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パリ最新情報「フランス人が今、喉から手が出るほど手に入れたいもの」 Posted on 2020/04/20 マント フミ子 修復家 パリ

フランス人が今一番欲しいもの、それは、高級車でも世界旅行への切符でもありません。
フランス人が今、喉から手が出るほど手に入れたいもの、それは「マスク」なのです。

フランスに限らず、世界中でマスク論争が繰り広げられる2020年4月。フランスでは新型コロナの感染が拡大し始めた2月中旬以降、「マスク不足」がずっと政府を悩ませています。医療従事者に十分なマスクを行き渡らせるため、政府によるマスクの在庫管理を決定したのが3月初旬、国民は処方箋のある人しかマスクを購入できなくなりました。3月半ばには、マスクの十分なストックがなく、発注しているものの、発注先の中国も危機の中にあるため届かない、という状況。最前線で戦う医療従事者の中で、「防護服も武器もないまま戦争に向かわせるつもりなのか」と、政府への批判は高まりました。



実は、このマスク不足は政府のミスが原因だったと言われています。2010年、当時の保健相が来たる例外的な感染症のパンデミック(A型インフルエンザ)に備え、マスクの大量ストックを決めました。その数はサージカルマスク約10億枚、FFP2タイプ(唯一、コロナウイルスを通さないタイプ)7億4千枚。しかし、その後訪れた感染症の流行はフランスでそれほど拡がらず、その保健相は「予算の無駄遣いをした」と大批判されてしまいました。その後、政権が変わり、保健相もこれまでに4人変わり、その間に政府が持つマスクストック数は最低限に変更、20億近くあったマスクは消え、政府が委ねていた国内のマスク工場も閉鎖__。2012年以降は予算の削減も加速したようで、その結果、抗生物質など薬剤も含め、フランス国民の健康はコストパフォーマンスの高い中国に依存することになってしまいました。国が財布の紐を締めたことが今回のマスク不足に繋がり、国民が代償を払っているというのです。マスクの期限は5年とされていますが、それにしても、20億枚ほどあったマスクはどこへ行ってしまったのでしょう。一部のメディアでは、政府はこの一連のマスク事情を隠蔽するために、「マスクは予防にはならない。コロナでない人はマスク着用はせず、医療従事者にマスクを回して」と繰り返す作戦に出ていた、とも言われています。

パリ最新情報「フランス人が今、喉から手が出るほど手に入れたいもの」

ヴェラン保健相は「国民の60%がマスクをつけなければ予防にはならない」と、だからフランスでは意味がないんです、というニュアンスの言い方をしてきましたが、今、パリの街中ではすでに半数ほどの人々がマスクを着用、ハンカチやアイマスクで代用している人もいるほどです。もし十分なマスクがあれば、おそらくほとんどの国民がマスクを着用するでしょう。各地で麻薬闇取引ならぬ「マスク闇取引」も行われているようで、これまでに全国で15件のマスク転売が発覚、4月1日には初めて、パリ市の男性がマスク転売の罪で懲役1年、1万ユーロの罰金が科せられました。普段は麻薬取引が行われるパリの通りにはマスクの箱を手に持った怪しい人がうろうろしているという、数ヶ月前までは想像もできなかった世界です。

しかし、ここへきて政府も、これまでのマスク不要説から一転、外出制限解除に向けPCR検査や抗体テストに加えマスクの使用を一部で義務化する動きにシフト。ロックダウン解除予定の5月11日には国民全てにマスクが配られることが決定しました。現在フランスは医療従事者(週に2千4百万枚必要)が使用するためのマスク20億枚を中国に発注していますが、国民が着用することになるのは予防性のある布マスクで、フランス企業が手分けして生産を始めているようです。

人口約2360万人の台湾では、実名制で2週間に9枚までのマスクを薬局で購入できることになったと言います。日本はアベノマスクの配布が始まり、イタリアもMade in Italy布マスクが各家庭に届き始めているようです。5月11日以降、フランスの全ての国民(約6千万人)の手元にマスクは届くのでしょうか。まだまだフランスのマスク論争は続きそうです。

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Posted by マント フミ子

マント フミ子

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Mante Fumiko
修復家。岡山県出身。在仏30年。フランスに暮らしはじめ、アンティークの素晴らしさに気づく。元オークション会社勤務。現在はパリとパリ郊外の自宅にて家具やアンティーク品の修復をしている。