、かなり広義な意味でのアートを掘り下げる学校です。
というのも、地球カレッジをやったことで、パリ在住の芸術家さんたちとの交流も増え、ぼくが絵描きのようなことをやるようになると、ますます、「アートってなんだろう」と考えることが多くなり、アトリエなんかに集まった芸術家たちと、そういう議論を繰り返すようになっていくんですが、それがとにかくめっちゃ面白かったわけです。
昔、モンマルトルとかに、ピカソとか、ユトリロ、モディリアーニ、藤田嗣治、シャガールなど、エコール・ド・パリの画家たちが集まりカフェで議論とかしていたじゃないですか、ま、あんな感じ・・・。
それである日、こんなに面白い議論をみんなにも聞いて貰いたいと思うようになり、アートカレッジ構想に至ったわけですね。
仲間たちも、やりたい、やりたい、と集まってきました。パリにこんなに先生がいたんだ、という驚きも!
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さて、こういう運動をどうまとめて形にしていくのか、そこですよね・・・。じゃあ、パリにアートスクールを作っちゃえばいいじゃないか、ということになったわけです。いや、なりつつある、という方が正確かもしれません。
もっとも、学校ですもの、そんなに簡単なことじゃないですよね。
地球カレッジの踏襲はしたくありません。もっと、学術的(座学)なこと、技術的(実技)なことも学べた方がいいじゃないですか・・・。
自分もそこで学びたいし、一緒に考えたい。じゃあ、どういうものを学びたいのか、とさらに考え始めました。

あのですね、人間って、一生をどう生きるかが大切だったりするので、死ぬまで学ぶことが出来る場所があったらいいな、と思ったわけです。
一生学べる場所、人生の学び舎って、ほしくないですか?
たとえば、中世のイタリアの芸術家たちのことを知りたい。たとえば、世界各地の壁画の描き方を学んでみたい。たとえば、ヴェルサイユ宮殿の庭の歴史を学んでみたい。たとえば、グランパレやポンピドーセンター、オルセー美術館など文化施設の歴史を知ってみたい。あるいは、イラストや版画や陶芸をやったみたい、・・・。
そういうものをちょっとだけ深く知ってみたい、と思うことないですか?
ということで、パリにいる日本人の先生たちに、ぼくはある日、声をかけて回ることになるんです。
そうですね、一年ほど前のことでした。
それこそ、モンマルトルのカフェとかで洋画家や陶芸家たちと話がスタートしていくわけです。
パリで活躍する日本人アーティストたちに、こういう学校作ってみたいんだけれど、一緒にやらないか、って口説いたというか、口説いているというのか、あはは・・・。
そしたら、意外なことに、みんなが、やるやる、やろうよ、それ面白い、参加したいって面白がってくださったわけです。
ということで、「アートカレッジ」構想がスタートすることになります。構想です、今のところ・・・。
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でも、面白そうじゃないですか。
「そんな時間、あるのお前」と言われそうですが、いや、ぼんやりとですが、見えている世界があるんです。
まだまだ、道のりは険しいとは思いますが、楽しいことやれるんじゃないかな、という手ごたえはある、と申し上げた方がいいでしょうか。
ということで、「有言実行」のおとこですからね、逃げられないように、アートな学校を作るまでの長い道のりを、連載エッセイにしてみようじゃないか、と思い立ったので、はい、始まります・・・。
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ま、企画が潰れたとしても、それもまた人生ですから、笑い飛ばしたらええやないか。あはは。
で、ぼくはその学校で何をやるのか?何を教えるのか、・・・そうですね、ぼくがまずやってみたいのは、担任なんです。校長とかじゃなく・・・。
ということで、連載のタイトルは、
「アートカレッジ担任奮闘記」
としましょうかね。(変更する可能性あり)
面白そうだけれど、でも、本当に出来るの?
なんか、面白きことなきこの世を面白くさせたいですよね?
ま、うずうずしているのは事実ですし、わくわくさせたいのも事実なんです。
ともかく、宣言をしたら、何かが動きだします。動かさないと先に行かないのがこれまた人生ですから、どうぞ、面白がって、この新連載、お付き合いくださいまし。
失敗を恐れずに、書かせて頂きます。失敗したら、とんずらすればいいだけのことですものね、人生なんて・・・。
熱血でいきましょう。
人生は挑戦と創造の連続なのです。
はい、それでは、みなさん、ご一緒に。
えいえいおー。

辻仁成の展覧会情報ですが、
2026年、1月15日から、パリ、日動画廊恩グループ展に参加。
2026年、11月には、リヨン市で個展が決まりそうです。情報解禁になったら、まっさきにお知らせいたしますので、リヨン周辺在住の皆さま、お楽しみに。
Posted by 辻 仁成
辻 仁成
▷記事一覧Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。



