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パリ最新情報「パリ中心部からも消えた中国人観光客」 Posted on 2020/02/13 辻 仁成 作家 パリ

ついに日本で新型肺炎による死亡者が出た。神奈川県の80代の女性であった。ご冥福をお祈りしたい。亡くなられてから感染者だったことが分かったという。そして、タクシーの運転手さんからも感染者が出た(この記事を出した直後に、亡くなられた方がこの運転手さんの義母だったと判明)。和歌山の外科医の先生からも出た。タクシーの運転手さん、亡くなられた80代の女性のご家族ご友人お知り合い、または医師が働いていた病院の患者さんや看護師の皆さん、考えると、限りなく感染者が出てくる可能性が出てきた。今日新たに感染が確認された千葉県の20代の若者のように、中国との接点のない人が感染しているケースも出ている。どこで感染したのか? どうやって?

新型コロナウイルスが物凄い勢いで拡大していくのがわかる。感染力が強い。「空気感染はあり得ないので軽率な情報を流さないように」という識者の意見をどこかで読んだが、タクシーの中やクルーズ船の閉ざされた客室での感染経路が特定できない今、空気感染ではないにしても、これを否定するだけの強い根拠が足りてない気がする。知識のないぼくらは後手後手なWHOの情報をどこまで信じていいものか、疑問に思う。中国で発表されていた死者数と感染者数も(計算法を変えたという理由で)今日突然に増えた。4月には終息かという中国の識者の意見が出た直後のことだ。何を根拠に火消しに走っているのか全く意味がわからない。今は、疑わしきものは疑うべき時じゃないか。それが感染を防ぐ唯一の方法かもしれない。少なくともWHOも中国政府も初動の対応でしくじっている。それを鵜呑みにしてきた日本政府にも責任がある。死亡者が出て今更慌てている政府を見ていると、じゃあ、なぜ、もっと早く真剣に対策を講じなかったのか、と思う。最大の予防は、起こり得る可能性を一切否定しない、ことからじゃないか、と思う。

パリ最新情報「パリ中心部からも消えた中国人観光客」



今日、体調が悪かったけれど、どうしても仕事に行かないとならず外出をした。パリの中心部のアジア人街オペラを歩いたがびっくりするくらい中国人の姿を見かけなかった。中国人観光客としかすれ違わない地区なのに、韓国人や日本人をちらほら見かける程度。普段なら中国人専用の大型観光バスがオペラ大通り沿いに縦列駐車しているが、一台も見かけない。中国から出られないのだろうし、航空機も飛んでないのだから、来たくても来れない上に、観光という気分になれないのかもしれない。いや、出たくても出れないのじゃないか。中国政府が出さないのかもしれない。中国も今はこれ以上ウイルスを拡散させないことが、信頼度を取り戻す最善策だと気が付いたのかもしれない。パリのホテルもレストランもデパートも打撃を受けている。それは日本も同じだろう。14億人もの国民を抱える超大国が扉を閉ざしてしまったのだから、新型肺炎の終息が長引けば、世界経済は息詰まる。ぼくらが考えている以上に物凄いことが起こりはじめている。終息の目途も経たないのに、軽々しく終息の時期を論じるのはやめて頂きたい。それより前にやることが無限にある。

アジア文化を求めてフランス人が押し寄せるオペラ地区から中国の人影が消えた。これが意味することを想像したい。最大の予防は、最悪の状況を想像した上での行動であろう。君子危うきに近寄らず、という言葉で備えよう

Posted by 辻 仁成

辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。