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パリ最新情報「イタリアとフランスのロックダウン解除がこんなにも違う!」 Posted on 2020/05/20 辻 仁成 作家 パリ

イタリアはフランスより一週間早い5月4日より段階的にロックダウン解除が始まった。会社員のようにテレワークができない職種の人がまず仕事を再開した。そして、一昨日、18日より、当初の予定より早まり、ほぼ全ての商店(飲食店含む)が再開した。飲食店に関して言えば、フランスはまだ具体的な解除の方向性が見えていない。知り合いのカフェオーナーに聞いたところ、いまだ政府から何のお達しも出ていない状態なのだとか。一方、イタリアはバール(カフェ)もレストランも一気に門戸開放した。そこには、もうこれ以上経済を止めておくわけにはいかないという事情があるようだ。コンテ首相は、「ワクチンができるのを待っていたら、我々の社会が傷付いてしまう」と発言している。そして、ちょっと驚いたのは、この5月25日にはスポーツジムやプールまでもが再開されるのだ。解除はしたものの、再開方法について、悩みに悩んでいるフランスとは大きな差がある。



イタリアにとって観光はもっとも大きな収入源である。そこで、6月3日から欧州各国(約26ヵ国)からの入国も可能になる。そして、6月15日には映画館や劇場までもが再開されるというのだ。ぼくは9月にパリでのコンサートが予定されていたが、まさに昨日、劇場と話し合い、来年1月以降の延期が決まった。劇場主やプロモーターたちも年内は難しいのではないか、と考えているようだし、何よりもフランス政府は夏のフェスティバルについても判断を保留している。少なくとも7月いっぱいまではフェスやライブの許可が下りない状態になっている。イタリアの大胆な経済再開には、やや驚きを覚えてしまう。そこには、新規感染者の増加が緩やかになったこと、集中治療室にも余裕ができたことなどの背景があるようだ。イタリア政府は、背に腹は代えられず、経済を最優先させるよう舵を切ったということになる。イタリアはフランスの55日を上回る、69日間のロックダウンを乗り越え、国が再始動することになった。



イタリアでは、5月18日の朝、開店時間と同時に、いつものバール(カフェ)に常連客らが列を作った。もちろん、マスクをして、社会的距離を保つためのラインに従って…。ロックダウン以前の日常が戻って来たイタリア、陽気なイタリア人にとってこのカフェの再開は何よりも待ち焦がれたものの一つであった。イタリアにおけるバール(カフェ)の存在は、まさに、イタリア人の喜びそのものであり、民族の憩いの場と言える。バールがオープンするということは、国が表向き元に戻ったことを意味し、イタリア人の喜びの程がうかがい知れる。しかし、同時に、そこが再びこのパンデミック第二波の出発点にならないか、という心配も過る。フランスはきっとイタリアの飲食店再開を見守ることになるのではないか。いや、欧州全体が再び開かれたイタリアに今、注視している。

フランスは5月11日に外出制限が解除され、商店は再開されたが、カフェやレストラン、映画館、劇場などの再開は未定、100km圏内の移動制限付きのため観光の再開目処も不確かである。両国の経済の差が解除スピードの差にも表れているのかもしれない。フランス人にとってもカフェはイタリアのバールと同じような、国民の聖地、憩いの場である。果たして、フランス人は列をなして再開されたカフェに集まるだろうか? 若い子たちが多く暮らす地区のカフェは早く日常を取り戻す可能性もあるが、それ以外は様子見が続くような気がする。ぼくはたぶん、暫くの間、遠くから眺めて、安心と安全が確認出来るのを待つことになる。

パリ最新情報「イタリアとフランスのロックダウン解除がこんなにも違う!」

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辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。