PANORAMA STORIES

速報・パリ最新情報「パリ郊外で再び残虐なテロ。息子の親友の母校で」 Posted on 2020/10/17 辻 仁成 作家 パリ

※今回のパリ最新情報は辻仁成が東京からお届けします。新しい情報が入り次第、更新していきます。

「パパ、アンナの学校の先生が殺された」
寝ようとしていると、不意に息子からこのようなメッセージが届いた。
「何があった」とすぐに返信したが、戻ってこない。電話をしたが、出ない。
心配になったのでママ友のオディール(ロマン君のお母さん)にSMSを送ったら、「FranceInfo(情報サイト)をつけて、ずっとこのニュースをやってるのよ」と戻ってきた。慌てて、サイトに行くと生中継で騒然となっている夜の現場の模様が流れた。
閑静な住宅街が大勢の警察車両と警官で包囲され、まもなく、そこにマクロン大統領が姿を現し、国民に向け、メッセージは発し始めたのである。
(大統領が即座に駆け付けたことは、それだけフランスにとって重大な事件であったことを物語っている)
「これはフランスが狙われたのだ。表現の自由について教えていた一人の教師が犠牲になった。テロは絶対に許されるべきことではない」

速報・パリ最新情報「パリ郊外で再び残虐なテロ。息子の親友の母校で」



フランス時間、16日17時頃、パリ郊外のコンフラン(パリから電車で30分の郊外の街)で、中学の歴史の先生が殺害された。
学校の近くの道で首を切られ、断頭された姿で発見されるという、大変ショッキングな事件であった。(その写真が一時、拡散された)
駆けつけた警察が凶器を持って近くをうろつく犯人らしき人物を発見、男は銃(のちに空気銃と判明)を発砲し、アラーアクバル(神は偉大なり)と叫びながら警察に近づいてきた。
武器を捨てろという警告に応えなかったので警察が応戦し男性は即死した。
犯人は18歳のチェチェン人で、現時点でそれ以上のことはわかっていない。
現在、この事件に関係があると思われる男女4人の未成年者と成人1人を捜査中とのこと。
事件直後、残酷な状態で殺害されている被害者の写真がTwitter上で流れたこともあり(現在は削除されている)、共犯者がいた可能性がある、とも指摘されている。

亡くなった教師は先週、授業で風刺画雑誌シャルリーエブド(2015年にパリ連続テロの標的となった出版社で、過激な風刺画を載せることで有名。先月も元シャルリーエブド本社前で二人の編集プロダクションの社員が肉切り包丁で襲われた事件があったばかり)が掲載したイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を生徒にみせた。
教師は風刺画を生徒に見せる前に、イスラム教の子供たちにショックを与えぬよう、教室から出させた。
その後、保護者間ではこの授業に対し大きく意見が割れていた。
また、殺された教師は何者かに脅迫を受けていたという情報もある。

速報・パリ最新情報「パリ郊外で再び残虐なテロ。息子の親友の母校で」



夏のバカンス時期に息子がアンナの親戚の別荘に招かれ、アンナやその妹たちの友人(みんな女の子で、男は息子だけ)で合宿をして過ごしたことは、ぼくの7月12日にpostedした「滞仏日記」に詳しく書いた。
記憶に残っている読者の方も多いのじゃないかと思う。
8月の頭に、ぼくは車で息子を迎えに北フランスの彼らの別荘まで行った。
アンナはうちにも何度か遊びに来たことがあり、絵の上手な優しい子である。
息子にとっては大切な親友の一人だ。
息子を迎えに行った時、ぼくはアンナとそのご両親、その可愛い妹たち、その同級生たちに会っている。
そして、殺された教師はそこにいた大勢の子供たちの歴史の先生であった。
アンナたちがどれほどの衝撃を受けているのか、想像をすると胸が痛む。
またしても宗教と移民と表現の自由の問題でフランスは大きく揺さぶられたことになる。この問題は終わりが見えない。
犯人が18歳の青年であること、もしかすると彼もそこの卒業生か、その学校に関係する若者であった可能性がある。
こういう悲しいニュースをこのサイトでたびたびお伝えしているが、東京で聞くと、異世界で起きた理解に苦しむ話しに聞こえる。
しかし、事件が起きたコンフランは、東京における吉祥寺とか二子玉川など近郊の住宅地であり、パリジャンにとっては身近な出来事なのだ。



人口の一割がイスラム教徒のフランスで、この複雑な問題の出口は全く見えない。
シャルリーエブド的な表現の自由は我々日本人には理解出来ないことだと思う。
在仏18年のぼくにも簡単には理解・説明出来ない問題なのだ。
もっとも、シャルリーエブドが標的にするのは、イスラム教だけではなく、カトリックや他の宗教、あらゆる政治家や政党、国家、権力など多方面に向けられている。
辛辣な表現を繰り返すある意味非常にフランス的な出版社であるということを、追記しておく必要があるかもしれない。
アンナを含め、コンフランの子供たちの精神状態があまりに心配である。
しかも、殺害現場はアンナの家とは目と鼻の先…。
あの可愛い娘さんたちに一日も早く穏やかな笑みが戻ることを祈っている。

※あらたな情報が入り次第、加筆訂正を行います。



自分流×帝京大学

Posted by 辻 仁成

辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。